第22話 催眠アプリを手に入れた人の共通点は……!

「えっ!? でも同時に催眠はかけられないはずじゃ……?」


「それは俺らの話だ……音ノ葉達に催眠アプリを配るくらい力を持ったヤツらには、俺らの常識なんか通用しないんだよ!」


 全生徒を催眠にかけたのだから、とんでもないことをやったんだろうとは思っていたが……まさかここまで堂々とした犯行だったとは……!


「あ、なんか倒れだしてる……!?」


 そして映像では、その光景を見た生徒達は続々と倒れてしまい……遂には撮影をしていた彼女も倒れて、画面は体育館の天井を映すのだった。


「どっ、どういうことですかこれは……?」


「余計に謎が深まったな……」


 俺らは絶句する……でも確かに球技大会は行われ、その表彰式の時に全員の記憶が改変された。そして一部の人に催眠アプリが配られたのは、確定だってことだ。


「でも情報は得ることは出来た……って、まだ続きがあるのか?」


 映像は天井を映したまま続いていて……スクリーンに映像が流れているから、光は差し込まれていたが、それでも画面は薄く暗くてよく見えなかった。だけど音声は確かに何かを拾っていて……。


「なんだ……? 何か言い合いしてるのか?」


「音が遠くてよく聞こえませんね?」


 映像からは微かに女の子の声が聞こえていた。もしかして複数人の犯行だったのか? 言い合いしてるってことは、犯人にとっても予想外の出来事だったのか……そうこう考えている内に、映像は止まってしまった。


「あ、終わった。でもこれ、どういうことなんでしょう?」


「分からない……ひとまずこの動画を解析して、犯人らしき人物を特定しよう。そうすれば何か分かるかもしれない」


 とにかく、この催眠中に喋っている少女が鍵を握っているのは間違いない。また俺らの記憶が改ざんされる前に、早く特定しないとな……。


「分かりました……それでこの方はどうしますか?」


「え」


 そして音ノ葉は盗撮女を指差す。まぁ……俺らを覚えたままでいられても困るので。


「とりあえずこの映像は貰って……催眠アプリと記憶は消しておこうか」


「了解しました」


 そして音ノ葉はスマホを取り出して、女に催眠をかけるのだった。


「……え? ちょ、なにを……うわあああああああっ!!」


 ──

 

 次の日、文芸部部室。滝宮さんにもその映像を見せて、感想を聞いてみることにした。一通り見終わった滝宮さんは背もたれに身体を預け、面白そうに呟いて。


「ほう……なるほど。体育館のスクリーンを使って、その場に居た全生徒に催眠をかけたわけだ。私らのアプリじゃ絶対に出来ない芸当だね」


「ですよね……誰か候補とか絞れますか?」


「これだけじゃなんともね……ただ。最後の言い合いしている部分。ハッキリと言葉は聞き取れないが、声は一人分しか聞こえなくないかい?」


 一人分……? と俺より先に思った音ノ葉は、すかさずツッコんできて。


「まさか一人で言い合いしてるって言うんですか? 意味が分かりませんよ」


「まだ君はそんなことを言うのかい。私らを催眠にかけて、記憶を改変して……催眠アプリを配るような人物に、常識を解くのは無意味だってことが、未だに分からないのかい?」


「……」


 音ノ葉は何も言い返せなかった。確かにその通りだけど……でも言い合いをしていることには、きっと何か意味はあるはずだ。


「だけど一人ってことは、考えにくいんじゃないかな。単純にもう一人の声が入らなかっただけか……もしくは俺らには絶対に聞こえない『何か』と喋っていたか」


「……」「……」


「いや、冗談だけど……」


 そんなガチな目で見られるとは思わなかった。まぁでも、実際その可能性もゼロではないだろうからなぁ……。 


「とにかく……まずはこんなことをした犯人を探し出さなければいけませんね。容疑者は絞れますか?」


「うーん、そうだな……スクリーンを使っていたから、やっぱりスクリーンを自由に扱える教師や生徒会……その辺りが怪しいんじゃないか?」


 かなりこじつけだけど、そういう怪しいところをひとつひとつ潰していくのは大事だろう。


「少々根拠に乏しい気は否めないけれど、これ以上有力な情報は出てこないだろうし。そこを重点的に情報収集するのも悪くないかもねぇ」


 ……と、そこで音ノ葉は何か疑問を浮かべるような表情を見せて。


「……ていうか今、気付いたんですけど。どうして催眠アプリを持った人と持たない人に分かれたんでしょうか? 隆太様も表彰式の時、体育館にいたはずですよね?」


「ああ、映像には映ってたな……」


 確かに表彰式には全校生徒が集まっていた筈だ。どうして一部にしか催眠が配られなかったんだ……? ここにもヒントがあるのか? 俺はノートを取り出す……。


「ちょっともう一度、思い出して考えてみよう。今のところ催眠アプリを持っていた人物は……音ノ葉、滝宮さん、保健室で襲ってきた芹沢、自習の時追いかけてきた篠田、脅してきた女教師の女川、昨日の盗撮女……」


「ロクでもねぇメンツですわね」


「自分で言うんだ……」


 確かにロクでもないメンバーだが……ここで滝宮さんがニヤリと微笑んで。


「……それが答えじゃないかい?」


「えっ? でもロクでもないヤツだけ狙って催眠アプリを入れるなんて……意味が分かりませんよ?」


「本当にそうだろうか? 催眠アプリを使う為に必要な物があるじゃないか」


「んんー? もー、まどろっこしいですわね! 意味深な女は嫌われますわよ!」


 音ノ葉は見当もついてなさそうだが、滝宮さんはもう何かに気づいているらしい。催眠アプリを使うために必要な物って、アレしかないけど…………あっ。


「そうか……分かったぞ」


「えっ、ホントですか!?」


 滝宮さんからのヒント、そして催眠持ちのロクでもないメンバー……ここから導き出される答えは……!!


「催眠アプリを手に入れた人の共通点。それは……」







「表彰式の時、体育館にスマホを持ち込んでいた人物だ!!」

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