第7話 部活に入ればいいんですわ!

 ──


「ああ……ひどい目に遭いましたわ……こっぴどく叱られて、親まで呼ばれそうになりましたわ。次やったら多分退学ですわねこれ……」


 放課後、屋上。げっそりした様子で、音ノ葉は言う。前世で例えるなら、男子が女子に陰部を見せつけていたところを、他の男子に見つかったってことだよな……そりゃ問題にならない方がおかしいか。


「いや、ごめん……でもあそこで庇ったら、催眠のことバレるんじゃないかなって思って。催眠かけようにも、音ノ葉にかけている最中だったし。ああするしかなかったんだよ」


 俺は音ノ葉に謝る。そしたら彼女は首を横に振って。


「分かってますよ。隆太様のためなら、幾らでも脱ぎますわ」


「ホントに分かってる?」


 単純に脱ぎたいだけなんじゃ……でも音ノ葉には悪いことしちゃったな。今度お詫びに何かしてやろうかな……エロいこと以外。


「でも、音ノ葉は催眠使って、叱られるのを回避しようとか思わなかったんだな」


「まぁ……やりたいように催眠を使うのは、私が嫌ってる奴らと同じって隆太様に言われてしまったので。催眠を消すって目的以外では、なるべく使わないようにしようと思ったんです」


「そっか。偉いな」


 俺は音ノ葉の頭を撫でてやる。そしたら彼女は嬉しそうに、身体をくねらせて。


「えへへっ……! ……まぁ隆太様にスマホ預けたままだったので、使おうにも使えなかったんですけど」


「やっぱ使う気だったんじゃねぇかお前」


 撫でる手を止めて、俺は音ノ葉にスマホを返す。そしたら音ノ葉は不満げな表情を見せたまま、スマホを受け取るのだった。


「本当に退学の危険があったら、使わざるを得ませんよ……それで、屋上も危険な場所だって分かったことですし。学校内で安全な場所を探さなきゃいけませんね」


「確かにそうだな。また誰か入ってくるかもしれないし……」


 誰よりも先に屋上に入って、入口に何かを置いて塞ぐことも考えたが……それは普通に怪しいし。今は過ごしやすい季節だからいいけど、本格的な夏が到来したら暑さで溶けちゃうだろうからな……。


 もちろん教室で催眠について話すわけにもいかないし……と、考えてると音ノ葉は立ち上がって。


「そうですわ、木を隠すなら森の中……どこか部活動に所属して、部室で作戦を考えればいいんですわ!」


「なるほど、悪くないアイディアだ」


 部室があれば、安全に作戦会議が出来るだろう……他に部員がいても、催眠持ちじゃないことを確認出来れば……あわよくば俺らの仲間になってくれれば、催眠アプリの壊滅に大きく前進するだろうしな。


「でも、どこに入部しましょうか。体験入部の時期ももう過ぎましたよね?」


「ああ……音ノ葉も帰宅部だよな?」


「はい! 毎日直帰していますわ!」


「そうなのか」


 一応記憶を取り戻す前の俺は、どこかの部活に入ったら騒ぎになるってことから、どこにも部活に入っていなかったみたいだけど……どこかに入るなら、こっそりと入部するべきだろうな。まぁすぐに漏れそうな気もするが。


 それでどこがいいだろうか……人が少ないかつ、閉鎖的で。それで俺らに協力してくれそうな人が集まる部活は……。


「そうだな……パソコン部とか?」


 すると音ノ葉は苦い顔を見せて……。


「それは本当にやめたほうがいいと思いますわ……パソコン部に男の子が入ったら、一瞬でサークルが崩壊いたしますわ」


「そうなの?」


「ええ。隆太様の実力なら、三日あればサークルを潰せますわ」


「俺をなんだと思ってんだよ」


 でもまぁ音ノ葉が止めるくらいだから、やめといた方がいいのは確かだろう。それなら他には……。


「じゃあ……文芸部はどうだ? 緩そうだし、人少なそうだし。部活中のお喋りも許されそうだ」


「ああー、それならいいかもですね! じゃあ早速見学に行ってみましょう!」


 ──


 そして俺らは場所を調べて、四階にある文芸部の部室前に来ていた。どうやら空き教室の一つを使っているようで、部室はそれなりに広そうだが……。


「……なんか一人しかいなくね?」


 窓から中を覗いてみたが、そこには黙々と本を読んでいる女子生徒が一人いるだけで、他の生徒の姿は見えなかった。


「いや隆太様、これはチャンスですよ! 部員が少ない方が、部活を乗っ取れる可能性が高まりますから……! 乗っ取って、部室に漫画とドリンクバーを設置いたしましょう!」


「お前、本来の目的忘れてない?」


 でも入部する以上は、部活動もそれなりにやる必要はあるだろうし……真面目に取り組むのも悪くはないかもな。四六時中、催眠のことばかりを考えても頭がおかしくなりそうだし。


「ふふっ、では早速突入いたしましょうか!」


「ああ、行こう」


 そして俺は扉をノックして、文芸部の扉を開いた。


「あの、すみませーん。えっと、俺ら入部したくてここに来たんですけど……」


「…………」


 すると本を読んでいた茶髪の少女は、こちらに目を向ける……多分、男である俺が来たことに驚いているのだろう。でも興奮もせず、冷静に……パタンと本を閉じて、俺らにこうやって説明してくれた。


「……この部は幽霊部員ばかりで、実質私一人でやっているみたいなものだよ。それでもいいのかい?」


 その問いに、音ノ葉が答えてくれて。


「はい、もちろんですわ! なんならそっちの方が都合が良いですわ!」


「……そう」


 短く返事をした少女は、椅子から立ち上がり……引き出しから鉛筆と適当な紙を取り出して、机の上に置いた。そしてそのままダウナーな声で。


「じゃあ、これに学年と名前を書いて。入部届失くしちゃったから、ただの紙だけど……この通りに書いたら大丈夫だから」


「ありがとうございます」

 

 そして少女は入部届の書き方が書いてるであろう、スマホの画面を俺に見せてきた…………って、あれ……? こ、これって……まさか……!?


「……ッ!!」


 俺の違和感に気付いた音ノ葉は、即座にスマホをはたき落とした。瞬間、俺の意識はハッキリとする……うわ、やっべぇ、油断してた……!! 急いで俺は音ノ葉を見ると、彼女は見たことのないくらい、目バッキバキの表情に変わっていて……。


「おい……隆太様に何するつもりだ、メスブタ……!!」


「……あははっ、そんな怖い顔しないでよ?」

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