012:オヤジとオジキ

012:オヤジとオジキ

 兄貴が用意したという事務所は完璧に、大和組のシマ内にあったのである。



「兄貴、お疲れ様です!! それにしても中々のところに事務所かまえましたね!!」


「おう、お疲れ様。ええとこやろ? ここなら大和組の動きが丸わかりなんやで」


「さすがは兄貴ですね!! これなら大和組と黙っていられないはずっすね」


「そういうたら半グレの方は、どうなってん? 確かケツモチが大和組っ言うてへんかったか?」


「その通りっす。和馬が言うようには、ボコボコにしたら捨て台詞を吐いて逃げてったって言ってましたよ」



 兄貴は思い出したように、今朝方に起きた華龍會事務所襲撃の話を出した。その半グレたちのケツモチが、大和組だという事を気にしているみたいだ。

 大阪の不良では、それなりに有名な半グレ集団だったらしいが、和馬たちによって鎮圧され逃げていったと兄貴に伝える。すると兄貴は、何かを考えるかのように少し黙ってから口を開いた。



「せやったら大和組がケツモチの、その半グレたちを花菱の華龍會傘下に入れてみぃ」


「えっ? その半グレたちを俺たちの参加にですか?」


「半グレには武力行使がええし、それに半グレをまとめるって言うたら、華龍會の花菱さんやん?(笑)」


「確かに半グレをまとめ上げるのは得意っす!!(笑) それじゃあ俺は直ぐに、大阪に行って潰してきます」



 兄貴の事務所に来たところだったが、兄貴のいう事を聞いて大阪に戻る事にした。

 俺は直ぐに車を回してくるように言った。

 そしてワゴン車に乗って大阪に戻る。



「小野。朝から色々と申し訳ねぇな」


「何言ってんすか、オヤジさん。オヤジさんは、俺たちなんかよりも凄い仕事をしたんすよ」


「凄い仕事って、ただ喧嘩を売りに行っただけじゃねぇかよ。それのどこが凄いんだ?」


「事務所に乗り込んで、啖呵を切るなんて普通の胆力じゃあ無理ですよ? それに幹部連中に囲まれた時なんて震えが止まりませんでした」


「そうか? まぁ褒められるのは嬉しいわ………さぁ大阪に帰って、もう一仕事だ」



 無口なイメージがある小野が、自分の心の中にある気持ちを伝えてくれた。驚きはしたが、そんな風に思ってくれているのは嬉しかった。

 そこから大阪に帰るまで、車の中で小野と色々な事を話し合ったのである。

 小野の親父もヤクザだったらしく、オヤジと五分の兄弟分だったらしいが、抗争中に亡くなってしまったというのである。



「まぁヤクザをやっていたのは知ってたので、いつかは死ぬと思ってました。なので、そこまで悲しかったなんて事は無かったすね」


「そうだったのか。じゃあ親父さんの分まで、この世界を突き詰めていけば良いさ」


「はい。オヤジさんの背中を見させていただき勉強します………あっオヤジさん。そろそろ事務所に着きます」



 小野と話していたら、直ぐに大阪の事務所に到着するのである。先に和馬に連絡していたので、俺の乗っている車が到着すると、若い衆たちと共に出迎えをする。



『お疲れ様ですっ!!!』


「おう、和馬。メールで伝えてあるとは思うが、例の半グレたちを徹底的に調べ上げろ。俺の盃をやって半グレから卒業させっからな」


「はいっ!! 早速、若いもんを使って調べ上げてますが、なにぶん大阪に慣れてないもんで少し苦労してるみたいっすね」


「そうか。それなら周りの人間にも頼れ、そうすれば良い仕事が周りからも流れてくるぞ。とりあえずは、お前たちに情報収集を任せるから、俺はオヤジのところに報告しにいくわ」


「了解しました!!」



 俺は情報収集を和馬と小野たちに任せて、オヤジのところに報告に向かう。

 小野が車を出すというのだが、そこら辺でタクシーを拾って行くからと申し出を断った。そこそこ不満そうな顔をしていたが、俺が「本当に大丈夫だから、俺がガキに見えるのか?」と言ったら引き下がった。

 さすがの俺でも疲れたのだから小野だって、顔には出していないが疲れているはずだ。それなら楽そうな情報収集の方に回した方が良い。

 そんな風に馬鹿なりに考えて気を遣った。

 自分が誇らしいと思いながらオヤジの事務所に到着して、若い衆に挨拶してからオヤジの部屋を訪れる。

 ノックをしてから頭を下げて部屋の中に入ると、客人用のソファに、オヤジよりヤクザに向いている強面のオッサンが座っていたのである。



「なんや、思たよりも早よ終わったんやな。いや、なんかあって戻ってきたんか?」


「いえ兄貴のいう通りにやったら、上手く抗争の火種は作れました………それでオヤジ、そちらの方は?」


「おぉ!! そうやったな。コイツは今度、俺と一緒に直参になる山﨑組の〈山﨑 悠一〉だ。山﨑とは俺が少し上の兄弟分や」


「ほぉこの若いのが、兄貴の言っていた秘密兵器の1人ってわけだな? さすがは兄貴だ。中々良い若い奴を持ってるもんだ………どっちが俺にくれないか?」


「あげるわけあれへんやろ!!(笑) コイツらは、これからの広瀬組を引っ張っていく逸材やねんから!!」



 直参と言ったか?

 オヤジが直参に上がるなんて、さすがはオヤジって感じで、この山﨑のオジキも凄い人なんだと分かった。

 俺は深々と頭を下げて「オヤジも山﨑のオジキも直参おめでとうございます」と声をかけた。



「それで報告って言うても終わってからで良うないか? わざわざ大阪に戻ってくるなんて、また青山に頼まれたのか?」


「はい。兄貴には大和組がケツモチをやっている半グレを、華龍會に取り込めっていう指示がありました。なので、奈良から戻ってきました」


「ほぉ半グレをまとめろって言われたのか。確かに今朝方に、事務所が襲撃されたんだって? ここら辺を仕切ってる半グレ組織って言ったら、〈宮木 正夫〉がリーダーしてるっていう《覇王一家》か?」


「はい、そうです。どうも半グレってだけもあって、カタギの人を中心に搾り取ってるみたいっすね。しかもケツモチが大和組なんで」



 オヤジはオジキに事務所を襲われた事を話していたみたいで、覇王一家についても知っていた。

 俺も軽く小野から車の中で話を聞いただけだったが、カタギを中心に詐欺や恐喝事件を多く起こしていると聞いたのである。

 やっぱり半グレというのは、ヤクザもそうだがカタギにも容易に手を出せるから怖いところだ。まぁ俺たちにみたいにカタギに手を出さない半グレの方が、珍しいといえば珍しいか。



「俺はオジキって立場ではあるが、カタギに手を出すようなカスは、お前のところで指導してやれ!!」


「兄弟の言うた通りや。半グレを束ねて厚生さすのも極道としての務めだ!! そこを分かってる花菱にこそ、この仕事ができると青山は任せたんやろう」


「その期待に応えられるよう全力でやらさせていただきます。そして百鬼会の為にも関西統一に向けて尽力させていただきます!!」



 俺はオヤジとオジキに全力でやるという意思表示をしてから、広瀬組の事務所を後にするのである。

 そして俺も本格的に、半グレ集団である覇王一家を吸収する為に動き出す。

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