自殺する彼女を止めたら、彼女ができた話。

ビートルズキン

第1話 突然のこと。

 「はぁ……だるい」

 俺はそう独り言を言ってポカリを一口飲む。

 そしてポカリのペットボトルを捨てて、改札で定期をタッチしてぬけて電車を待つ。

 俺の仕事は終わった。

 どうでもいい営業の仕事だった。

 また先輩に案件がいって先輩に営業成績で抜かれるだろう。

 疲れたぁとため息をこぼす。

 何気なくあたりを見回す。

 近くに綺麗な女学生がいた。

 長すぎない黒髪に黒い瞳。

 セーラー服が夏服だった。

 こんな時間に学生とは珍しいなと思いつつ、俺はボーッとして次の電車を待つ。

 そういえばこの学生、カバンを持っていないけど……とどうでもいい事に気が付いた次の瞬間だった。

 勢いよく彼女は線路の方へ走りだそうとしたのだった。

 俺はその瞬間に彼女の肩をつかむ。

 「—————っ!」

 彼女は驚いて振り向く。

 その瞳には涙がこぼれ落ちそうになっていた。

 「危ないよ」と俺は真顔で言い放つ。

 「————っ」彼女はとても顔を真っ赤にして改札を抜けていった。

 「何がしたいんだか……」

 まぁ自殺したいのだろうけどやめておいた方がいいだろう。

 美少女が死ぬのはもったいない。

 まぁ他の人が死ぬのもなんだかもったいない気がしてならないのだけれど。

 そして次の日。

 今日は休日。

 朝の始発の電車に乗ろうと考える。

 どこか遠くへ旅に行こうかと考えていた。

 始発に乗ってから何を考えて過ごそうかとどうでもいいことを考えながら、目の前にまた昨日の女子高生がいた。

 またセーラー服でカバンを持っていない。

 …………面倒くさい。

 また彼女がどういうわけか線路の中に入ろうとしたので俺は止める。

 「危ないよ」

 「—————っもう」

 「もう?」

 「なんなんですか!?」

 「うおっと」

 急に端正な顔が近づいてドキドキする。

 どうでもいいけどめっちゃいい匂い。

 ほえぇと動揺していると彼女の方が堰を切ったように話し始めた。

 「なんで邪魔するんですか!死なせてください!バカバカ!バカっ!」

 「いや、別に危ないから止めただけなんだけど」

 「からかっているんですか?」

 「いや別に(真顔)」

 「~~~~っ」

 彼女はまた顔を真っ赤にしてどこかへ去ろうとしたので俺は思わずその肩をつかむ。

 「なんですか!?」

 「いやちょっと俺の話聞いてくれる?」

 「はぁ?」

 「俺さぁ、仕事場でうざい上司と先輩に挟まれてさぁ、つらいし死にてぇし仕事とかもうやめようかなとか考えているんだよね」

 「…………」

 「話ついでにコンビニでアイス奢るよ。それすんだらもう止めない」

 彼女は渋々といった感じで俺についていってめちゃくちゃ高級なアイスを購入しやがった。

 まぁ別にいいんだけどさ。

 ていうか今日めちゃくちゃ暑いし。

 「話聞いてくれて助かったよ、じゃあね」

 そういって俺は駅に戻る。俺の旅路は始まってもいないのだ。

 彼女はというと、とぼとぼと自分の家へと帰っていった。

 俺はなんだかとても悪いことをしたような気がしてならないが、別にいいことをした方だと思う。

 なぜだか心の中にはちくっと棘が刺さったような感じがしたけど。

 やっぱり命は大事だな、うんうん。

 そう頭の中で納得して俺はガリガリ君を食べる。

 美味しいいぃかもぉおおお。

 それまた次の日。

 電車の中でボーッとしていると自殺しようとした彼女が俺のことを知ってか知らずか俺の隣に座る。

 まぁどうでもいいんだけど。

 俺は動こうか少し迷ったが列車の中はとても混雑しているし、動きたくなかったので俺は無言を貫く。

 「あの後……」

 「うん?」

 「あの後、私が自殺したら止めましたか?」

 「たぶん」

 「そうですか……あの」

 「うん?」

 「この後時間少しいいですか?この前のお礼がしたくて」

 「うん」

 俺は最低限の会話で済ませる。

 結局のところ……何だったけ。

 俺は帰りそうになるのをぐっとこらえて彼女とコンビニに行く。

 そして彼女のおごりで俺はハンバーガーを食べながら外を歩く。

 彼女も俺の隣を歩く。

 「別に気にしなくていいのに」

 「そんなわけには…………いきませんから」

 「これでチャラね……それじゃあ」

 俺はそういって適当に手を振るが彼女は俺の傍から離れない。

 「あの…………聴かないんですか?」

 「何を?」

 「自殺した理由です」

 「興味ない……でも目の前で死なれるのはさすがに気分が悪い」

 「そうですか」

 「俺も死にてぇなぁって時はあるよ。ていうか今もそう」

 「?」

 「こんな美人と一緒に歩いたら何疑われるかわかったもんじゃない」

 「美人てそんな」

 「まぁ君がいて俺は助かったよ。話し相手がいるのは気分がいいよ。真面目で繊細な君ならもっとうまくやれるよ。俺なんかより」

 「…………」

 「それじゃあこのあたりで」

 「えっと……」

 「うん?」

 「これ私の電話番号です!」

 そういって彼女は俺にメモを渡す。

 「また死にたくなるかもしれませんから責任取って止めてください!」

 「はいはい」

 俺は笑ってバスに乗った。

 彼女も笑って俺に手を振った。

 やはり美少女は笑うに限る。

 ちょっと変な子だけど。

 

 そうして俺たちは連絡して暇つぶしに出かけることになって、それがだんだん楽しくなってきて、しまいには彼女にはこう言われるのだった。


 「私が死ぬのを止めるのに一生を使ってください!」

 今思えば本当に変な子だと思う。

 でもそれは今となってはとても愛おしい。

 

 ——————了。

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