013:地元の先輩・後輩

013:地元の先輩・後輩

 俺たち華龍會は、半グレ集団である覇王一家の情報をひたすら集めまくっている。

 正直なところ真っ向から、ぶつかって潰した方が早いが、それでは仲間になった後では面倒な事が多いので、周りを囲んで逃げ道を塞いでいく。



「それで覇王一家について分かった事はあんのか? 兄貴に頼まれてから3日が経ったぞ? そろそろ結果を出さなきゃマズイ時間だ」


「まぁ半グレなんで情報管理なんてされてませんでしたよ。覇王一家のリーダーは〈宮木 正夫〉と言います」


「確か宮木ってのは、元々東京にいた奴だよな? 俺は名前なんて聞いた事ないけど」


「そうっすね、宮木は00世代らしいですよ。それから色々あり大阪に流れ着いて覇王一家の5代目総長を継いだみたいですね」



 覇王一家の基本情報として、現在は〈宮木 正夫〉が5代目総長を継いでいるが、この総長の宮木は元々は俺たちと同じで東京出身者だ。

 そして覇王一家の縄張りは、華龍會の縄張りがある大阪市北区で、収入源はボッタクリバー・オレオレ詐欺・ひったくり・薬物売買など、数多くの犯罪行為で資金を増やしているのである。

 その多額な資金力を持っていて、大和組に多くの上納金を払って四次団体の末席に加わっている。



「まぁある程度は分かったって事だな。覇王一家のアジトはわかってるんだろうな?」


「はいっ!! それならバッチリわかってます。それじゃあ遂に手を出すんですか?」


「そうだ。華龍會総出で、大阪の街を歩いている覇王一家の人間たちを潰していけ!! 俺と和馬、あとは数人でアジトに乗り込んで宮木を潰すぞ」


「了解しました!! 直ぐに伝達します!!」



 180人もいる華龍會の全員を動かして、本格的に徹底的に覇王一家を潰しにかかるのである。

 俺と和馬と数人は、別働隊として覇王一家のアジトに乗り込んで宮木を叩きに行く。

 この話は近くの百鬼会系の組織にも伝えられているので、街で暴れるのは容認されている。もしもしなければ内部抗争で面倒な事になりかねない。



「宮木はつまるところ俺たちの地元の先輩ってわけなんだよな? 俺たちと同じで、東京から逃げてきたってんなら話が合うかもしれないぞ?」


「話ができるような人間たちだとは思えないんすけどねぇ………それにヤクザにならないで、半端をやっている連中なんですよ?」


「兄貴のいう通りですよ。オヤジさんは、覚悟を決めてヤクザになっていますが、奴らはとてもじゃないですけど、極道に向いているとは思えませんよ」


「小野っ!! 良い事を言うじゃないか。それに道具なしで、敵のアジトに行くなんて危険じゃないですか?」



 小野と和馬は俺の事を心配してくれているみたいだ。

 確かに半グレと言っても覇王一家は、かなり武闘派で気性の荒い連中が多いからヤクザに物怖じしない。

 だからこそ小野と和馬は、絶対に道具を持って行った方が良いと進言してくる。



「確かにお前たちの言いたい事は痛いほど分かる………だけどな。半グレとはいえども覇王一家は、カタギの一般人なんだよ。ソイツらに道具持って行くなんて、俺たちの名が廃るだろうがよ」


「そんな綺麗事を言ってやれませんよ!! オヤジに何かあったら、元も子もないじゃないですか!!」


「綺麗事だと? テメェらは俺の任侠道を綺麗事って言いたいのか? そういう事なのか!!」


「ち 違いますよ!! 綺麗事って言ったのは、申し訳ありませんが………こればっかりは譲れません」



 半グレとはいえどもカタギの人間に、道具を向けるのは俺の任侠道に反する。だからこそ道具を持って行くなんて論外だ。

 しかし子分として小野や和馬は、引き下がるわけにはいかないので道具を持っていきたいと頭を下げる。

 ここまで子分に言われてしまったら、親分である俺が無碍にする事ができないのである。



「わかったよ。俺は持っていかないから、お前たちのどっちかがチャカを持っていけ………子分の身体検査までしてる時間はねぇからな」


「あ ありがとうございます!!」



 俺は見てない事にして子分たちが、勝手に持っていった事にしたら良いと許可を出した。

 2人は頭を下げてから急いで車を回しに外に向かう。

 そして車に乗って覇王一家のアジトに出発する。

 本当ならば車で行くほどの距離では無いが、格の違いを見せる為に乗って行く事にした。

 まさに車で5分くらいで到着したので、車から降りてスーツをピシッと着直してからアジトに近づく。

 すると見張りのチンピラが、睨みながら俺たちの方に近寄ってくるのである。



「おいっ!! ワレらは、どこの誰や!! ここはワレらみたいなガキが来るとこじゃねえぞ!!」


「テメェらこそ誰に向かって、図々しく話しかけてんだよ!!」


「まぁまぁ和馬、落ち着けって。コイツらだって下っ端としての面子があるんだから許してやれや」


「オヤジが言うなら許します」



 チンピラが絡んで来たので、和馬がチンピラの胸ぐらを掴んで一触即発のよう空気になる。

 しかし俺が許してやるように言うと、和馬はパッと手を離して俺の後ろに戻る。



「俺は百鬼会広瀬組で幹部をやっている華龍會・初代会長の花菱ってもんだ。テメェらのリーダーを連れてきてもらおうか?」


「はぁ? なにが百鬼会や。チンピラが粋がっとったらあかんで!! こっちはヤクザなんて怖う………」


「1回目の無礼は許してやるよ。なんせ人間だから失敗はするだろう………だけどよ。2回目は死刑だ」



 俺がリーダーの宮木を出すように言ったが、それを拒否して生意気な口を聞いてきたので、チンピラの顔面を綺麗にブン殴った。



「何してくれてんねん!! 俺たちが覇王一家かて分かったってんのか!!」


「知ってるわ!! お前たちこそ百鬼会を舐めてんじゃねぇのか? 小野、和馬っ!!」


「やってやります!!」


「オヤジさんの顔に泥を塗った事を後悔させてやりますよ」



 俺は小野と和馬に、ここを任せて1人でアジトの中に入って行くのである。

 もう使われなくなった机やら椅子が、たくさん積まれていて廃墟感が漂っている。

 東京にいた時は、こんな風なところに屯していたので懐かしさを感じながら先に進んでいると、ここには似つかないような高級ソファに座る男を見つけた。



「おぉアンタが覇王一家のリーダーか………地元の先輩だから敬語使った方が良いか?」


「テメェが噂で聞く華龍會の花菱か。最初は誰かと思ったが、お前の東京での話は後輩から聞いてるぞ」


「へぇまだ東京との繋がりがあるんだな。しがみついてるなんて未練がましい………そろそろ諦めたら、どうなんだよ? もうここからの再建は不可能だぞ?」


「ふざけんじゃねぇよ!! テメェは東京でも、この大阪でも成功してるから分からねぇんだよ………周りに生かされてるテメェにはな!!」



 どうやら宮木も俺の事を調べているらしく、俺が東京にいる時から知っていたみたいだ。

 そして自分と同じく東京から逃げて大阪に来たのに、こんな風に極道会では出世頭になっている事に苛立ちが隠せないみたいだ。



「そんなに俺が憎いか? お前と同じ状況なのに、環境に関しては天と地、月とスッポンくらい違うって事に」


「俺が許せねぇのは、その顔だ!! 俺は東京を出た後に、この大阪で体1つを使って生き残ってきたんだ。テメェみたいな運に恵まれたガキが、俺の方が上だって顔をしてんじゃねぇよ!!」


「この大阪で、しかも覇王一家っていう半グレ組織にしては名前が通っているチームのリーダにまでなった、アンタを少しは地元の後輩として尊敬してたのに………そんなんだから、そこ止まりなんだよ!!」


「花菱ぃ〜!! ここでブチ殺してやる!!」


「やってみろよ、ハナタレ小僧!!」



 完全に話し合いなんて雰囲気ではなくなり、拳で決着をつける方向に決まったのである。

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