第42話 謝らないでよ!!!!

 そりゃそうだろ。いくら催眠撲滅を共にした仲間とはいえ、催眠持ちは何をしでかすか分かったものじゃない……善人が悪に染まって、男子に手を出そうとした例を俺は何度も見てきたんだ。


 もちろんみんなのことは信じてるよ。でもこれは信じてるが故の行動で……限りなく低い可能性を、0にする為の行動なのだ。というわけで……今日は松丸さんの後を追っていた。


 同時に三人を監視することは出来ないからな。順番にだ……最初に松丸さんを選んだ理由は、一番催眠使ってたら嫌だなって思ったからな。あの温厚で優しい松丸さんが、裏で催眠かけて男とバチバチにエロいことしてたらショックで立ち直れないもん。


「……」


 さて、帰り道を追ってるけど……どこに向かってるんだ? なんか妙に早足なのが気になるけど……そしてどんどん歩いていって、駅前の通りまでやって来て。そのまま松丸さんは本屋さんの中に入っていった。


 本屋……普通に買い物に来ただけかな。でもまぁ本屋にいる男の子に催眠をかけないとも限らないから、念の為確認しておくか。


 俺も後をついて行って、本屋の中に入っていった。するとどうやら松丸さんは漫画本のコーナーにいて……意外だな。文芸部でもよく小説読んでるから、てっきり小説を買うと思ってたのに。


「ん……?」


 でも松丸さんの行動は妙で……ずっと漫画本のコーナーを行ったり来たりを繰り返していた。一体何をしているんだ……? そして数分ウロウロした後、別のコーナーに行ったかと思えば、また漫画のところに戻ってきて……。


 ……本当になんなんだ? いい加減声かけようか迷ったけど、それだと尾行した意味ないしな……ここまで付き合ったんなら、最後まで見届けよう。思った俺は、松丸さんの監視を続けた。


 そしたら松丸さんは、とある棚の前で止まって……スマホを取り出して、警戒するように左右を見渡し始めた…………ま、まさか! 松丸さん、万引きしようとしてるんじゃないだろうか……!?


 い、いやいや……そんなことはしないはず……! でもあの構え、マジで盗もうとしてる人の構えだよ!! ど、どうしよう……と思ってる間に、松丸さんが本を手にした。マズイ……! 友達が犯罪者になる前に、俺が止めなくては……!!


 急いで俺は駆け出して、松丸さんの前に立ちふさがった。すると彼女は「きゃあああああっ!!」っと悲鳴に近い大声をあげて、本をばら撒き、その場に転倒するのだった。そんな彼女に向かって俺は問い詰めて。


「松丸さん! 君は一体何をしようとしていたんだ!」


「え、えへぇ……!? そ、それは……えっと……その……!」


「言えないのか? 言えないようなことなのか!?」


「え、えと。ち、違くて……えっと、そ、その……わ、私……」


 松丸さんは顔を真っ赤にして、か細い声で喋る……はぁ。変なことしようとしてたとは言え、なんとか未遂で収まったか。これならギリギリ問題にはならないだろう…………って。あれ? この松丸さんが手にしていたこの本って……。


「これは……『とらぶるシャイニング?」


「…………!!!!!」


 確かこの本は、元の世界で超人気だったお色気漫画……の男バージョンか。イケメンキャラ達のラッキースケベシーンがよく話題になっていたな。まぁセクシーが故に、買うのにはちょっと勇気がいるかもしれないが……ん、勇気?


「ッ~…………!!!」


「……松丸さん。もしかして。これ、買う勇気がずっと出なかっただけ?」


 すると松丸さんはその真っ赤なほっぺのまま、こう口にして……。


「……うん。そう……そうだよ!!! 学校帰りに誰にもバレないようにって、急いで来たけど中々買う勇気出なくて……!! それで何か真面目な本で挟んで買おうと思ったけど、やっぱもったいないと思って!! だから急いでレジ持っていこうと思ったんだけど……!!」


「……」


 だからあんな変な動きしてたんだ…………うん。なんか非常に申し訳ないことしちゃったな。だって前世で言うなら、ちょっとエッチな本を買おうとしてるところを、同じ学校の後輩女子に見られたってシーンと同じだよな。それはちょっと……恥ずかしいかもな。


「……いやでも。そのスマホはなんで構えてるんだよ」


「これは……! 万が一誰かに見られた時に、忘れてもらおうって思って……!! で、でも転んじゃったし!! 江野君だからもうかけられないし!!」


「…………ごめん」


「謝らないでよ!!!」


 松丸さんのこんな大声初めて聞いた……そしてそんなやり取りをしていた俺らは非常に目立っていたのか、一人の店員さんが俺らに近づいてきて。


「あの……お客様。店内ではお静かにしてもらえると助かります」


「あっ、すみません……」


「…………はは」


 そして松丸さんはもう吹っ切れたのか。俺が見てるのもお構いなしに、とらぶるシャイニングを棚にある分全部抱えて、レジまで持っていくのだった。その後ろ姿は……なんだかとても大きく見えた。


「……成長したね。松丸さん」

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