第9話 ……なにより◯◯◯がデカい

 ──


 次の日。無事に文芸部に入部した俺らは、部室で作戦会議をしていた。ノートにそれっぽい図を書きながら、俺は口を開く……。


「やっぱり催眠アプリは広まっている。全員じゃないにしても、校内の10%……いや、20%は持ってると見ていいかもしれない」


「えっ、そんなにですか……!? でも20%っていう根拠はあるんですか?」


「勘だ」


「あ、勘なんですか……」


 音ノ葉は何か言いたげな表情を見せたが、それ以上は何も言わなかった。でも実際にアプリを使っているのを見たのは数人だけだし、具体的な割合を予想することすら、現状は難しいのだ……。


 ……ここで、俺らの話を聞いていた滝宮さんが会話に参加してきて。


「それならば一人ずつ生徒を呼び出し、催眠かけてスマホの中をチェックすればいいじゃないか。これならば確実だろう?」


「……」


 それを聞いた音ノ葉は、深くため息を吐いて……ものすごーく呆れたように。


「はぁ……馬鹿は会議に参加しないでください。そんなことしたら怪しまれるに決まってるじゃないですか。それに催眠アプリを消して回ってるなんてことがバレたら、私達……主に隆太様が大変な目に遭います」


「大変な目、とは?」


「そりゃ、記憶消されて、服従させられて、奴隷のように性欲のはけ口にされて……でも時々催眠解除させられて、困惑する様子を楽しまれて……」


「……詳しいね?」


「い、いや別に……? 催眠モノとか、全然好きじゃないんですけどね?」


 音ノ葉はそう言うが……絶対好きだろ、催眠モノ。だって詳しいし、なんだか妙に生々しいし……別に問い詰めたりはしないけどさ。


「じゃあ……とにかく今は、催眠かけてこようとするヤツをカウンターで消させるってことしかできないのか?」


「そうですわね。催眠アプリを持っている人を特定できたら、狙い撃ちで消すことも可能かもしれませんが……」


「なら、催眠アプリを持っている人を絞り込むところからじゃないかい? 法則を見つけられたら、催眠を消すのも楽になるだろう」


 確かに持っている人さえ分かれば、誰にも気付かれることなく呼び出せるだろうし、催眠を消せる可能性だってグンと上がるだろうが……。


「でもどうやって絞り込めば?」


「それはサンプルをたくさん集めないと」


「でも自分からは仕掛けられないんじゃ、集めようがないですよ」


 自分から催眠にかけに行くのは怪しいし、俺達の作戦がバレるリスクだって高まる。だが、催眠をかけてこようとするヤツを待つのも時間がかかる。どうすれば効率的に催眠持ちをおびき寄せるか、と考えてると……音ノ葉がこう口にして。


「……おとり捜査ですわ」


「え?」


「隆太様がチラチラ欲情を煽るような行為を見せれば、催眠持ちの女は興奮して隆太様へと催眠をかけてこようとします。そこをカウンターすればいいんですよ!」


 ああ、なるほど。確かにそれだと、催眠持ちを釣り出せるかもしれないが……。


「でも……俺じゃなくて、他の男がやればいいんじゃないか? 他の男がおびき寄せて……そこに催眠をかけようとしてきたヤツを、俺らで取り押さえる方が成功率が高いと思うんだけど」


「でも、隆太様以上に催眠に対して対処を取れる人はいませんし……それに、隆太様が一番狙われやすいと思いますからね」


「なんで?」


 すると音ノ葉は俺の身体をチラチラ見ながら……小声で。


「だってそりゃ…………エロいし」


「おい」


 俺は音ノ葉を軽く小突く。俺がエロいって……どの辺がだよ。前世の男は女の胸や尻にエロさを覚えていたが……男の場合はどうなるんだろうな? 筋肉とかか? でも俺そんな筋肉とか無いし……。


「他に理由ないのか?」


「ありますよ! 隆太様はかっこよさと可愛さを兼ね備えていますし、運動も勉強もできる天使様ですし……!」


 男に使うことあるんだ、その言葉……ってか運動も勉強もめちゃくちゃ出来るわけじゃないんだけど。男フィルターでもかかってるのだろうか。


「そして……なによりち◯こがデカい」


「何を言ってるんだお前は」


 もう一度俺は音ノ葉を小突いた……いや、今度は強めにどついた。やっぱこの世界の男のエロい部分はち◯こなんかい。そして音ノ葉は気味悪い笑い声を上げて。


「ふふっ……気付いてないと思いましたか? 朝、起立している時に隆太様の下半身も起立していることに……!」


「やかましいわ」


「クラスのみんなも拝んでるんですよ? 『初日の出だ、ありがたやー』って」


「本性出てきたなお前……」


 俺は冷めた目をしつつ、ため息を吐く。でも……前世で男が女性の胸を見たりするのも、クラスの女子ランキング作ったりするのも、何でシコっただの話してるのも、こんな感じだったのかなぁ……実際に体感してみると、ちょっと呆れてくるな……。


 そして音ノ葉は机から、身体を乗り出してきて。


「とにかく! 催眠アプリを持っても……いや、持ったからこそ、女はとびっきりのイケメンとヤりたいんですよ!」


「そんな澄んだ瞳で、クソみたいなこと言わないで?」


「でも事実ですから……」


「はぁ…………それが俺なの?」


「はい! かっこいい子は基本男子校に行っちゃうんですけど、こんな共学に最高レベルの隆太様が来ているのは、本当に神なんですよ! 奇跡なんですよ!」


「…………」


 ……まぁこの世界だと、男に生まれただけで将来の成功は保証されてるようなものだし……わざわざ危険な女子が集まる共学なんかに行く方が異端なんだろうな。


 このまま男子校に転校して、逃げるって手も無くはないが……それだと俺以外の男子が被害に遭ってしまうからな。催眠のことを知った以上、逃げるのは目覚めが悪いし……立ち向かうしかないよな。


 それで音ノ葉にセクハラされて困ってると思ったのか……滝宮さんが助け舟を出してくれて。


「まぁ脳内ピンクのバカは置いといて……私と江野で、催眠アプリ持ちを釣り出す方法を考えるのはどうだろうか」


「あ? なに仕切ってんですか。アンタはまだ仲間として認めてませんからね?」


「そう言われてもな……別にそっちがその気なら、私が女子生徒側に情報を流すことだって可能なんだぞ?」


「うわ、うわぁっ! ほらぁ! だから言ったじゃないですか!! だからこんなところで会議なんかしたくなかったんですよ!!!」


 音ノ葉は滝宮さんを指差しながら、バタバタ暴れ回る。そんな音ノ葉を押しのけ、俺は滝宮さんの前に立って。


「逆に言えば、仲間として受け入れたら俺らの味方でいてくれるんですよね?」


「ああ。私も他の人間が催眠アプリ使えなくなる方が都合が良いからね」


「い、いずれアンタのも消しますからね……!?」


 音ノ葉は滝宮さんと仲良くする気は無さそうだが……ここで対立しても仕方ない。俺らの敵はもっと外側にいるのだ。


「それじゃあ話を戻すけど。おとり捜査ってなにすればいいんだよ?」


 すると音ノ葉は「よくぞ聞いてくれた」と言いたげに、ビシッと天に人差し指を掲げて。こう言った。



「隆太様が欲情を煽る行為を……つまり、薄着になればいいんですわ!」

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