第24話 丁寧語にすればいいとは言ってねぇよ
──
それから音ノ葉と滝宮さんは、その黒幕を呼び出すべく『江野隆太を催眠にかける計画をしている』という噂話を広め出した。音ノ葉は俺と常に行動していたこともあり、噂はそれなりに大きく広まったようだ。
「……ふふっ。隆太様って呼んでたのも、慕ってるフリをしたのも、全てこの日のため……楽しかったですわよ、隆太様とのお友達ごっこぉ!」
「……なんかわざとらしいな」
……で、今は文芸部で催眠をかける時の練習をしていた。黒幕が俺を助けに来ることを予想しているので、割り込めるよう長ったらしくする必要があるのだが……なんかわざとらしいんだよな。
「えーそんなー。名演技じゃありませんでした?」
「どこがだよ。こんなんじゃ誰も騙せないぞ」
と、ここで滝宮さんが口を挟んできて。
「江野。噂はそれなりに広めることは出来たが……私らが狙っている黒幕でなく、別の人物が来た場合の対処を考えていなかった。その場合どうしたらいい?」
「野次馬ってことですか? まぁ来る人は音ノ葉達に便乗して、俺を狙うでしょうから……そいつらは催眠で返り討ちにすればいいです。でもその中に俺じゃなくて、音ノ葉や滝宮さんに催眠をかけようとする奴が現れたら……そいつが黒幕です」
「なるほど。それなら判別が出来るね」
「……?」
そして音ノ葉はワンテンポ遅れて、理解したようで。
「……ん? あっ、そっか! 野次馬で来る奴らは、隆太様の◯んちんを狙ってるから、催眠は隆太様を狙う。逆に私達を狙うってことは、催眠を止めようとしてるからその人が怪しい……ってわけですね!」
「説明助かる……あと◯んちん言うのやめてね」
「え、お◯んちんって言ったほうが良いですか?」
「丁寧語にすればいいとは言ってねぇよ」
──
それから数日流れて……遂に音ノ葉達が、俺に催眠をかける日がやって来た。もちろんこれは黒幕をおびき寄せるためのもので……本当に黒幕が催眠アプリを消し去りたいのなら、きっと音ノ葉達を止めに来るだろう。
まぁ最悪来なくても、野次馬に来た他の催眠持ちを消し去ることも出来るし、一石二鳥か……思いつつ、俺は音ノ葉が指定した場所へと赴いていた。
「……」
すると彼女は俺を見るなり、練習した台本のセリフを口にして。
「よく来たましたわね、隆太様……いや、江野隆太。私はこの日をずっと待っていましたわ……催眠プレイでえっぐいくらいに激しい獣プレイをすることを……!」
音ノ葉は竿役……いや、竿無いから正しい言葉分かんないけど。ともかくそういう立場になることが新鮮なようで、ノリノリで俺に話しかけていた。その隣にはビデオカメラを持った滝宮さんの姿があって。
「私はカメラマンとして呼ばれました……ちなみに獣って意外と淡白なプレイをするらしいですよ。『獣のような』と形容されるようなプレイは人間ぐらいしか行わないと思うと、なんだか笑えてきますね」
……いや、なんだその雑学。この二人、演技下手すぎか……? まぁここで俺だけ乗らないわけにもいかない。俺は音ノ葉に裏切られたことによる絶望を演技していった。
「そっ、そんな……やめてくれ……!」
「ああ、その表情、たまりませんわ! もっと見せてくださいまし!」
「……女優がうるさい作品は苦情が入りますから、もっと静かにしてください」
確かに竿役が調子乗って喋ってると、集中出来ないのは分かるけど……いや、そんなことよりも。黒幕はまだ助けに来ないのか……?
「じゃあやりますわよ……お、おら! 脱げ! ……うおっほ!」
それで言われた通り一枚上を脱ぐと、音ノ葉は興奮したような声をあげる……なんで反応が童貞くさいんだよ。
「じゃあ下も……え、下は嫌だって? なら催眠かけちゃうしかないなぁー?」
そう言いつつ音ノ葉はスマホを取り出して、催眠をかける素振りを見せる……まさかコイツ、どさくさに紛れてマジで催眠かけるつもりじゃないだろうな……? ……って、なんでお前スカート脱ごうとしてんだよ!? 本気か、本気なのかお前!?
「……や、やめろ……!!」
「そう言いつつも身体は正直じゃないですか……あっ、あれ。りゅ、隆太様……?」
突如音ノ葉は素の声に戻って、困惑したように言う…………きっと俺の下半身部分を見たのだろう…………いやだって! 普通にお前のパンツとかエロいんだもん!! 普通そうなるよ、前世の記憶持った男ならなぁ!!
「…………ホントにしますか?」
やんねぇよバカ!! これ以上おかしなことになる前に、早く助けに来てくれよ、黒幕……!!!
「…………あっ、あの。え、江野君、嫌がってるし。やめてあげて……?」
「えっ……?」
……このタイミングで現れたのは。黒髪ロングで、低身長……だいぶ気の弱そうな少女が、身体を震わせて立っていたのだった。
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