第33話 音ノ葉さんがいるから?
予想外の言葉に俺は反応が遅れる。まさか催眠じゃなくて……告白? ああ、そうか、告白か……ここのところ催眠ばかりで、その可能性を全く考えてなかったよ。
告白……前世の記憶を取り戻す前は、何十回か告白されてたけど。取り戻してからは初めてのことだな。そんなことを思いつつ彼女の後ろを見ると、窓から何人かの女子達と滝宮さん、松丸さんが覗いていることに気がついた。
「……」
見られてるのか……まぁ。催眠を使わない、ちゃんとした告白はとても素晴らしいものだとは思うけど……俺はそれには応えられないな。
「…………ごめん。俺は君と付き合うことは出来ないよ」
「…………」
そう言うと少女は泣き出しそうな表情に変わってしまう。少し心が傷んでしまうけど、これも仕方のないことなのだ……。
「…………音ノ葉さんがいるから?」
「えっ?」
思わず聞き返してしまった。いや、音ノ葉がいるからって……どういうことだよ?
「最近隆太君、ずっと音ノ葉さんと一緒にいるし……喧嘩したみたいな噂も聞いたけど、今日もとっても仲良さそうだったし」
喧嘩……? ああ、もしかして俺に催眠をかけることを言いふらしてた時期のことだろうか。催眠の影響で、催眠に関する情報が変換されて、喧嘩したってことになったのか……まぁ多分そんなところだろう。
そして少女は続けて。
「やっぱり隆太君は音ノ葉さんのことが好きなの?」
「えっ……?」
俺が音ノ葉のことが好きって……? そりゃ今まで一緒に行動してきて、助けてもらって、遊んだりもして……そりゃ好きか嫌いかで言えば、好きだけどさ。音ノ葉を恋愛対象として見てるかなんて、そんなの……。
「…………」
……でも。どうして俺は否定ができないんだ? どうして俺は焦っているんだ? どうして……俺の心臓はうるさいくらいに鼓動が早くなっているんだ……?
「……ごめん。言いたくないよね」
沈黙が耐えきれなかったのか、少女はそのまま教室から飛び出そうとする。
「……待って」
「……!」
俺はその少女を呼び止めた。でも今の俺が言える言葉は、これしかなくて……。
「……想いを伝えてくれてありがとう。嬉しかった」
「……」
そして少女は振り返らずに教室から出て……その様子を見ていたであろう女子達に慰められながら、どこかへと歩きだして行くのだった。代わりに教室に入ってきたのは、滝宮さんと松丸さんで。
「え、えーっと……無事だったかな……?」
「あ、はい……すみません。俺の勘違いでした」
「ふふ、私らにモテているところを見せびらかしたかったのかと思ったよ」
「んなわけないでしょ……」
俺は呆れたように言う。そして滝宮さんは「冗談だ」と一言発した後、首を傾けながら俺に尋ねてきて……。
「それで……どうして江野はあんな行動を取ったんだい?」
「どうしてって……それは、俺あの子のことほとんど知らないし。それに付き合うなんてこと、俺にはよく分からないし……」
そこまで言ったところで、滝宮さんは首を横に振って。
「ああ、私が言ってるのはそうじゃなくて……どうして音ノ葉のことを聞かれた時、何も答えてあげなかったんたってことさ」
「……!」
瞬間、俺は言葉に詰まる……何も答えなかった理由? それは…………。
「それは…………分からないんです。確かに音ノ葉のことは大切な仲間なのには間違いないんですけど。でも好き……だとか、付き合いたいかとか言われると……よく分かんなくて」
「……」
滝宮さんは何か言いたげな表情を見せたが、それは口にはせず……そのまま後ろで手を組んで。
「そうかい。まぁ今日のところはもう帰ろう。文化祭も終わったみたいだしね」
「そうですね。じゃあ音ノ葉を起こして……」
と、そこまで口にしたところで、俺は固まる。よく分からないけど……今、音ノ葉に会っちゃいけない気がした。上手く喋れない未来が一瞬だけ見えた気がしたんだ。そこで俺は松丸さんに、こうお願いをしていて……。
「……いや、松丸さん。音ノ葉を任せてもいいかな」
「えっ? いいけど……江野君はいいの?」
「はい、お願いします。俺も疲れちゃったので、早く家に帰ろうと思って」
そう言って俺は帰りの支度をして。そして音ノ葉から逃げるようにして、校内から出ていくのだった。その間、俺の鼓動はいつもよりずっと早かった気がした。
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