第40話 消せよ!!!!

 ──


 次の日の放課後、文芸部部室……あいも変わらず、部員は全員揃っていて。


「出席は自由で良いと言ったはずだが……なぜ皆来ているんだい?」


 分厚い推理小説を片手に、滝宮さんは俺らに尋ねてくる。そんな問いを投げかけられた三人は、気まずそうに視線を逸らしながら。


「それは……まぁなんとなくというか。毎日ここ来るのが日課になってたから」


「わ、私もかな。色々あったけど、やっぱりここが一番楽しい場所だから……」


「りゅ、隆太様がいるからですわよ! 変なこと聞かないでくださいまし!?」


「…………ふぅん?」


 そんな返事とも言えない返事を口にした滝宮さんは、また本に視線を戻す……そのまま続けて。


「まぁ私としては、催眠問題が解決した以上、君らがもう在籍する必要もないから、解散することも考えていたんだが……」


 そこまで言ったところで、音ノ葉は大声を被せてきて。


「嫌ですわ!! ここを失ったら、どこで隆太様とイチャつけばいいんですか!?」


「知らん」


「とにかく! 私は絶対に退部しませんからね!? 一人になりたいなら、アンタがどっか行けばいいんですからね!?」


 そうやって音ノ葉は滝宮さんを指しながら、そうやって宣言する。理由はともかく、退部したくないって気持ちは松丸さんも同じみたいで。


「わ、私も……ここが一番居心地が良いし。滝宮ちゃんが嫌じゃないなら、まだ私もここにいさせてほしいな……?」


「まぁ……無理に解散する必要はないと思うよ」


 俺もそうやって自分の気持を口にする。そんな様子が面白かったのか、滝宮さんは口元を隠しながら笑いを見せて。


「ふふっ……そうかい。なら好きに過ごしてくれたまえ。まぁ……私は別に君らがもう来なくても、全然構わないんだがね。たまには一人の時間も必要だし、来ない方が私としてはありがたいんだけど……」


「はっ、なーに言ってんですか。本当に嫌なら、ここに置いてある私物も出せばいいじゃないですか。そのままにしてるってことは、まだ私らにいてほしいんでしょう?」


「……そんなわけないだろう」


 多分それは図星だと思う。それで照れている滝宮さんが珍しいのか、音ノ葉は非常に面白そうな……いや、完全に馬鹿にしたような表情でからかい出して。


「あははっ! 当たりましたわ! おーおー、滝なんとかさんも照れることもあるんですねぇ? クール気取ってるくせに、本当は寂しがり屋さんなんですね……うさぎちゃんみたいで可愛いですねぇー?」


「……よし、今決めた。音ノ葉の私物を全て捨てるから江野、ゴミ袋を持ってきてくれたまえ」


「何言ってんですかアンタ!!」


 そして本当に音ノ葉の私物を捨てようとする滝宮さんと、それを必死に止めようとする音ノ葉の光景が繰り広げられた。そんな様子を見た松丸さんは、俺の方を見ながら微笑んで。


「ふふっ……平和な日常が戻ってきたね、江野君!」


「ああ…………って待て待て。まだ解決してないことがあるだろ?」


「えっ? それって……お豆のことですか?」


「……!」「……!」


 その言葉で争いあってる二人の視線は、俺らの方を向く。確かにお豆の行方も気になるけども……。


「それもあるけど……俺が言いたいのは、まだ催眠持ちがいるってことだよ」


 すると音ノ葉はこっちを見ながら、不思議そうな表情で……。


「……? 何言ってるんですか、隆太様。もう全滅して、この世にはもう催眠持ちはいないんですよ?」


「いるよ」


「どこにですか?」


「目の前にだよ」 


 そして俺は三人を指す。そのことに気づいていたのか、はたまた知らないフリをしていたのか……三人は気まずそうに、こう口にして。


「あっ、あー……確かに私らはまだ持ってるね?」


「そう言えばそうでしたわね……でも持ってるのはこの三人だけなら、悪用はしないですし……このままでいいんじゃないですか?」


「よくねぇよ。俺らは催眠を撲滅するって言っただろ? この三人が持っている限り、それは達成されないんだよ」


 俺は最初から催眠アプリの完全な撲滅を目指して活動をしていた。催眠持ちがいなくなった今、催眠を消すために使っていたアプリはもう必要ないのだ。


 ただ……どうやら三人は、なぜか納得はいってないようで。


「えー……? で、でも……絶対変なことに使いませんよ?」


「じゃあいらないな。早く消そう」


「そっ、それはなんか違くないですか!?」


 そして音ノ葉は俺から守るように、スマホを胸に押し当てる……それで珍しく滝宮さんが音ノ葉を守るような発言をして。


「まぁまぁ、江野。音ノ葉の言ってることも一理あるだろう。私らが持つのは、何か大変なことが起きた時に使う必要があるからだ。また世界が崩壊しかねた時、一体誰が世界を救うと言うんだい?」


「なるほど。一理はあるかもですね…………じゃあ俺が持つから、みんな出して」


「で、でも……スマホは日常でも使うじゃないですか!」


「じゃあ機種変代くらいはどうにかするから……」


「だっ、大丈夫だよ……? 江野くんにそんなお金払わせられないし」


「…………」


 この三人の息の合いよう……もしかして。いや、もしかしなくてもだけど。俺は三人を見ながら、こう口にして……。


「…………君たち。催眠、消す気無いよね?」


「……」「……」「……」


 三人は何も答えなかった……はぁ。まさか最後の最後の本当の残党がここにいたとはな。もちろん俺はみんなのことを信じてるし、変なことには使わないってのは分かってるけど……それでも俺は催眠を全滅させることを目標としてやってきたわけだから、残すわけにはいかないんだよなぁ。


 そして滝宮さんは両手を広げながら。


「……まぁ。別に私らだけが持ってる世界も悪くないんじゃないかい?」


「遂にそんな主張するようになったか」


 数々の催眠持ちを消していって、最後に残った自分らだけ残すのは、まぁまぁ悪人ムーブだと思うんだけど……そして続けて音ノ葉も。


「そ、そうですわよ! これは治安維持のため……そして滝登りさんが変なことした時にどうにかするには、私らも持ってる必要があるんですよ! そう言うなれば抑止力、核の発射スイッチみたいなもので……」


「だったら尚更無くす必要があるな。おら、核スイッチ出せ」


「何を言ってくれたんだ音ノ葉……」


「そ、そんなこと言ったら説得できないよ……!」


 ……説得する気だったんだ。松丸さんもそっち側なの、俺ちょっと悲しいよ。


「はぁ……だから。そんな牽制とかしないで、もう一斉に消せばいいだろ。ほら、みんなスマホ出して。俺がせーのって言ったら消すんだぞ」


「……分かりましたわ」

「ああ」

「う、うん……」


 そしてしぶしぶ三人はスマホを前に出す。そのまま催眠アプリをタップして……。


「はい、せーの」


「……」「……」「……」







「消せよ!!!!!!!!」

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