第12話 これ止まらないです!!!
その振動により、俺は一瞬だけ正気を取り戻す。ただ、油断している相手ならば、状況を変えるには一瞬だけでも十分で……。
「……ッ、おラァッ!!!」
「うわあっ!?」
イヤホンを外しながら、篠田を突き飛ばした。そしてその後ろから、音ノ葉がスマホを片手に走ってきて……。
「探しましたわよ、隆太様!」
そのまま篠田を押さえつけて、催眠にかけた。当然、不意の攻撃を回避することは出来ず、篠田は完全に催眠にかかるのだった……ふぅ、なんとか助かったか。
「ありがとう、音ノ葉。危ないとこだった」
一息ついて、俺は音ノ葉にお礼を言う。そしたら音ノ葉は俺の無事を確認したのか、安堵したように大きな声を出して。
「ホントですよ! まぁ、すぐに追いかけなかった私のミスでもありますが……」
「どうして俺の場所が分かったんだ?」
そう問うと、音ノ葉のポケットからは謎のリモコンが出てきて……。
「そりゃもう、これを鳴らしまくって」
「無闇にオンオフ繰り返していたのか……でもそのおかげで助かったよ」
「やっぱり常にローターを入れておくべきですね!」
「……もっと早く助けてくれたら、その必要もなかったんだけどな?」
そして俺は床に落ちた滝宮さんのスマホと、催眠状態の篠田に視線を向けた。それに気づいた音ノ葉は、篠田に近づいて命令をしようとするが……。
「ああ、忘れてました。早く催眠消さないと……」
「待ってくれ。こいつは普通じゃない音声催眠アプリを持っていた……何か秘密を持っているかもしれない」
篠田は音ノ葉や滝宮さんとも違う、特殊な音声催眠を持っていた。何か特別な情報を持っているんじゃないかと考えた俺は、詳しく話を聞いてみることにした……もちろん催眠にかけたのは音ノ葉なので、音ノ葉から聞いてもらうことにする。
「情報を引き出してみてくれ」
「わ、分かりましたわ。ええっと『どうして音声催眠を持ってるんですか?』」
「……」
だが篠田は虚ろな目をしたまま、何も答えずにいた。
「答えませんね……?」
「うーん……前に実験した通り、その人間に出来ないことは、命令しても出来ない。催眠状態でも言えないってことは、本当に分からないんだろう」
「じゃあ謎ってことなんですかね?」
「だな。それじゃいつも通り消して……いや。流石に滝宮さんのスマホ画面割れちゃったし、修理代くらい請求してもいいかもな」
そう俺が提案すると、音ノ葉は嬉しそうに頷いて。
「うんうん! それくらいするべきですよ! 隆太様、催眠かけてきた人に甘すぎですもん!」
「そうか? でもまぁ……催眠貰ったこいつらも被害者みたいなとこあるからな」
「そういうもんなんですかねぇ……まぁとりあえず、命令しますね」
そして音ノ葉は篠田に命令をしていった。
「隆太様にスマホの修理代を渡すこと、そして催眠アプリを消して、催眠に関する情報を全て忘れること。いいですね?」
「了解しました」
そう言うと篠田はアプリを消して、財布から一万円札を渡してきた。それを受け取り、しばらくすると篠田の目に光が徐々に戻りだして……。
「……あ、あれぇ? 私どうしてここに?」
どうやら催眠が解除されたようで、困惑しているようだった。俺はそれっぽい嘘でこの状況を説明する。
「篠田さんが俺の後を追ってきたんだよ。用はこっちが聞きたいくらいさ」
「えっ、そうだったっけ? ごめんね、記憶にないや。お詫びにジュースでも奢ろうか……って、あれっ? お金減ってる……?」
財布を開いた篠田は、困惑の表情を見せる。壊されたとは言え、金奪ってるのは少々気が引けるな……やっぱり返すべきか……?
「あの、篠田さん……」
「んー、今月使いすぎちゃったかな? なら、バイト増やさなきゃ! ごめん、ジュースはまた今度!」
「あっ……」
そう言って引き止める間もなく、篠田は廊下を駆けていった……そんな俺を見た音ノ葉は優しげに微笑んで。
「気にしなくていいんですよ。それに彼女、生き生きしてましたし」
「……そうだな。芹沢さんと同じで、本当は良い奴だったんだよ。催眠アプリに唆されたから、こんなことになっただけで……全部催眠が悪いんだ」
「ええ……そうですね! 今回も無事作戦成功して良かったですわ!」
「ああ。音ノ葉もありがとう」
握手をしようと俺は手を差し出す。そして音ノ葉が手を伸ばした瞬間、ポケットからローターのスイッチが床に落ちて……。
「……んっ、おおおおおお゛っ♡!!?!?!?!?」
「あっ、スイッチが壊れちゃいました!! これ止まらないです!!!」
「てっ、てめえええええええっへへへえんんっ♡♡!!!!!」
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