第44話 隆太様、ごめんなさい

 ──


 そしてあの話し合いから二日目……俺は松丸さん、滝宮さんと一緒に部室で作戦会議を行っていた。


「あとは音ノ葉だけだな……あいつさえ止めれば、完全に催眠は消せる」


「……というか江野、私らはまだ催眠アプリ消してないんだが……済んだことになってるのか?」


「はい。松丸さんはもう催眠無しでもエッチな本買えるようになったし、滝宮さんもスペード先生に成人向け漫画描いてもらうお願い出来ましたし。もう二人とも使うつもりもないでしょう?」


 俺がそう言うと、二人は顔を見合わせて。


「……うん。私はもう催眠には頼らないで生きていけるよ」


「まぁ……私も私利私欲のためには、もう使わないでいいかもな」


「なら良かったです。それで音ノ葉に話を戻すけど……あいつは何に使うつもりなんでしょうか?」


 一応今日も後を追ってみたが、催眠を使う素振りは見せなかった……なのに一番消したくなさそうだったし。何を企んでいるんだろうな? そこで松丸さんがこんなことを口にして。


「分からないけど……音ノ葉ちゃん、最近何か悩んでる感じだったよ」


「悩み?」


「うん。なんだか元気が無い気がするの。今日だって部活にも来てないし……」


 確かにあいつは催眠撲滅の時だって、部活を休むことは全く無かった。なのにあの会議から一度も来てないから、何かあるのには違いないだろう。


「なら、催眠で聞いてみればいいんじゃないか?」


「そんなことして失敗したら、今以上に不信感を募らせて、催眠アプリを消すことに消極的になってしまいます……だから俺らは催眠を使わずに、アイツのやろうとしてることを止めて。アプリを消してもらわなきゃいけないんです」


「でもそんなことが出来るのかな……?」


 もちろんそんなことは簡単じゃないだろうが……こんな時、いつも妙案を思いつくのは我らが部長で。


「……ああ。そうだ、良い考えを思いついた」


「本当ですか!」


 ──

 ──


 ──音ノ葉視点──


 あの話から今日で三日目。催眠を使わせてくれるのは今日までだ。だから……だから頑張って。一欠片の勇気を出すんだ、私。


「…………」


 私は隆太様を屋上に呼び出すメッセージを送った後、そこでずっと待機していた。どうしてでしょう……いつもならこんな緊張することないのに、今日は心臓の音が鳴り止みません。ひょっとして、怯えてるんでしょうか……。


「……ううん」


 ……でも、チャンスは今日までです。やると決めた以上……怖くても、隆太様の本音を聞き出さなきゃいけません。それがどんな結果になろうとも……!


 ……そして数分後。屋上の重たい扉の開く音がして。そこからは、いつもと隆太様の姿が現れて。


「音ノ葉ー? こんなところまで呼び出してどうした?」


 そう言いながら、私の元へ近づいてきた。でもどうしてでしょう……上手く言葉が出てきません。


「えっと、りゅ、隆太様……呼び出したのは、その……」


「ん? お前、顔赤いぞ。熱でもあるのか?」


「ひゃっ……!?」


 隆太様は私に顔を近づけて、おでこに手を当てる。こんな些細な動作にもドキドキして、心臓が口から飛び出してきそうです。


「……どうした? いつもなら喜んで頭擦り付けてくるだろ?」


 そんな私の様子を不思議そうに、隆太様は見てくる。確かにいつもの私なら、抱きつきながら頭を押し付けるでしょうけど……今日はそんな余裕無いんです。


「……」


「というか早く本題に入ってくれよ。俺、今日は用事あるんだから」


 隆太様はそうやって催促してくる。これ以上変な様子だと、警戒されてしまうかもしれないから……今、このタイミングでやるしかないんだ。


「……隆太様、ごめんなさい」


「え? 何を謝って────」


「えいっ……!!」


 私は隠し持っていた催眠アプリを、隆太様に見せつけるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る