第16話 隆太様は五段を買うといいですわ!

 それから俺はカードをたくさん貰って、お姉さん達からルールを教わり……二時間ほどカードゲームをプレイしたのだった。


 ──


「いやー、思ったよりも面白かったな。カードゲーマーもみんないい人だったし……楽しい時間だった」


 カードショップで購入したパックを片手に、俺は音ノ葉に話しかける。そんな彼女はやれやれと、両手を広げて。


「まぁ……かわりに連絡先を聞こうと企んでる人や、裏で女子同士のいざこざがあってましたけどね」


「そうなのか?」


「ええ。多分あの場にいた女、ほとんど隆太様のこと好きになってますよ。ワンチャン狙ってる人ばかりでしたよ」


「え、ええ……」


 言われて途端に貰ったカードが、呪いのアイテムのように思えてきた。でもお前自体には何も罪は無いんだよな……と美少年キャラが描かれたカードを眺める。


「でも……催眠かけてくる人はいなかったよな。あの状況だとかけにくかったのか、それとも単に持ってなかっただけなのか……」


「まぁ私という付き人の存在には気づいてましたからね。もし持っている人がいたら、最初に私にかけて、きっと隆太様をフリーにしたでしょう」


「なるほど……じゃあ持っていなかったと判断してもいいのか?」


「断定は出来ませんが……その可能性はかなり高いですね」


 そうは言っているものの、音ノ葉の口調は確信しているのに近いようなものだった。俺がカードで遊んでいる間も、音ノ葉はずっと警戒してくれているのは分かっていたし……彼女の言葉は信じてもいいだろう。


「じゃあそうなると……やっぱり催眠持ちは学生ってことか?」


「でも、今日行ったゲーセンやカードショップにも学生はいましたよ」


「そうなると……明才に通う学生だけ……?」


 今日は色々と街を探索してみたが、催眠をかけようとする怪しいヤツは見当たらなかった。そうなると……今までの情報と照らし合わせると、現時点で催眠アプリを持っているのを確認出来たのは『明才高校に通う女子生徒』ってことになる。


「可能性は十分にありますね。でももっと時間を掛けて、学校外を詳しく調査するのも悪くないと思いますけどね? 例えば……ショッピングモールとか遊園地とか!」


「……お前が行きたいだけじゃないのか?」


「もー、言わせないでくださいよー?」


 音ノ葉は頬を赤らめながら、嬉しそうにクネクネする。まぁ今日は色々と付き合わせてしまったし……今度は音ノ葉の行きたい場所にも行くのも悪くないかもな。


「……ま、仮説が立てられただけでも大きな収穫です。きっと今日だけでも、催眠撲滅に一歩近づけましたね、隆太様!」


「ああ、そうだな」


 そんな会話をしながら歩いていると……道中にアイスクリームのキッチンカーが止まっているのが見えた。それに音ノ葉も気づいたのか、こんな提案をしてきて。


「あ、そうだ! 今日は疲れたでしょうし、一緒にアイスクリームでも食べませんか? 私、奢りますから!」


「えっ、いいのか?」


「もちろんですわ! 隆太様、フレーバーはどうされます?」


「えっと、バニラ……」


 俺がそうやって答えると、音ノ葉は露骨につまんなそうな表情を見せて……。


「ええ~? もっとホッピングとかしましょうよ」


「なんだかんだ普通のが一番美味しいんだよ……って結構並んでるな?」


 ここで俺はそのアイスクリーム屋に、長蛇の列が並んでいるのに気がついた。近くののぼりにには『キャンペーン中』と目立つ文字が書いてあって……。


「どうやらキャンペーンやってるみたいです。今一個買うと、もう一個追加で貰えるみたいですね」


「太っ腹だな」


「でも、隆太様は五段を買うと良いですわ」


「言いたいだけだろそれ」


 そう言いつつ、一緒に列に並ぼうとした……がその時、俺に急な腹痛が俺を襲ってきて。とても一緒に並んで待つことは出来ないと判断した俺は、音ノ葉にこう伝えていて。


「ちょ……ちょっとトイレ行ってくる」


「あっ、分かりました……気を付けてくださいね?」


「あ、ああ。大丈夫だ。もう催眠持ちは明才の学生って分かったからな………」


「…………今日ローター入れてたらどうなってたんだろ」


「なんか言ったかお前」


 ──


 近くの公園の男子トイレ。


「……ふぅ」


 なんとか間に合った俺は、個室で用を足していた……この世界は男が少ないから、男子トイレの数も少ないんだよな。だからどこにあるかとか、ちゃんと調べておく必要があるのだ……ああ、近くにトイレあって本当に助かったぁ……。


「……」


 でも男子トイレの数が限られてるってことは、逆に言えば催眠持ちは待ち伏せしやすいってことでもあるか……? でもまぁ、流石にトイレの中まで入ってくる人なんていないでしょ……しかもここ、学校外だし。


 思いつつ俺は水を流し、個室から出る。そして手を洗おうとした…………瞬間。鏡に映った俺の姿の後ろには、フードを被った謎の女が立っていて……。


「…………ッ!?」


「動くな」


 懐からスマホを取り出してきたのだった。

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