第39話 成し遂げたんだ我々は

「……!?」


 その行動に度肝を抜かれた音ノ葉、そして滝宮さんと催眠持ちの残党も、その光景に目を奪われていた。やはりこの世界のキスは特別な意味を持つのだろうか……まぁなんだっていい! 攻撃してこないのなら好都合だ!!


「……」


「…………!!!!??」


 俺は更に強く抱きしめながら、濃厚なキスをした。深く……深く……! さぁ、この快感で、俺のことを思い出してくれ……音ノ葉……!! 


「……!?」


 だけど次に不意を突かれたのは俺だった。音ノ葉から積極的に、舌を絡めてきたのだ。コイツ、正気に戻ったのか……!? いや、いきなりディープな方してくるのは正気じゃないけど!! もうなんでもいい!! 俺もそれに応じて舌を絡めあった。


 そんな時間が何十秒か続いて……お互いの顔が離れる。そして固まっている催眠持ちに向かって、音ノ葉はとんでもないスピードで催眠アプリを発動させていった。


「なっ……!? 自力で催眠を解除したのっ!?」


「よし、この調子で一掃しろ、音ノ葉!!」


「おらぁぁぁぁああああああっ!!!!!!!」


 ──


 そして奴らは全員、催眠状態になって……残ったのはリーダー格のギャルっぽい女だけだった。追い詰められたギャルは観念したように仰向けで。


「あー…………アタシらの完敗だね。もう好きに殺してよ」


 その顔を覗き込みながら、俺は冷めた目で。


「バーカ。楽になろうとすんな。お前らは催眠のことを綺麗さっぱり忘れて、善良な高校生に生まれ変わってもらいます……命無駄にするくらいなら、ボランティアとかやれ」


「……どこまでも優しいんだね、君ら」


「優しくねぇよ。ほら、これ見ろ」


「ああ……」


 そして俺らは催眠持ち全ての記憶とアプリを消して、家に帰した。


 そのまま俺らは円になり、松丸さんに催眠持ちの人数を確認してもらった。残りの数は……俺ら文芸部メンバーが保持している『3』の数字が表示されていた。


「……こ、これでやっと全滅したんだね。平和を取り戻せたんだね……!」


「ああ。成し遂げたんだ我々は」


「これも松丸さん、滝宮さん……そして音ノ葉のお陰だな。ありがとな音ノ葉!」


 俺は音ノ葉の方を向いてお礼を言う……すると音ノ葉はあまりピンと来ていない様子で、こう口にして。


「い、いえいえー? これくらい当然ですけどねー?」


「……フッ。どうやら何が起きたか覚えてないって様子だねぇ」


「ええ!? い、いや!? 覚えてますけど!?」


「ふふっ、嘘だ。覚えてたら音ノ葉ちゃん、絶対に照れてるもん」


 そう言って二人は笑う。そんな二人を不思議そうに見ながら音ノ葉は。


「え、ええー……? いや、別に私が華麗な動きで、バッタバッタ敵を全滅させたんですよね……?」


 この話を続けると、俺が音ノ葉にキスしたことをバラされかねないと思った俺は、無理やり話を変えて。


「……も、もういいだろその話は。とにかく。今日はもう大変な目に遭ったし、疲れてるだろうから、早く帰って身体を休めよう。お祝いは後日ちゃんとやろうな」


「はい!! もちろんです!」


「わ、私も参加していいのかな……?」


「当然だろう。君がいなければ、進展が無かったんだし。江野も私も十分な活躍しただろうしな」


「ちょいちょーい!! 私が入ってませんけどー!?」


 そしてまた一同の笑いが。こうやってみんな心から笑いあえるのが久しぶりで……全員の表情はとてもイキイキしていた。


「じゃあ今日は解散だ。帰ろう」


「あっ、隆太様! 一緒に帰りましょう!」


「ああ……でももう催眠に怯えることもないから、別に一緒じゃなくてもいいんだけどな?」


「何言ってるんですか。私が隆太様と帰りたいからですよ。これでのびのびと、隆太様の隣を歩けますから!」


「……そっか。ありがとう。」


 そこまで言ったところで、滝宮さんは鞄を手にして。


「フッ……では、私もお供しようじゃないか。松丸も来るだろう?」


「え、えっと……そこは二人きりにした方が……?」


「最後の最後まで、邪魔してきますねアンタは……まぁいいですわよ。今後いつでも隆太様と二人きりで帰れるから、今日くらいはみんなで帰ってもいいですわよ」


 でも今日は機嫌が良いのか、音ノ葉はその提案を断らなかった。せっかくみんなで帰るのならと、俺は更にこんな提案をして。


「よし……せっかくだし寄り道するか!」


「ふふっ。江野君、身体休めるんじゃなかったの?」


「ずっと行動も制限されてたからな。やはり今日はパーッと皆で遊ぼうじゃないか」


「ふふん、滝登りさんにしてはいい提案じゃないですか。それじゃあカラオケかゲーセンか、ファミレスか……どこ行きます?」


「……全部行こう!」


「おー!」


 そして俺らは部室を飛び出して。本当に久しぶりに、深夜まで遊び倒すのだった。

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