第10話 これを入れてください

「え、そんなんでいいの?」


 俺は拍子抜けの声を出す。てっきり身体を押し付けるとか、全裸になるとかを想像していたんだけど……いや、そんなん言われても絶対やらなかったけどさ。


「はい、もちろんですわ! あ、でも見せ方にも工夫が必要かもです。鎖骨を見せたり、腹筋を見せたり……ガッツリじゃなくて、チラッと見える方がエロいです!」


 チラリズムというやつだろうか、この世界にもちゃんとあるんだな。じゃあこの世界の男の腹筋や鎖骨は、前世での女子のパンチラやブラチラに筆頭する価値を持つのだろうか……そんな物を俺が持ってるって思うと、なんか変な感じだな……。


 そして音ノ葉は人差し指を立てながら、こんな提案を俺にしてきて。


「それじゃあ隆太様、練習してみましょうか!」


「……お前が見たいだけじゃないのか?」


「べっ、別にぃ!? これは……そう、必要なことなんですから。だからいやらしい気持ちとか、一切持ってませんからね?」


「…………」


 試しに俺はペロンとシャツをめくってみる。そしたら音ノ葉は大きな声を出しながら、手をブンブンと振って興奮気味に。


「おっほっ!!? ちょ、ちょっと! いきなり刺激が強すぎますよ、隆太様……!! …………あれ。もう少し、めくってくださらないんですか?」


「やっぱ邪な気持ちあんだろお前」


 言いながら俺はシャツを下ろす。まぁ作戦のことは大体分かったけどさ。


「でも作戦中に急に催眠を見せられたり、力付くで見せられた場合どうするんだ?」


「基本的に催眠は視線を逸らせば大丈夫だと思いますけど……無理やり見せられた場合はヤバいかもしれませんね。そうなった場合、催眠快楽オチになる可能性もありますし……あ、世間では快楽オチをハッピーエンドと捉える人も多くいますけど、私は全くそうは思いません……」


「聞いてねぇよ」


 何の話をしてるんだコイツは……そして音ノ葉は続けて。


「作戦中はなるべく私も近くにいるようにしますが、いつでも助けられるとは限らないし。この滝宮とかいうメスも役に立たなそうですし……」


「君よりは有能だと自負しているけどね?」


「私はこいつと違って大人なので言い返しません……ですから、危ない時の切り札も用意しておかなくちゃなりませんね」


「切り札?」


 そして音ノ葉は自分の鞄を漁りながら、喋り続けて。


「催眠にかかってる時は催眠に意識が向いてるから、強制的に別の方に意識を向ければ催眠解除できるんじゃないかなって思ったんです」


「なるほど……でもどうやって?」


 俺がそう言うと、音ノ葉は鞄の中からピンク色の……小さな卵型の機械を取り出した。そしてそれを机の上に置いて……。


「……」「……」


 ……音ノ葉は何も言わないけど、これ…………これ完全にローターだよね? なんか……すげぇ嫌な予感するんだけど。そして音ノ葉は真っ直ぐ。曇りなき瞳で俺を見つめて……こう言った。


「これをおしりに入れてください」


「…………」


「これをおしりに入れてください」


 音ノ葉はもう一度繰り返す。いや、聞こえてなかったわけじゃないんだって……これをケツの穴に入れるって、こいつ正気か……?


「……冗談言うな」


「いや、ガチですわ。ガチで言ってるんですわ」


「ふざけんな」


 俺は強い口調で言い返す……これほど音ノ葉の言葉が、冗談であってほしいと思ったことはない。一体これに何の意味があるって言うんだ……?


「でも……本当に危ない時、このバイブで助かるかもしれないんですよ?」


「そんなんで助かりたくないわ……滝宮さんもなんか言ってやってください」


 埒が明かないと思った俺は、滝宮さんに助けを求めた……だが、彼女の答えは全くの予想外のもので。


「いや……脳内ピンクのバカにしては、良いアイデアかもしれない。バイブの振動で強制的に痛み……いや、快感を味合わせることにより、正気を取り戻すこともありえるかもしれない」


「アンタ達が正気になれ……」


 俺は頭を抱える……マジか。マジで言ってるのか、コイツらは。そんなバイブの振動で、本当に催眠を解除出来るって言うのかよ……? そして音ノ葉は潤んだ瞳で、俺を見つめてきて……。


「でも……本当に隆太様のことを思って言ってるんですよ? 隆太様が催眠かけられちゃって、私のことも全部忘れちゃって。女の性欲のはけ口にされたら、私本当に悲しいです」


「いや、そうなるのは俺も嫌だけどさ」


「それに隆太様が陥落してしまうと、他の男子にも手が及んで……男子を順番にパコパコ出来る、無法な世界が広がってしまいます」


「パコパコやめて?」


「生きの良い高校生のち◯ちんは人気で、ずっと代わりばんこに使われるんですよ」


「誰かコイツの口を塞いでくれ」


「んちゅ……」


「キスじゃねぇよ」


 漫才やってんじゃねぇんだよ……はぁ。でも、催眠に抗おうとしている俺らが全滅したら、世界が終わるのは間違いないだろうな……そのことは俺だけでなく、滝宮さんも理解しているみたいで。


「少々飛躍してるが、その未来もありえなくはないだろう。多分催眠持ちの多くは、江野を狙っている……まだ様子を見てるだろうが、君が陥落したら一気に治安は悪化するだろう。どこでもパコパコの世界だってありえる」


「完全にエロ漫画の世界なんだよなぁ……」


「催眠アプリがある時点で、もう両足とも突っ込んでしまっているさ」


「……」


 その言葉に、俺は何も言い返せなかった。そしてまた音ノ葉はそのピンク色のブツを手にして、俺に訴えかけるように。


「でも。これ一個で、バイブ一つで助かる命があるかもしれないんですよ?」


「あってたまるか、そんな命」


「大丈夫です、小さめのにしておきましたから」


「そういう問題じゃねぇんだよ……」


 俺は必死に反抗するが、音ノ葉は俺が頷くまで説得するつもりらしい……全くどうしたもんかと俺が考えていると、音ノ葉は更に涙目でこっちを見てきて……。


「お願いですよ、隆太様。私のことも忘れてほしくないんです。催眠にかけられたら、真っ先に私との記憶も消されるでしょうから」


「なんで?」


「主に女の嫉妬で……」


「…………」


 ……はぁ。まぁ。音ノ葉も同性から嫉妬の目を向けられて、危険な目に遭うのを承知の上で俺に協力してくれてるからな。これで……これを入れるだけで、音ノ葉が危険な目に遭わなくなると言うのなら。少しくらい協力していいのかもしれない……。


 思った俺はしぶしぶ、頷いてこう言った……。


「分かったよ。入れるだけな……?」


 その言葉に音ノ葉は両手を上げて、喜んでみせて。


「わー、やったー!! ありがとうございます!」


「でも……なんもない時、スイッチ入れるなよ?」


「はい! えへへっ、でも遠隔でローター持つなんて、興奮しますね……!!」


「……変な時にスイッチ入れたら、お前マジで命無いと思えよ」

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