第19話 隆太様の体重と胸囲が知りたいです!
──
次の日。明才高校、文芸部部室。俺は昨日の出来事を滝宮さんに報告していた。
「……という感じです。以上のことから、俺らは明才高校自体に秘密があると踏みました」
「なるほど……確かに音楽教師の女川は退職していた。江野達の言う通り、催眠アプリはこの学校にいる一部の人間が持っている物だと断定してもいいだろう」
顎に手を当てながら滝宮さんは言う。どうやらその音楽教師は三年の担任をしていたようで、退職したことは滝宮さんのクラスでも話題になっていたらしい。
「でも……学校に秘密があるって言っても、どうやって調べればいいんでしょう? やっぱり催眠をかけて、情報を吐き出させるしか方法はないんでしょうか?」
「情報を持ってる人を引き当てるのは難しいだろうし……それにリスクはかなり高い。催眠持ちを消してることだけでなく、学校の秘密まで探っていることがバレたら、俺らを野放しにするわけがないだろうからな」
「そもそも催眠をばら撒くような連中に、催眠アプリで対抗出来るとは思えないけどねぇ。現に我々を泳がせてる可能性だってあるだろう」
「……」
音ノ葉は難しい顔をする。でも確かに滝宮さんの言う通り、催眠アプリをばら撒くような連中……そもそも個人なのか団体なのかも分からない相手に、配られた催眠で立ち向かえるとは思えない。
「ま、何はともあれ情報収集だろう。私は『皆が催眠アプリを手にした日』に情報の鍵があると踏んでいるがね」
「手にした日ですか……音ノ葉、その日何か変わったことが起こらなかったか?」
そう尋ねると、音ノ葉は思い出すように上を向いて……。
「えーっと、確か一週間前くらいでしたっけ? その日は特に変わったことは無いように思えましたが……」
「滝宮さんは?」
「右に同じ……でも、常識を疑うことから始めた方がいいかもしれないね。何せ我々はその日に、非常識な物を手にしたのだから」
常識を疑うか……確かに俺もその日はなんともない、普通の一日だったと記憶しているが……これだって捏造された記憶の可能性がある。催眠アプリがある以上、信頼出来る記憶なんて何一つ無いのだ。
「……分かった。とりあえず、音ノ葉達に催眠アプリが入っていた日について調べてみよう。何か分かることがあるかもしれないからな」
「うーん……その日に何か変わったことがあったか、聞き込みをしてみるとかですかね?」
「私らが覚えてないんだ。他の人に聞いたって、有力な情報は出てこないだろう」
「でも、やってみなきゃ分からないでしょ? 決めつけは思考を狭めますよ、滝なんとかさん」
「滝宮だ……ならやってみればいいんじゃないかい? 『私は催眠アプリについて調べていまーす』と大声で叫んでるようなものだがね」
「……」
……なんか徐々にピリついてきたので、俺は話を止めることにした。パンパンと手を叩き、二人の仲裁に入る。
「はい、落ち着けって二人とも。危険を侵さないで調べる方法だってあるだろ?」
言いつつ俺は、部室の端に置いてあるノートパソコンを指差した。確か滝宮さんの話では、これは職員用のパソコンらしいから……俺ら生徒が知らないような情報も、閲覧が出来るかもしれない。
「ああ、なるほど。それは良い発想かもしれないね」
「ってか今更ですけど、なんでこんなパソコンが部室にあるんでしょうか……?」
滝宮さんはパソコンを起動させつつ、音ノ葉の問いに答える。
「先代の先輩が職員室から持ってきたようでね。以来、私も使わせてもらっている……これでテストの問題も他人の成績表も見放題さ」
「え、ええ……ヤバすぎでしょこの人。先生にチクって退学させましょうか」
言いつつ音ノ葉は、パソコンを弄ってる滝宮さんの姿をスマホで撮影する。だけど滝宮さんは気にする素振りも見せず、ただ一言。
「へぇ……君は男子生徒の身体測定の記録は興味ないのかい?」
「…………見ます」
屈するなよ音ノ葉。
「何に使ってるとかはどうでもいいけど、先に調べさせてもらうぞ。えっと、何かヒントになりそうなデータは……」
そして俺はパソコンを貸してもらい、ざっとフォルダを調べていくことにした……が、中々目ぼしいデータを見つけることが出来なかった。
「うーん…………怪しいのは無いな」
「そうですか、残念です……気を取り直して、隆太様の身体測定データでも見ましょうか! 私、隆太様の体重と胸囲が知りたいです!」
「アホ……」
言いつつ、俺は音ノ葉と位置を変わる。そして音ノ葉はパソコンをイジって……。
「というか次の身体測定っていつでしたっけ? 私、太ったからあんまり体重計乗りたくないんですよね……」
「男子みたいなことを言うんだねぇ、君は」
「女子だろうと、体形は気にするべきですよ」
そんなやり取りをしながら、音ノ葉は教員側が作成したであろう、校内スケジュールのデータを開く。そして身体測定の日にちを探し出したが……。
「……!?」
そのスケジュール内にありえないことが書いてあるのを発見した俺は、思わず音ノ葉の握っているマウスに手を伸ばして。
「……おい、待て!」
「ひゃっ!? なっ、なんですか!? 告白ですか!?」
「違う……これを見ろ、みんなが催眠を手にした日! この日のスケジュールに『球技大会』って書いてあるけど……俺の記憶では、そんな物は行われていなかった筈だ!」
その言葉に音ノ葉は驚愕の表情、滝宮さんは薄ら笑いを浮かべて……。
「え、ええー!? 私もそんなのやった記憶ありませんよ!?」
「……どうやら見つけたみたいだね。この謎を解く鍵を」
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