恋は盲目

私の名前は川北空。春から高校2年生の普通の女の子!今日は私にとって大事な日。だって、1年先輩の新島先輩に告白するんだから!!!



放課後の教室。外は赤み始め、運動部と吹奏楽部の音はより一層増していた。先程まで居残りをしていたのであろう生徒たちもいなくなり、教室内は川北と新島だけの空間になっていた。しかし、教室内の静寂とは違い川北の鼓動は今にも破裂しそうなほど早いスピードで脈を打っていた。

カキーンとグラウンドから快音が響く。「おー、ここまで聞こえてくるんだね。ホームランなのかは知らないけど。」と笑みを浮かべ話す新島だったが、緊張のあまりそんな音など耳に入ってこなかった川北は「ん?えっ、そうなのかな?」と答えにならない答えを言ってしまった。「で、川北さん?だっけ?こんなところに呼び出してどうしたの?」と質問する先輩を見て焦ってしまい「あの、先輩!実は1年生の頃から好きでした!付き合ってください!」と口早に告白してしまった。有名な芸能人も言ってたように告白というのはお笑いとかと同じで、間が重要なのである。つまり、今この状況において焦って気持ちを伝えるなど言語道断。こんな初歩的ミスで断られたら、これからの高校生活は灰色一色だ。それほどまでに高校生、若者にとって「恋人がいる」というのは生きるモチベーションに繋がるのだ。大事な局面、新島は______


「えっ、まじで!じゃ...こちらこそよろしくお願いします!」


と軽い返事をした。



ある日の放課後。

「先輩はラタバの新作飲みました?」と聞く川北に「もう、先輩じゃなくて良いし。タメでも良いよ。」とにこやかに言う新島。


「ねぇ、恋してる?」


二人のすぐ後ろから声がし、振り向くとそこには汚らしい格好をした年齢不詳の女と思われる人間が立っていた。それが「ねぇ、あんたたち恋してる?ねぇ、エッチした?」と言いながら歩いてくる。「あっ、あぁ...空!逃げるぞ!なぁ空!」と新島は声を荒げて言うが川北は恐怖のあまり固まっていた。それは依然として「ねぇ、どっちが攻め?ねぇ、キスした?」とか言いながら歩いてくる。川北は得体の知れない恐怖に襲われ、時間が遅く流れてるように感じていた。いよいよ逃げなければそれに捕まる間合いになったその時、「空ぁ!」という新島の呼びかけでなんとか我を取り戻した川北。「空!逃げるぞ!」という新島の言葉に頷き、走り出した。無我夢中で走ったため、位置を把握していなかったが通っている学校の近くまで来たらしい。「はぁはぁ、先生にぃ、た..助けを求めよう。」という新島の提案に川北は頷き。学校まで足速に向かった。



職員室。

学校では居残りをしている生徒やわずかではあるが先生もいて対処してくれることになった。実害は出ていないものの被害者ではある2人は斉藤という先生付き添いのもと警察に行くことになった。「しかし斉藤先生かぁ、あの人頼らないじゃん。なんか、顔が。」と安堵からか冗談を言った新島を見て川北の顔にも笑みが溢れた。「いやぁ、これでひとまずではあるけど安心だね。てか、警察署初めて行くかも。」と積極的に話をしてくれる新島に「何か、色々と本当にあり...」と川北が感謝を述べようとした瞬間にガラガラと扉が開いた。「よし、じゃ行きま...えっ?」と言葉を詰まらせる新島。


「ねぇ、愛してる?」


馴染ませたくなかった声が職員室を包む。2人の視線の先にはあれがいた。絶望より先に足が動いた2人。出口となる扉1つ。動いたのは新島だった。「俺、空が好きだよ。多分、この先もずっと。」と言い、「お前のセフレは俺だぁぁぁ!」と叫びながら新島はあれを出口とは対角のところにおびき寄せた。川北にいくつもの選択肢が生まれた。しかし、どれもが新島の行動を無駄にしてしまうものだった。川北は逃げた。居残りをしていたであろう生徒が呼びかけるのも無視してただひたすらに。涙が溢れてもさっきの答えを探していた。自分への後ろめたさは増すばかりだった______



私は立ち止まった。もう私の頭には逃げ切るなんて考えなどなかった。今あるのはあいつと出会った後悔、先輩を失った後悔、そして何も言わずに自然消滅のように終わらせてしまった自分への怒り。私は普通の女の子だ。普通に生きて、普通に恋して、普通に死にたい。ただそれだけ。行かなきゃ。私の足はそう考えるより先に学校へと向かった。先輩の行動が無駄になってしまうことよりも、先輩と過ごした時間が無駄になってしまう方が嫌だった。自分勝手なのは自覚してる。でも、私は好きだったから。こんなのじゃ終われない。あいつを殺してやっと終了。あぁ、色々と行きたかったな...



校門に入ると学校の玄関からあいつが出てきた。校舎をよく見ると窓に血がついてるように見える。あいつが殺したんだ。みんなを。怒りよりも同情の意識が芽生え、思わず「あんたも可哀想だね。恋に囚われ、正常な判断ができないなんて...意外と私たち似てるかもね。はは、恋は盲目とはこのことだわ。」と言ってしまった。しかしあいつは「ねぇ、エッチした?エッチ?エッチ良かった?良かったよね?」とまだ意味のわからないことを言っている。やるしかない。覚悟を決めた。



ピューーーー。見えなくともわかるこれは大量出血だ。彼女との勝負に負けた。勝負なんて言ったもんじゃない。近づくたびに圧倒的な恐怖を感じ、気づいたら目を潰されていた。多分彼女は人間じゃない。でも今はそんなことなどどうでも良い。ここに来た本当の理由。飛びゆく意識の中私は「せn...悠太!...さん!さようなら!私も好きでした!!!」と叫んだ______

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