『演出家』作:霧影一族の桃花(つきげ)
「あの人は太陽で、僕らはその光に惹かれて群がる虫だったんです。僕らがあの人の隣に立てる未来なんてどこにも存在しなくて、あの人は何時だって一人で輝けるんです」
「それで?それを俺に言ってどうしたいんだ?」
「先生わかりませんか?僕らはこの劇の主役はあの人でないといけないと思っているんですよ。それをなんで……なんで違う人にしたんですか!」
「なんだ?本格的な劇も知らずに、お遊びのような劇しかしたことがないお前らが、劇を見守り続けた俺の決定に文句があるのか?」
「くっ!しかし、あの人は去年、主役をしていた。それを決めたのは先生ですよね!なんで今年は!」
「それは、去年の題材があいつに合っていたからだ。今回は題材が違う。もちろん合う主役も違う。だからあいつは今回の主役にはなれない。わかったか?」
「では、去年と同じような題材にしてくださいよ!僕らはあの人が主役じゃないと、納得できません!」
「はぁ本当に甘い。甘すぎる。部内の雰囲気を一新するためにもこの題材を選んだ。これは決定だ」
「しかし!」
「うるさい。劇が一人じゃできねぇんだよ。その意味をよく考えろ」
「……わかりました。今日のところは帰ります」
「ふぅやっと帰ったか。面倒だけど、仕方がねぇ。これは去年の俺があいつを主役にしてしまった代償だ。俺もまだまだだな」
去年、とてつもないスター性を持つあいつがやってきた。俺はどうしてもあいつの持つスター性を劇で魅せたかった。台本を選び、あいつの指導も的確にした。そして無事、劇は成功した。成功しすぎてしまった。多くの人があいつに魅せられすぎていた。そいつの影響で新しく入った部員も、元からいる部員も、焦げたようにダメになっていた。そして、あいつ自身からの相談が来た。
「先生、私を主役じゃなくできますか?」
俺はその言葉を聞いて自責の念に駆られた。あんなに頑張らなければよかったと後悔した。
「それは違いますよ先生。私はあの劇楽しかったですよ。しかし、今の期待が重すぎて」
それを聞いて俺は安心した。だから、この時強く決意した。お前を脇役にする最高の劇をやってやる。
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