第14話 街ブラパトロール

 ──


 そして迎えた日曜、俺は音ノ葉と街に繰り出すことにした。もちろんその理由は、催眠がどこまで流行っているかの確認……パトロールのためであり、決してデートなんかではないのだが。


「あっ……お待たせしました、隆太様!」


 いつもの制服姿とは違う、白のワンピース姿の音ノ葉はとてもおしゃれで。少しだけ可愛いと思ってしまった……なんか悔しいな。


「いや、待ってないけど」


「ふふっ。少年マンガみたいなやり取りが出来て、私嬉しいです!」


 ……少女マンガじゃないんだ。まぁこの世界なら、この表現の方が正しいのか? 俺はスマホから視線を上げ、音ノ葉を見ながら言う。


「言っておくけど、今日はパトロールのための外出だからな。お前が変な寄り道とかしたら、普通に置いていくからな」


 すると音ノ葉は不満そうに「ぶー」と呟いた後。


「……分かってますよー。別に美味しそうなパンケーキ屋さんとか、綺麗な夜景の場所とか探してませんし、ホテルのチェックインの仕方とか勉強してませんから。受付でモタモタするとカッコ悪いんじゃないかな、とか思ってませんから」


「したんだな……ってかスムーズに入れる方がなんかヤダよ」


「えっ、行ってくれるんですか!?」


「行かねぇよ」


 そんなやり取りをしつつ、俺は足を進める……。


「冗談はこのくらいにして、早速行くぞ」


「どこに行くんですか?」


「とりあえず最初はウロウロして、男の人を探そう。その人の近くにいれば、催眠持ちが近づいてくるかもしれない」


 男の人を監視して、催眠持ちが近づいて来たところを、俺らが捕らえる……って作戦を考えていたのだが。音ノ葉はその作戦には、あまり乗り気ではなさそうで。


「うーん。そもそも男の人なら、催眠持ちじゃなくても女は平気で声かけますよ? 催眠持ちかどうか見分けがつきません」


「まぁそうか……でも最近俺、そんなに声かけられなくなったんだよな。魅力でも落ちたのかな……」


 俺がそう呟くと、音ノ葉はブンブンと首を横に振って。


「いえいえ、そんなことないですわ! さっきから私、一人の時とは比べ物にならないほど視線を感じてますし……きっとチャンスがあれば狙いに来ますよ」


「そうなのか?」


「ええ、私がいるから来ないだけでしょうけど……でもそんな視線には屈しません。隆太様は私が護りますわ!」


「それはどうも」


 お礼を言いつつ考える……そうか、ここ最近は音ノ葉が側にいてくれるから、女からの声掛けが格段に減っていたのか。やっぱり音ノ葉はボディーガードととして優秀かもしれない……常に側にいてもらうべきだろうか?


「……あっ! ローター持ってくるの忘れましたわ!」


「いらねぇよ」


 思った瞬間コレだよ。ホントにいいのか? コイツを信用して……。


「今日こそ必要じゃないですか。外は危険がいっぱいなんですよ?」


「わざわざ自分から危険を増やす必要ないから」


「えー。そんなー」


 そんな会話をしつつ、しばらくブラブラ街を歩いてみた。だけど目に入る人物は女性ばかりで、男性の姿は全く見当たらなかった。うーん、男は引きこもってるのか? それとも厳重に警備されて外に出ているのか……。


 ともかく、やみくもに歩いても見つからないな。もう少し作戦を考える必要があるかもしれない。


「全然いませんね……男の人って普段どこにいるんですか?」


「俺もあんま知らないんだよな……でも予想することは出来る筈だ」


「心当たりあるんですか?」


「まぁな……」


 前世の知識を活かすなら、やっぱり男の趣味である場所に男は集まるだろう。例えばそうだな……。


「ゲーセンとか、カードショップはどうだ?」


 俺がそう言うと、音ノ葉は露骨に苦い顔を見せてきて。


「……えー、本気で言ってます?」


「いや、本気だけど。俺変なこと言ったか?」


「…………」


 音ノ葉はそのまま「ありえねぇだろコイツ」みたいな顔で俺を見てくるが……まぁ、隆太様にも何か考えがあるのだろう、と自己解決してくれたようで。


「……分かりました。本当にごくごくごく稀にいるので、行ってみましょうか」


 そう納得してくれたのだった。


「ああ。じゃあ行こう。えっと、近くのゲーセンは……」


「こっちですよ、着いてきてください」


 ──


 それから音ノ葉に案内されるまま、ゲーセンまでやって来たのだが…………。


「……嘘だろ?」


「ほらぁー、だから言ったじゃないですか」


 音ゲー格ゲーパズルゲー、メダルにクイズにクレーンゲームまで……プレイしていたのは、全員女性だったんだ。

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