第20話 ポチポチやってるがいいですわ!!

「俺らは球技大会なんかやった記憶は無いというのに、ここにはそう書いてある……音ノ葉、これがどういうことだか分かるか?」


「え? えっと……誰かがスケジュールを書き換えたってことですか?」


 音ノ葉は急に振られると思っていなかったのか、自信なさげに答える……俺が返事をする前に、滝宮さんは音ノ葉の答えを否定して。


「その可能性は限りなく低いだろう。教員用のスケジュールを書き換えるなんて、する意味が分からない……つまり。これが本来のスケジュールだったってことさ」


「……?」


 滝宮さんの説明を聞いても、音ノ葉は未だによく分かってなさそうだったので……改めて俺は説明をすることにした。


「要するに……その日は本当に球技大会があったんだ。でもなぜか俺らはその記憶を改変されている……しかも全員な」


「えっ、本当に球技大会なんてやってたんですか!? にわかには信じがたいんですけど……でもなんで記憶がなくなってるんですか?」


「さぁね……だから、本当にその日に大会が行われていた証拠を探すべきだろう。そしたら記憶が消えた理由も、催眠アプリが現れた理由も自ずと分かるかもしれないからね」


 滝宮さんの言う通り、今はその証拠を集めていくべきだろう。ただ、俺らの記憶は全く信用出来ないので、他になにか知る方法があればいいんだけど……。


「でも記憶が改変されても、影響ないものってなんだろう……監視カメラとか?」


「校内にあるのかい? まぁあったとしても、既に映像は消えてそうだがね」


「……」


 確かに滝宮さんの言う通り、監視カメラの映像はプライバシーの都合上、数日で消えるとか言うし……もう既に当日のデータは残ってないかもしれない。なら他に何か手がかりはないかと考えていると、音ノ葉がポツリと呟いて……。


「…………あるかもしれませんわ」


「えっ?」


「私、男子の写真とか映像を売ってる人がいるって聞いたことがあります。本当にその日に球技大会があったのなら……その人は絶対に動画を撮ってると思います!」


「ほう……悪くない考えかもしれない」


 だいぶ人として終わってるが……今回ばかりはそいつ、救世主になり得るかもしれないな。


「なるほど……その時の映像が残っていたら、俺らに何が起こったか分かるかもしれない。でかしたぞ、音ノ葉!」


「えへへっ、もっと褒めてください!」


 役に立てたことが嬉しいのか、音ノ葉は飛び跳ねて喜ぶ。俺は彼女の頭を撫でながら、続けてこう尋ねて……。


「ああ、それで誰なんだ?」


「……えっ?」


「だからその映像を売ってるって人の名前。……もしかして知らないのか?」


 そう言うと音ノ葉は、焦ったように視線を逸らしながら……。


「えっ、えっと……噂で聞いたことあるだけですし……私は買ったことありませんから、名前はちょっと分かりかねますね……?」


 すると滝宮さんは呆れたように「やれやれ」と。


「名前が分からないなんて、流石は音ノ葉クオリティだねぇ」


「……はぁー? 何も情報出さないどっかの無能よりかは、役に立ってますけどね?」


 そして両者の間に飛び散る火花……こいつら放っておいたら、マジですぐ喧嘩するなぁ。また俺は二人の間に入って、喧嘩を止めさせた。


「落ち着けってお前ら。名前が分からないなら、調べればいいだろ?」


「そっ、そうですよ! そんなネチネチ言う暇があるなら、少しは調べたらどうですか!? ネチネチしか取り柄ないんですか!?」


 すると滝宮さんは死角からスマホを取り出して……。


「さっきから調べているけどね。君と違って、時間を効率的に使っているから……」


 滝宮さんが言い切る前に、音ノ葉は俺の手を掴んで。


「ふ、ふーんだ! なら私達は足で調べますわ! せいぜいぼっちで、ポチポチやってるがいいですわ!!」


「ちょ、お前、引っ張るなって……!」

 

 そのまま俺を引き連れて、部室の外へと出るのだった。

 

 ──


 ……そして俺らも情報を集めるため、音ノ葉と一緒に校内を歩いていた。その映像を売っている人物にアテはあるのかと、音ノ葉に尋ねてみる。


「なぁ、誰がその売人が誰なのか目星は付いているのか?」


 すると音ノ葉は首を横に振って。


「いえ、全く。その辺の生徒に催眠をかけて、情報を吐き出させましょうか?」


「それはなるべくしたくはないんだよな……リスクあるし。誰かに見られても大変だし。催眠は催眠アプリを消す時にしか使いたくないんだよな」


 前回おとり捜査した時も、俺と音ノ葉が繋がってるってことを篠田は言ってたし。既に警戒されてるんだよな。だから催眠を使うのは、本当に最終手段にしたい……まぁ向こうから催眠かけてくるなら話は変わってくるけど。


 それで音ノ葉も俺の考えを分かってくれたみたいで。


「分かりました。なら別のアプローチを考えましょう!」


「ありがとう」


 そして考えること数十秒……音ノ葉は俺の方を見ながら、口を開いて。


「なら……隆太様。隆太様も男性に興味を持ってるって素振りを見せましょう」


「……はい?」


 急に何を言い出すんだコイツは……? それになんの意味があるって言うんだよ。


「真面目に考えてくれ」


「真面目ですよ、超大真面目ですよ。隆太様が『男の子に興味があるから、映像を売ってる人知らないかな?』って聞いたら、きっと教えてくれます」


「まさか……ってかそんなことせずに、お前が聞いてみればいいんじゃないか?」


「ダメです。私はもう警戒されまくってますので」


「……」


 俺は何も言い返せなかった……まぁ実際、音ノ葉が他の女子達と喋っているところは全く見ないからな。あれだけいがみ合ってる滝宮さんと、校内では一番喋ってるだろうし……こうなったのも俺のボディーガードを務めたからだろうからな。ここは俺がやるしかないのかもしれない。


「はぁ……分かったよ。女子達から情報を集めればいいんだよな?」


「はい! あ、でも催眠には気をつけてくださいね! 一応私も後ろで見ていますから、ヤバくなったら叫んでください……あ、バイブの方がいいですか?」


「いいわけねぇだろ……じゃあ行ってくる」


「はい、お気をつけて!」


 そして俺は映像を売っている人物を探すために、校内にいる女子達へと話を聞いていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る