恋愛短編集
かみさき はると
愛多憎生
午後のテニスコート、木も花も揺れる強風だってのに何一つなびいていない女が一人。そこを横切る人たちは皆、その女の不可解さに気づかない。気づかないのではなく見えないからだ。
そこに"タッタッタッ"と音を立てながら走ってきた男が「麗子さん、あの人で間違いないですか?」と"見えないはずの"女に問う。女は「はい、あの人です。和彦さん、間違いありません。あの人が私を...」と言葉を詰まらせながら答えた。「麗子さん、あなたの無念は必ず晴らしてみせます。」と和彦は見えてなかった男のもとに走って行き、___________
気づいた時には恋に落ちていた。その日を覚えてなどいないが一目惚れだった。いつも顔だけ思い出せない、幽霊。麗子さんからのお願いは達成してしまったため、もう会うことはないだろうと思っていたが、彼女は今日もテニスコートにいた。「麗子さん、彼は事故として調査されているらしいです。これで安心ですね。」と言うと「はい、これで無念なく天国へ行けます。」と優しい声で返してきた。例え、フェンス越しでも会える時間は楽しかった。「麗子さん、本当に行っちゃうの?俺なんだか寂しいよ。」「でも、私幽霊だから。」少しの沈黙。このままさよならは悲しい。だが、それ以上に人を殺めたことに対する後ろめたさも出てきてしまい「最後に一つだけ質問。というより確認なんですけど、俺正しかったんですよね?」とラインを超えた質問をしてしまった。彼女は「あなたは私の正義のヒーローです。助かりました。本当にありがとうございました。」なんて言ったがどうも嘘くささがある。前々から薄々感じていたが、この人は得体の知れない恐ろしさがある。幽霊としてではなく人間味として、詐欺師みたいなそういう、なんてことを考えてしまい思わず「まさかですけど麗子さん、あなた殺されてないなんて事ありませんよね?」と失礼にも程がある質問をしてしまった。すると彼女は「ふっ」と吹き出し、「あはははははは!」と笑い出した。予想外の反応に戸惑っていると「あなた、おっかしい〜。私、殺されたなんて一言も言ってないですよ〜。あははは!」と言われ、彼女は一度も殺されたなんてことは言わずに、最後を有耶無耶にして話していたことに気づいた。「まさか、ハメたんですか?なんで、あの人を...」「でも、嫌なことされたのは本当ですよ。てか、第一にあなた、私のことを調べてもないのに身勝手な正義ぶら下げて殺しをしてしまうなんて、あなたさてはおバカさんでしょ?」と俺の言葉を遮り煽ってきた。「麗子さん、俺はあんたのためになろうとしてたのに、あんたって野郎は...もう、わかりました。今から自首してきます。さようなら。」と言って俺はその場から離れた。
「ぷぷぷぷぷ、はぁ〜面白かった。」と麗子が嘲笑うように呟いていると、そこに男が走って近づいてきて「今の男、あいつが麗子さんの言っていた和彦ってやつですか?」と問い、「はい、あの人が私を...」と"美しき"麗子は答えた。
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