第37話 会話はヤツらに聞かれてる
そんな勘違いから数日後……滝宮さんから『今日は部室に集まってくれ』と連絡があった。連絡を禁止していたはずなのに、このタイミングで招集……? 何か進展でもあったのだろうか?
それとも部活に行かなすぎるのも変だから、単に呼び出しただけか……まぁ行ってみれば、呼び出した理由も分かるだろう。俺は文芸部部室の扉を開いた……そこには既に三人とも揃っていて。入るなり、全員の視線が一斉に俺へ向いてきた。
「おお……どうしました?」
「遅いぞ、江野。早く席に着きたまえ」
「あっ、はい……すんません」
謝りつつ、俺は腰を下ろす……なんか様子が変だぞ? 心做しか音ノ葉と松丸さんも怖い顔してるし……でも、とても聞けるような雰囲気じゃないな。いや、馬鹿なフリして聞いてみてもいいんだけど……とか思ってると、滝宮さんは続けて。
「よし、これで揃ったな。ではいつも通り朗読会を行おうと思う」
「えっ?」
俺は耳を疑う……朗読会? いつも通りどころか、そんなの一度もやったことないって言うのに。あっ、まさか……! 滝宮さん、奴らに記憶イジられて、まともな文芸部部長に戻ってしまったっていうのか……!?
「……」
……っていやいや、落ち着け俺。昨日も似たようなことあって勘違いしたじゃないか。きっとこれも何か考えがあっての行動のはず……ここは様子を見て、俺も周りに合わせるべきだろう。
それで俺がそのまま座って待機してると、松丸さんは一つの薄い冊子を俺に渡してくれて。
「え、江野君。これ、台本」
「ありがとう」
受け取って冊子を開くと、中に一枚の紙切れが入っていて……滝宮さんの字だろうか。そこには達筆でこう書かれていて。
『今日、部室に盗聴器が仕掛けてあるのに気が付いた。私らの会話を聞いて、奴らが突撃してくるかもしれない。悟られないように朗読会を進行しつつ、警戒してくれ』
え、ええ……嘘ぉ。じゃあこれは盗聴されてて、今にも奴らは突入の機会を伺ってるってこと? だからみんなこんなにピリピリしてたのか。でもカメラが仕掛けられてないのは、不幸中の幸いか……どうにか対策しないとな。
それで俺が何か罠でも仕掛けようかと考えていると、滝宮さんは俺を指さして。
「じゃあ江野から始めてくれ」
「お、俺ですか……?」
なんで俺からなんだよ。朗読会とかやったことないから分かんないんだって……どうにか別の人にやってもらおうと、音ノ葉に視線を合わせると、滝宮さんもそれを察してくれたみたいで。
「なんだ自信ないのか? じゃあ音ノ葉からやってみたまえ」
「分かりましたよ。えっと……メロスは激怒した!!」
走れメロスかい。で……音ノ葉が読んでいる間に、滝宮さんは立て鏡を机にセットしていて……もしかして催眠を反射するつもりか?
そして松丸さんの方を見ると、粘着テープを部室の入口の足元に設置していて……すごい原始的な罠だ!
「……」
じゃあ俺も何か仕掛けようと、掃除用具入れのロッカー内を物色していると……突然。本当になんの前触れもなく扉が開いたと思ったら。謎のボールが投げ入れられて。途端にそれは煙を吐き出して、部室内の視界を一気に奪うのだった。
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