第29話 文化祭が始まりますわ!

 ──


 それから俺らは催眠アプリを駆使して、催眠持ちを消していった。危ないことも多々あったけど、みんなの協力によって活動は順調に進んでいた……のだが。途中からは中々催眠持ちを見つけることが出来ず、活動は難航していた。


 そんな日々が何ヶ月か続いて……迎えた9月、文芸部部室。音ノ葉は手を叩いて、みんなの注目を集めながら言う。


「皆さん、もう少しで文化祭が始まりますわ! もちろん参加しますわよね?」


「こんな時に文化祭か……? 活動は難航してるし、適当にサボって催眠撲滅活動に集中した方がいいんじゃないのか?」


「いや、こんな時だからこそですわ。これは一気に催眠持ちを消すチャンスですよ!」


 文化祭が催眠を消すチャンスって……どういう意味だよ? 逆に人が集まって、催眠なんてかけられたもんじゃないと思うんだけど……代わりに滝宮さんに否定してもらうと思って彼女を見たが、意外にも滝宮さんは音ノ葉に同意して。


「なるほど……確かにイベントに乗じて催眠を使うものもいるかもしれない。今まで潜んでいた催眠持ちが現れる可能性は高いだろうし、我々も目立たなくなるから動きやすくはなるだろうねぇ」


「ええ……でも、わざわざ参加する必要はないんじゃ?」


「いや、積極的に参加するからこそ、見えてくるものがあるだろう」


 見えてくるもの? よく分からんけど……どうやら文化祭は参加する流れらしい。そこで松丸さんは疑問を音ノ葉に投げかけて。


「で、でも……催眠を持ってる人は、どんなタイミングで使うのかな」


「まぁ色々あるでしょうけど……やっぱり男子に発情した時でしょうかね」


「発情ってお前……文化祭でそんなこと起こるのかよ」


「ええ、起こりますわよ。文化祭にはコスプレという一大イベントがありますし……あ、ちなみにウチのクラスはメイド喫茶をやるらしいですよ!」


 それは初耳だ……まぁ俺、文化祭の出し物を考える時間とか全く参加してなかったし。勝手に決まるのも当然か。


「本当にやるとこあるんだな。音ノ葉もメイド服着るのか?」


 そう言うと「まさかー」と首を横に振りながら、俺の方を見て。


「隆太様がやるに決まってるじゃないですか」


「……は?」


 いや、なんで俺なんだよ。流石にいつもの冗談だろ……と思っていたのだが、妙に音ノ葉の顔はガチっぽくて……嘘だよな?


「冗談だよな? お前ら女子がやるんだよな?」


「は? 女のメイドとか誰得ですか?」


「…………」


 音ノ葉はそう冷たく言い放った。ええ……嘘だろ? まさかこの世界ではメイドは男がやるものなのか……? いや、それはなんか違くない!? おかしくない!?


「ほう、江野がメイドをやるなら、私も遊びに行こうか」


「来ないでいいから……ってかやらないからな!?」


 ……と、ここで松丸さんがボソッと。


「で、でも……催眠持ちを釣り出すチャンスじゃないかな? 音ノ葉ちゃんが言ってた通り、その姿を見て、は、発情……するかもしれないし」

 

「良いこと言うね、松丸ちゃん! 隆太様のメイド姿なんて見たら、もう女達みんな服脱いで、〇〇〇〇取り出して、○○○に○○○○で、激しく〇〇に……」


「一回ちょっと黙れ」


 俺は音ノ葉を小突く……よくもまぁ、そんな下品な言葉をペラペラ喋れるもんだ。


「でもまぁ本当に江野がメイドになるのなら、尋常じゃないほど人は集まるだろうな。現役男子高生のメイドなんて、数百万の金が動くだろう……」


「俺を過信し過ぎてません?」


 俺にそんなポテンシャル無いよ? なんかナンバーワンキャバ嬢か何かだと勘違いしてない? ……いや、そもそも着るつもりもないんだけど。


「あとそれと……一応文芸部でも文化祭の出し物をやろうと考えているよ」


「えー。こんなとこ誰も来ませんよ?」


「まぁそうだろうな……だが、江野がいるってことを大々的に宣伝すれば、人は呼べるだろう」


 また俺をダシにするのか……動物園のパンダってこんな気分なのかな。


「呼んでどうするんですか?」


「ん? 催眠持ちを釣り出すんだろう? なら、江野にコスプレとかしてもらって、朗読会でもやればいいだろう」


「それしか案ねぇのかよ……」


「あっ、官能小説でも朗読すれば、みんな脱ぎだすんじゃないでしょうか!」


「……んなことしたら、部活が潰れるわアホ……」

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