第6話 女のパンツなんか見ても嬉しくないでしょう?

 ──


 次の日。明才高校、昼休み。俺らは屋上で昼飯を食べながら、作戦を練っていた。


「昨日はなんとか、芹沢さんのアプリを消すことに成功したけど……次、いつ敵が襲ってくるか分からない。今この場所だって安全とは限らないしな」


「そうですわね。催眠アプリを持ってる人が何人いるか分からないし……この学校の女子生徒全員が持っている可能性もありますからね」


「もしそうだとしたら地獄だな……」


 昨日アプリを使ってみて、使い方やルールは多少詳しくなったが……まだまだ情報は足りない。催眠に対抗するには、もっと催眠について詳しくなる必要があるのだ。


「……ってかさ。俺は催眠アプリを持ってないから、詳しいこと分からないんだけど。音ノ葉は他に情報知っているのか? 誰が作ったのかとか、どうして入っているのかとか、どういう原理なのかとか」


「いえ、考えたことありませんでしたわ」


「ええ……」


 思わず俺は声が漏れる……いや普通、急に変なアプリがスマホに入ってたら。催眠が使えたら、何か原理とか理由を考えるでしょ。そんな何も気にせず、平気で使ってるなんておかしいよ……。


「まぁ所詮、女なんてそんなもんですよ。エッチなことさえできれば、仕組みとか理由とかはどうだっていいんです」


「はぁ……ちょっと女の子のこと嫌いになってきたよ」


「ふふっ。私以外の子は、存分に嫌いになってくださいまし」


 音ノ葉はイタズラっぽく笑ってみせる。こうして見ると、音ノ葉は普通に可愛くてモテそうなもんだけど……この世界では、女子はモテるって概念が無いのか? 前世なら、クラスで一番二番を争うくらい人気出そうなのに。


「……ん。そんなじっと見てどうしましたか、隆太様?」


「いや、別に……ってか、単純に気になったんだけど。催眠で絶対に無理な命令をしたらどうなるんだ?」


「どうなるんでしょうね……じゃあ、実験してみましょうか!」


 そう言って音ノ葉は食べる手を止め、ウキウキでスマホを取り出した。コイツ、俺が催眠にかけられることは相当嫌うのに、自分がやる分にはいいんだな……ってか、どさくさに紛れて変なことする気じゃないか……?


「お前、俺に催眠かけたいだけなんじゃないのか?」


「えっ、いや別に……!?」


「なら俺が音ノ葉にやるから、スマホ貸してくれ」


 そう言うと音ノ葉はだいぶ名残惜しそうにしながらも……スマホを渡してくれて。


「……まぁ、催眠プレイもありでしょうか……あ、でも催眠かけられた方は記憶失っちゃうから意味無いですね……」


「なら、意識保ったまま催眠かけれるかも実験してみるか」


「分かりましたわ」


 そして俺は音ノ葉に催眠をかけることにした。えっとまずは催眠アプリを開いて、画面を見せて……。


「あ、力が抜けてきました…………」


 簡単にかかってしまった。早速、俺は音ノ葉に命令を出してみた。


「催眠中でも、意識と記憶を保てるようにしてくれ」


 そしたら目のハイライトは戻って……徐々に音ノ葉は自我を取り戻した。


「……あれ。もう終わりました?」


「いや、今かかってる最中だよ」


「えっ? でも意識はっきりしてますわ。本当にかかってるのでしょうか?」


 一応スマホを確認してみたが、催眠アプリは起動中であった。つまり催眠中ということである……それならと試しに、次の命令を出してみた。


「じゃあ……今から一歩も動かないで」


 すると音ノ葉の足は、ガッチリ固定されたように動かなくなって……。


「……ん、あれ。動きませんわ! 足が固まってしまいました!」


 なるほど。ちゃんと自我を持ったままでも、催眠にかけられるみたいだな。まぁ実用性があるかは分からないが……。


「できるっぽいな。じゃあ動かなくなるのは解除して……次の命令。逆立ちしながら歩いてみてくれ」


 次に俺は音ノ葉が出来そうにない命令をしてみた。さて、催眠は不可能を可能にすることが出来るのか……。


「えっ、ちょ、身体が勝手に……!」


 すると音ノ葉はその場で逆立ちしようとするが……バランスを崩して、こけてしまった。なるほど……やろうとはするけど、無理なものは無理と……。


「いてっ! こ……今度こそ……わぁっ!」


「音ノ葉? もう大丈夫だぞ」


「いや……なんか出来るまで、ずっと続けたいって衝動に駆られていますわ!」


「いや、もう大丈夫…………」


 ……と、止めようとしたところで、さっきよりも音ノ葉がバランスを取れていることに気付いたんだ。もしかして……成長している……?


「……あいたっ! 次こそ…………おっ、あっ、コツ掴んできました……!」


 そして遂に、8回目のトライで……音ノ葉は逆立ちでバランスを取ることに成功したのだった。


「おっ、やりました! 隆太様!!」


「…………」


 でも俺は彼女を直視出来なかった。なぜかって……彼女のスカートが重力に従って、思い切りめくれていたのだ。流石にこれを見るのは良くないよな……と気を使って、目を逸らしていたのだが。音ノ葉は逆立ちのまま、大きな声で。


「隆太様! 凄いでしょー!! 目を背けないで見てください!!」


「いや……パンツが見えてるから」


「えっ……? 女のパンツなんか見ても嬉しくないでしょう?」


「いや、そんなことないけど……」


 なんならすげぇありがたいものだけど。でもこの世界では、そんな需要無いものなんだな……ならちょっと興奮してる俺が馬鹿みたいじゃないですか。お嬢様っぽい音ノ葉が、実は子供っぽい白のパンツ履いてるのとか逆にエロいじゃないですか。


「あ、あれ……もしかして隆太様、意外と変態なのでしょうか……? な、なら。もっと過激な命令してくださいまし!」


 それで音ノ葉は自分に需要があることが嬉しいのか、逆立ちのまま笑顔で言う。


「……いいの?」


「もちろんですわ! でも……とりあえず逆立ちは解除してほしいですわ!!」 


「ああ……命令解除」


 すると逆立ちをやめた音ノ葉は、フラフラ……いや、ちょっとモジモジしながら、もっと俺に過激な命令をするよう要求し始めた。もしかして催眠の対象は、性欲が増加するとかあるのかなぁ……?


「……本当にいいのか?」


「もちろんですわ!! 隆太様が望むなら、私幾らでも脱ぎますわ!!」


「あ、そう…………」


 まぁ……音ノ葉もそう言ってるなら。い、いいよな……? 


「じゃあえっと……服を脱いで……」


「あー!! 身体が勝手に動いてしまいますわー!! これは不可抗力というヤツですわー!! 私の自信ある身体を隅々まで見られてしまいますわー!!」


 言いつつ、ノリノリで音ノ葉は服を脱ぎ始めた。ま、まぁ……これは実験だし。本人も了承してるから、別に何も問題は無い……と、心の中でも言い訳しつつ、音ノ葉が服を脱ぐのを待っていた…………瞬間。


『ガチャ』


「あ」「あ」


 屋上の扉が開く音が聞こえてきた……振り向くとそこには、女子生徒二人が立っていて…………やべぇ。やっべぇ……!! 屋上は立入禁止だけど、別に入ってこれないわけじゃないんだ! すっかり安全な場所だと思いこんでいた!!


 そして女子の一人は、音ノ葉を指差しながら……。


「……えっ、男の子に裸見せつけてる人いるんだけど!?」


「ご、誤解ですわ!!」


 そう言いつつも、音ノ葉は服を脱ぐ手を止めず……遂にはブラのホックまで外してしまった。エロい……なんて感情より、俺はこの場をどう切り抜けるか、ということで尋常じゃないくらい頭をフル回転させていた。ああ、滝汗が止まらない……。


「大丈夫!? 君、江野くんだよね、怖かったよね?」


 そしてもう一人の女子が俺に話しかけてくる……ど、どうする? 催眠をかけるか……いや、今は音ノ葉にかけている。解除して、かけて、ってやったとしても、時間が掛かってしまう。それに相手は二人だ……一人をかけたとて、状況は覆せない。


 なら昨日みたいに気絶させれば……! ……無理だ。道具も無いし、時間も無い。昼休みも終わるから、二人を縛ってどうこうするのはリスクが高すぎる!


「どうしたの? 怖すぎて声が出ないのかな……?」 


「…………」


 ……ここで俺が否定すれば、変なことになって……催眠の実験していたことがバレてしまう。音ノ葉と協力関係ってことが広まったら、今後に影響が出ること間違いないから…………ここは乗るしかないようだ。


 俺は涙声で……その女子生徒にこう言うのだった。


「うん……怖かった……」


「ちょ、ちょっとーー!!? 裏切りましたね、隆太様ー!!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る