014:持つべき自信
014:持つべき自信
俺と宮木のタイマンが始まった。
宮木は182cmと割と大きく筋肉質で、1発貰っただけでもダメージは大きいだろう。
しかし身長も大きいが、攻撃の振りも大きいので直ぐに見切れてしまうのである。
「おい、宮木。そんな図体デカいのに、こんなもんなんて勿体ねぇぞ!!」
「うるせぇな!! テメェこそ攻撃して来ねぇだろが」
「そんなに攻撃して欲しいのか? それなら望み通りにしてやるよ………覚悟は良いな?」
俺は宮木の実力を見たかったので、攻撃を返して来なかったが、宮木自身が攻撃してこいと言うんだ。
それに全力で応えてやらなきゃ男が廃るだろう。
そんな事を思っている俺は、一気に距離を潰して宮木の間合いに入る。綺麗に入られたもんだから、宮木は驚いて体の重心を後ろにしてしまった。
それを見逃す事なく、俺は宮木の腹に右ストレートを綺麗に打ち込むのである。
宮木はあまりの痛みから「ゔっ!?」という声を出して動きが鈍くなる。
そこで優しくなる俺では無いので、体を捻って回し蹴りを宮木の左頬にクリーンヒットさせる。さすがの宮木は地面に倒れて咳き込む。
「どうした? お前が求めた事だろ。こんなもんで倒れるんじゃねぇよ。こんなんで倒れるから、テメェは東京でも大阪でも惨めな思いをすんだよ」
「ふざけるんじゃねぇよ!! こ こんな事で、俺を否定される筋合いはねぇ………テメェに、俺の人生の何が分かるってんだよ!!」
「だから言ってんだ!! テメェの事なんてテメェしか分からねぇのは当然だろうがよ!! 俺だって東京から逃げてきけど、お前と立場が同じだと思うか? 同じなんて言わせねぇよ。テメェは逃げただけなんだよ!!」
どうも宮木は卑屈になり過ぎている。
そりゃあ真面目の裏返しなのは理解できるが、ここまで頭が硬いと自分の殻に閉じこもって人を寄せ付ける事ができなくなってしまう。
その殻に閉じこもる時に使う言葉が「俺なんて」「お前にわかってたまるか」などの言葉だ。
こんな言葉を使っているうちは、どれだけの仲間や金を手に入れたところで、本当の意味の成功なんて手に入れられるわけがないのである。
まぁ宮木に何があったのかは知らないから、そこだけが引っかかるところではあるけどな。
「なぁ宮木よ。テメェは東京で何があったんだ? ここまで強かったら、それこそ半グレ連中だって着いてくるだろ。それなのに大阪まで逃げる事になったって、一体何があったんだよ」
「ちっ。俺が高校生を卒業した後の話だ………高校時代から喧嘩に明け暮れて、高校生の時から愚連隊のリーダーをやってたんだよ。だけどよ、高校を卒業した途端に仲間だったはずの人間が、俺の事を地元の半グレのリーダーにありやがったんだよ!!」
「お前、仲間に裏切られたのか? なんで仲間だった奴が、お前を裏切るんだよ?」
「金だよ、金っ!! 半グレのリーダーだった奴は、俺が気に入らなかったらしくって………金で仲間を買ってたんだよ。その後は金に釣られた仲間だった奴が、家族にまで追い込みかけやがって母さんと妹は自殺した」
コイツも悲しい悲劇の被害者だったんだ。
どうしてボッタクリや窃盗やオレオレ詐欺など、金を集める事だけに執着しているのか。
コイツは金で仲間を奪われたから、自分も同じように金で仲間を繋ぎ止めようとしていたんだ。それでしか仲間ができないと心に刻まれているからだ。
俺の目の前に倒れている敵だと思った奴は、まさしくこの世界が産んだであろう被害者だった。
この話を聞いたら、周りの人間たちは同情したり悲しくなったりするだろう。しかしそんなんで、コイツの傷が治るわけが無い。
「宮木っ!! 俺の舎弟になれ。そして華龍會の舎弟頭として会に尽力して欲しい………お前は頭が良いし、喧嘩だって強いだろ」
「ふざけんじゃねえ……俺に同情でもしてんのか!! こんな事で仲間になるわけねぇだろ!!」
「同情だと? そんなもんしてるわけねぇだろ。どうして金で仲間を買われたか分かるか? それはテメェが、その程度の付き合い方しかして来なかったからだ」
そうだ、コイツに必要なのは同情じゃない。
宮木が落ちているところまで降りて、手を差し伸ばしてくれる人間なのだろう。
コイツの目を見ていれば分かる。
こんな奴が本当の意味で、悪人になれるわけが無いと俺の勘が言っている。俺の勘は昔から当たる。
とにかく教えてやらなきゃならない。
「仲間ってのは作ろうとしてできるもんじゃねえよ。そんな簡単にできれば苦労はしねえ………仲間ってのは、いつの間にかできてるもんなんだよ!! テメェが自分の事を信じて、さらには周りの人間たちを信じれば、気がついた時には後ろに仲間がいるんだよ」
「それが本当の仲間だって言いてぇのか? そんなの綺麗事じゃねえかよ………」
「綺麗事じゃねえよ。まずテメェ、自分の事を信じれてねえじゃねぇかよ。半グレやるよりも自分の事を信じて腕っぷし1つで、てっぺんを目指す生き方だってできたはずなのにしなかったろ」
宮木は自分の事を誰よりも信用して居ない。
だから極道なんてやっても通用しないという結論に出てしまい。さらには、その自信のなさが態度にも出てきてしまって仲間ができないのだ。
まずは自分の事を信用できない人間に、仲間なんてできるわけが無いんだ。
自信が無いのは、別に良いんだよ。
それでも最後に行動する原動力は、自分ならやれるという信じる力だと俺は思っている。そこが宮木に、大きく欠けているところで、本当の意味での仲間ができなかった理由だと思っている。
「なぁ宮木さんよ。同郷として、同じ半グレだった人間としての提案だ………俺の舎弟にならないか? ウチのところは面倒な連中は多いが、前にいたところみたいに金で繋がってるわけじゃねぇんだ」
「こんな弱音を吐くのは嫌なんだけどよ………もう怖いんだよ。家族が首を吊った時の事、仲間が金を握ってニヤニヤしていた時の事も………もう何もかも怖いんだ」
やっと宮木は自分の心に素直になったのか、涙を流しながら心の内を話してくれた。
「良いか? 恐怖心ってのは、どうやったって払えるもんじゃねえんだ………というか、恐怖心を知っている人間は持っていない人間よりも恵まれてんだぞ?」
「それって、どういう意味だよ………」
「恐怖心を持っているという事は、物事を大切に検討する能力があるという事だ。それを持っていないネジの外れた人間なんかよりも数千倍はマシだろうな」
恐怖心を上手く利用する事ができれば、この世界を上手く渡る事ができると考えている。
というか恐怖心を知らない頭のネジが飛んだ奴なんかよりも良いって話だけどな。
「本当に俺を……お前を信じれば、こんな思いをしないで進む事ができるのか?」
「さぁそれは分からないが、俺たちが後ろと横から支えてやるよ。これだけは約束してやる」
「(あぁ俺が着いて人間は、ここにいたんだな)分かりました。こんな俺でも人の為にやれるのならば、花菱兄貴の為に粉骨砕身やらせていただきます………」
「うん。これからよろしくな宮木」
俺の考えに賛同してくれて宮木は、俺の舎弟となり華龍會入りを決めてくれたのである。
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