第38話 迷ってる暇なんて……
これは……煙玉!? いや、それ以上にヤバい、吸い込んだら気を失うヤバいやつかもしれない……! 急いで玉を外に追いやりたいが、この煙の量で見失ってしまった。とにかく今の俺らがやらなきゃいけないことは……!
「みんな、伏せろ!」
煙を吸わず、視界を確保することだ。俺はそう指示を出して、その場にしゃがみこんだ……他のみんなは無事だろうか……?
「突入ー!!」
そして催眠持ち勢力は、一斉に部室へと突入してきた……が、入口のテープの罠に引っかかって、続々と転けていた。お互い不意を突かれた感じだな。
だが退却する様子もなく、その転がっている仲間を乗り越えて、部室に乗り込んでくる。そしてスマホを取り出して、俺らを催眠にかけようとした……だがこんなもみくちゃ状態だと、誰が敵で味方が分からないようだった。
こんなバラバラなチームなら、俺らでも勝ち目はある……!
「上等だ……ほら、私にかけてみたまえ!」
煽るような滝宮さんの声が後ろから聞こえてくるが……絶対に鏡、構えてそうだ。
「よ、よくもやってくれたね……!!」
松丸さんも武器を使って、敵を倒していく……意外とフィジカル強ぇ。松丸さんもこの数ヶ月で凄い成長したなぁ……。
「のこのことやって来ましたわね……! 残らず全員ぶっ潰しますわ!!」
そして音ノ葉は相変わらず凄い運動能力で、軽々と敵を転ばせ、次々と相手を無力化していった。
「俺も……お前らには好き勝手にさせねぇ……!」
そんな味方に続いて、俺は落ちているスマホを奪い取って、催眠をかけ返そうとした。だが相手の人数は俺らの倍以上……視界も開けてきたが、依然として不利な状況なのには変わりなかった。
それで敵側もこのままだとマズイと思ったのか、作戦を一人狙いに変えたようで……残りのメンバーは合図で、一斉に俺の元へと駆け寄ってきた。
「……ッ!?」
「最初からこうすれば良かったのよ! さぁ、やりなさい!!」
俺は二人がかりで、後ろから羽交い締めにされて身動きが取れなくなってしまう。そして一人が正面に立ち、俺に催眠を見せきた……クソ、このままだとヤバい……!! またか……また、俺が足を引っ張ってしまうのか……!!
「危ないッ、隆太様ー!!」
「えっ……!?」
──瞬間、音ノ葉が俺らの元に突撃して、俺らは弾き飛ばされた。でもその隙を付かれて……俺じゃなくて、音ノ葉が催眠の餌食になってしまった。
「おっ、音ノ葉ッ!!」
「…………」
そして音ノ葉は催眠状態特有の、虚ろな目を見せる……。
「ハァ……やっと一人かかった! 狙いはミスったけど……まぁいいわ!」
「……ッ」
マズイ……非常にマズイな。一番の戦力である音ノ葉が陥落してしまった。多くの敵に加え、音ノ葉まで敵になってしまったら……もう逃げ場が無くなってしまう。俺らが全滅するのも時間の問題だ。
「あたしらの仲間になって、文芸部のやつら全員催眠にかけな!」
催眠使いのリーダーは、音ノ葉にそう命令を下す……マズイ。どうにかして止めなきゃ……音ノ葉の正気を取り戻さなきゃ。でも……どうやって?
痛み……じゃ駄目だ。こんな世界、ましてや音ノ葉にフィジカルで勝るとは思えない。やっぱり正気に戻すには快感か? でも一瞬で音ノ葉を気持ちよくさせる方法なんて……俺には……!!
「やりな、音ノ葉! お前の手で文芸部の奴らをぶっ壊すのよ!」
「……」
「動け、江野ッ!! 音ノ葉を戻せるのはお前だけだ!!」
背後から滝宮さんの声が聞こえる……そうだ。この現状を覆せるのは俺しかいないんだ……!! もう迷ってる暇なんて……ない!!
「音ノ葉!!」
「────!」
俺は音ノ葉に飛びつき、彼女を抱きしめながら……キスをした。
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