第34話 平和ならそれでいいんじゃないですか?

 ──


 そして文化祭も無事に終了し、俺は元の生活へと戻っていた。いつも通り部室に集まった俺らは、いつも通り駄弁っていて……。


「隆太様ー。文化祭終わってからも、メイド服着てくれるって言ったじゃないですかー。着てくださいよー!」


 言いながら音ノ葉は、俺の肩を掴む……なんだがそれが居心地が悪くて。俺はその手を払い除けながら、席を立った。


「……着ねぇよ」


「……あれ。もしかして隆太様、怒ってます?」


 言いながら音ノ葉は俺の顔を覗き込んでくる。その何も考えてなさそうな、へら~っとした表情に、また俺は心をかき乱されて……思わず俺は顔を背けた。


「……」


「あっ……隆太様、本当にどうしちゃったんですか? なんか文化祭が終わってから、様子がおかしいですわよ?」


「いや、別に……」


 俺はぶっきらぼうに言う。俺だって自分が変なのは分かってる。分かってるけど、その理由が上手く言語化出来なくて、ずっとモヤモヤしているのだ……それで。そんな音ノ葉の話を変えようとしてくれたのか、滝宮さんがこう口にして。


「それよりちょっといいだろうか。ここ最近、催眠の反応が段違いに減ったんだが……何か知っている人はいるかい?」


「えっ? いや、分からないっすね……」


「平和ならそれでいいんじゃないですか? 一々気にしても仕方ないですよ」


 そう言いながら音ノ葉は部室に置いてあったクッキーを手に取り、それを頬張る……そんな彼女を見ながら、松丸さんは浮かない顔で。


「で、でも……これって警戒してるってことじゃない? 催眠を使ったら消されるって分かってるってことじゃないかな……?」


 確かに彼女の言う通り、催眠持ちも知識を付けてきてるのだろう。催眠を使うと、アプリと記憶が消されるってことは、多分かなり知れ渡っているはずだ。それを知った上でアプリを使おうとする人は、中々いないだろう。


「確かにな。催眠持ちは減った代わりに、集まって何か企んでるかもしれない……今後は一層警戒して、催眠を消す時は複数人で動こう」


「分かりました」


 ……とここで松丸さんのスマホの通知が鳴って。これはまさか。


「き、来たっ! これ、催眠の通知だよ!」


「ええ、ホントですか!? さっきもう催眠に怯えることは無い的なこと、滝登りさんが言ってたのに!」


「催眠が減ったと言っただけだ……だがこのタイミングで、この反応……少し臭うな。警戒して行こう」


「はい。分かりました」


 そして俺らは準備して、その催眠が行われた現場へと駆けつけるのであった。

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