第15話 王プしたいわけじゃないんだからね

「え、どうなってるんだ……?」


「だから言ったじゃないですか。ゲーセンは悪い女の人が集まる怖い場所なんですよ? 最近は結構クリーンになりましたが……それでも男の子は少ないですよ」


 当然のように音ノ葉は言う。やっぱり趣味嗜好も、男女逆転しているのだろうか? それとも単純に男が少ないってだけなのか……両方か?


「なるほど……せっかく来たし、ちょっと遊んでみるか?」


 まぁ長い時間かけて、ここまで来たんだし……無駄足ってことにはしたくなかったから、俺はそんな提案をしてみた。そしたら嬉しそうに音ノ葉は頷いて。


「いいですね! 何やりますか? クレーンゲームはどうですか?」


「ああいや、久々に俺やりたいやつがあって……」


 そう言いつつ俺はクレーンゲームのコーナーを抜けて、色んな音楽が鳴り響く場所へと足を進めた。すると後ろからは、焦ったような音ノ葉の声がして。


「あっ、隆太様、そっちのコーナーはマズイです……!」


「えっ?」


 音ノ葉の忠告も虚しく。音ゲーコーナーに足を踏み入れた瞬間、一気にそこにいた人達の視線は俺に集まった。そしてその中の一人が、俺に話しかけてきて……。


「おっ。お兄さん、やり方分かる?」


「え? いや分かるっすけど……」


「……ちょっと。この人、私の連れなんですけど」


 ここで音ノ葉が間に入ってくれた。それを見た女は残念そうに「女持ちかよ」と捨て台詞を吐いて、その場から去るのだった……そして音ノ葉は俺の手を取って。


「大丈夫でした?」


「あ、ああ……ありがとう」


 このままナンパされてたら、催眠持ちか確認出来たんだけど……まぁ危険なところから助けてくれたんだし、感謝しておこう。それで、俺の無事を確認した音ノ葉は、手を後ろに組んで笑顔のまま。


「ふふっ、じゃあやってみてくださいよ。後ろで応援しますから!」


「ああ」


 そして俺は前世でよくプレイしていた『太鼓の名人』という音楽ゲームをプレイした。久々にやったから腕前は落ちていたが、確かに身体は覚えていて……それなりに難易度の高い曲をフルコンボした。


『フルコンボだどーん!』


「わぁ、凄いですよ隆太様!」


 その嬉しそうに飛び跳ねている音ノ葉の後ろには、太鼓の名人のプレイヤーであろう女子の数人が腕を組んで俺を見ていた。そして俺を見るなり、拍手をしてくれて……いや、普通に恥ずかしいんだけど。


「…………」


 このまま変に目立っても、これからの活動に支障をきたしそうだし……これ以上ここにいても仕方ない。俺は音ノ葉を連れて、ゲームセンターから出るのだった。


「よ、よし行くぞ、音ノ葉!」


「ああー、もっと引っ張ってください~!」


 ……そこは引っ張らないでください~! じゃねぇのかよ。


 ──


 そして次にやって来たのは、カードショップだった。確か前世では、熱気が立ち込めるほどに、野郎共が集まっていた記憶があるのだが……。


「……女しかいませんね?」


「まぁそんな気はしてた」


 どうやらここもゲーセンと同じく、女が集まっているらしい。もちろん男の気配など微塵も感じないが……ここはもう、俺が催眠持ちを釣り出すべきだろうか? でもこんなコミュニティが出来ている中に、無理やり入るのはまずいかなぁ……。


「……なぁ、音ノ葉。ここで俺がルール教えてくださいー! とか、今強いデッキとかあるんですかー? とか聞いたらどうなるかな?」


 そう聞いてみると、音ノ葉は白い目で。


「そりゃ王になれますよ。一瞬で」


 王……前世で言う姫的な立ち位置だろうか。でもどこを探しても男がいない以上、俺自身が催眠持ちを釣り出すしか方法は無いのだ。別に姫プ……じゃなくて王プしたいわけじゃないんだからね。


 とりあえず……一人でデッキ構築しているあの人に話しかけてみるか。意を決した俺は彼女に近づいて、声を掛けてみた。


「あの、お姉さん。俺もそれやってみたいんですけど、ルール教えてくれますか?」


 するとその女性は驚いた表情を見せたまま、何度も交互に俺とカードを見て……。


「え、えっ!? 君……カードゲームに興味あるの!?」


「あ、はい……」


「え、えっと、じゃあ私のデッキ貸す……いや、あげるから! それ使って!」


 そう言って、スリーブに入れた何十枚ものカードを俺に渡してくるのだった。流石にそこまでしてもらうつもりもなかったので、俺は断ろうとしたのだが……。


「いやいや、悪いですよ!」


「いいんだって! ダブってるやつたくさんあるし……それじゃあ解説するね! そこ座って!」 


「あっ、はい」


「うん、まずはね、このカードゲームは進化っていう特殊な行動が出来て……」


 そしてそのカードゲームについての講義が開かれた。そのお姉さんの話を聞いていると、徐々に俺らのテーブル周りにには、カードゲーマー達が集まってきて……。


「まさか男の子プレイヤーが誕生するなんて……」

「私もダブったカードあげるよ! これで強くなるよ!」

「私がデッキ見てあげるよ! 足りないのあげるから!」

「初心者だから次対戦しませんか?」

「あー!! 人が多すぎて隆太様が見えませんー!!」


 遂には全方位囲まれるほど、俺らのテーブルに人が集まったのだった。 

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