第18話 隆太様と食べるアイスが、世界で一番美味しいんですから
──
「これで解決ですね、隆太様!」
「ああ……って痛ぇ。唇からも血、出てるし……」
首元を押さえながら俺は言う。カッターで付けられた傷と、催眠をこらえるために噛んだ唇……その他諸々、俺はダメージを受けていた。それを見た音ノ葉は、焦ったように鞄から何かを取り出して……。
「ああっ、隆太様! じっとしてください!」
俺の首元に何かを貼った。これは絆創膏だろうか。
「ありがとう……あと、それと。助けてくれたことも。なんか俺、音ノ葉に助けられてばかりだな。情けないよ」
お礼を言いつつ、俺は心情をこぼす。音ノ葉はとても頼りになる反面、助けられる度に、自分の無力さを痛感させる。きっと俺一人じゃ催眠を撲滅させるどころか、一人も催眠持ちを消すことは出来なかっただろうな。
……でも、そんなネガティブな言葉も吹き飛ばすように、音ノ葉は微笑んでくれて。
「いいんですよ。隆太様はとっても頑張ってくれてますし、とっても役に立ってます。これからも二人で頑張っていきましょうよ!」
「……ああ。ありがとう。元気出たよ」
「ふふっ、隆太様の素直なところ、好きですよ」
そう言って音ノ葉は俺に寄りかかってくる。普段なら振り払うところだけど……今回ばかりはそんなことは出来ないな。
「……でも、どうして俺が危ないって分かったんだ? 連絡もしてなかったのに」
「だって遅かったんですもん」
「いやでも、それだけじゃ……何か確信的なことがあったんだろ?」
俺が言うと、音ノ葉は言うかどうか悩む素振りを見せた後……。
「んー、えっとですね……あのアイスクリーム屋から男子トイレの位置は、約300メートル。それから隆太様のトイレの平均滞在時間を考慮しても、あまりに遅すぎたんですよ」
「……いや、もっと腹痛と戦ってるとか考えなかったのか?」
「まぁそれも考えましたが……別の可能性も考えたんです」
「別のって?」
すると音ノ葉は手を上下にしごぐようなジェスチャーをしてきて…………おい。
「あたっ」
俺は軽く音ノ葉にチョップする……コイツ。俺がトイレで変なことしてるんじゃないかって思ったから、ここまで来たのかよ……聞かなきゃよかった。
……でも。それが無かったら俺はきっと催眠にかけられて、ひどい目に遭ってただろうからな。こればっかりは、音ノ葉の性欲に感謝しなきゃいけないかもしれない……いや、やっぱなんか変だな。素直に感謝できんわ。
「……というか、音ノ葉。アイスはどうしたんだ?」
「ああ、隆太様のとこ行くために、途中で抜けて来ましたよ。だから買ってません……気を取り直して、もう一度並びましょうか!」
そう言いながら音ノ葉は、さっきあったアイスクリーム屋に向かおうとするが……既に店にはシャッターが下りていて。
「あっ!? もう終わっちゃってますね……?」
どうやらもう売り切れたようだ。あれだけ並んでたし、キャンペーン中だったからこうなるのも時間の問題だったか。まぁ、諦めるしかないだろうが……。
「…………」
これだけ色々な場所に付き合わせて、催眠からも助けてくれたのに。音ノ葉にこんな悲しい顔させるのは……流石に俺も目覚めが悪いな。……だから。
「……よし、コンビニ行こう」
「えっ、あっ!」
そのまま俺は音ノ葉の手を引いて、近くのコンビニまでやって来た。そしてアイスのコーナーまで来た俺は、一つのカップアイスを手に取って。
「音ノ葉も好きなの選んでくれ。その……奢るからさ」
そっけなくそう言った。その言葉に……音ノ葉はとびっきりの笑顔で返事をしてくれて。
「……はいっ!」
チョコのアイスを手にした。そのまま俺は自分の分と音ノ葉のアイスを購入して、近くにあった公園のベンチへと座った。そこで沈みかけてる夕日を眺めながら、俺はこう口にして……。
「二段アイスじゃなくて、ごめんな音ノ葉」
「いいんですよ。隆太様と食べるアイスが、世界で一番美味しいんですから」
「……そっか」
言いつつ俺はバニラアイスを口に含む。庶民的な味だけど、疲れ切った俺の身体には非常に染みていた……ふと隣を見ると、音ノ葉は俺のアイスを横目で眺めていて。
「……食うか?」
言いながら差し出すと、音ノ葉は遠慮する素振りも見せずに。
「はい!」
と、手に持っているスプーンで、大きくアイスを掬うのだった。まぁ……これくらいは大目に見てやろう。
「えへへっ、とっても美味しいですね。隆太様!」
「ああ」
「そうだ、私のチョコアイスもあげますよ! あ、それとも口移しして、ミックスアイスにしちゃいますか……!?」
「よくそんなキモいこと瞬時に思いつけるね」
冷静にツッコミつつ、俺も音ノ葉のアイスを掬って食べる……うん。チョコアイスもたまには悪くないな。
「ふふっ。デートも楽しみましたし、明日からも撲滅活動頑張りましょうね!」
そう言いながら、音ノ葉は俺がスプーンですくった箇所を重点的に舐めまくる……ちょっと……いや、だいぶキモいけど。それでも、音ノ葉は俺の唯一無二の相棒だ。
「……ああ。頼りにしてるぞ、音ノ葉」
「はい、もちろんです! 隆太様!」
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