第4話 催眠には催眠をぶつけんだよ
「それで……芹沢さんはまだ、催眠アプリを持ってるんだろ? 今回は音ノ葉が助けてくれたけど、次はどうなるか……」
「アイツだけじゃありませんわ。催眠アプリを持ってる人は、きっと他にもいて……今でも隆太様のことを狙っています」
「ええ、本当か? なんで俺なんかを狙うんだよ……?」
こんな世界で催眠アプリなんかが現れたら、こうなるのもなんとなく分かるが……どうして俺なんだよ。少ないとはいえ、男は他にもいるんだぞ? ……すると音ノ葉は、当然のような口調で喋りだして。
「そりゃ催眠アプリを持った女なんて、隆太様を狙うに決まってますよ! だって、隆太様かっこいいし! 優しいし、魅力的ですし! それに……エロいし」
ボソッと言うな。でもこれだけ褒められても、あまり喜べないのは……催眠にかけられるリスクが高いって、言われてるようなものだからなぁ。あなたは変態に好かれやすいですよ、なんて言われても素直に喜ぶことなど出来ないのだ。
「……ですから! 催眠をかけようとしてくる不埒な輩を私らでボコして、男の子達を助けましょう! もちろん、隆太様もお守りいたしますわ!」
「それは助かるけど……催眠をかけるのを防いだって、また別のターゲットを狙うんじゃないか? それに防がれた恨みで、俺らを狙う可能性だって大いにある」
「もちろんそれは分かってます……ですから、根本的に潰す必要があると考えてますわ」
「というと?」
そして音ノ葉は落ち着いた様子で、スマホを取り出して。
「催眠ですわ。私達も催眠をかけ返して、そいつの催眠アプリと催眠に関する全ての記憶を消させるんですわ!」
「なるほど。催眠アプリを抹消するために、俺らが催眠アプリを使うってことか」
随分と皮肉な話だが……こんなチートレベルの催眠に抗えるのは、きっと催眠だけだろうからな。
「でも……どうして音ノ葉は、そこまで手伝ってくれるんだ? お前には催眠アプリを根絶させるメリットなんて無さそうなのに」
ここで俺は気になっていたことを音ノ葉に尋ねた。そしたら彼女は迷う素振りも見せず、ただ真っ直ぐに俺を見つめて。
「それはもちろん、隆太様のことが好きだからですわ! 今までは遠目で見てるだけでも幸せでしたが……隆太様に危険が及んでいるというのならば、我が身を持って助けなきゃって思ったんです!」
「そっか。それは助かるよ……でも音ノ葉も催眠かけようと企んでたんだよね?」
「もう、そのことは忘れてくださいまし!」
恥ずかしそうに音ノ葉は、俺の肩を揺さぶってくる。音ノ葉は小柄だというのに力は強くて、ちゃんと女の子なんだなぁ……と、この世界での女の子らしさを実感していた。
「それで……催眠をかけて催眠アプリを消させるって作戦だけど。本当に上手くいくのか?」
「上手くいくかの保証はありませんが……まぁ失敗したら、私らの記憶を消されて。めちゃくちゃハメられるかもしれませんね?」
「もっと上品な言葉使いなさい……とにかく、失敗は許されないってことか」
でも何もせず催眠に怯えて暮らすよりは、ずっとマシだろう。それに一人ならまだしも、こっちには音ノ葉という催眠のスペシャリストがいるんだ。これほど心強いことはない……って、今思い出したけど。
「……ってか、音ノ葉。頭突きで芹沢さんを気絶させてたけど、もう復活してるんじゃないか? あの人、まだ催眠アプリ持ってるよな? 普通にマズくない?」
「んー、私の頭突きは攻撃力高いから、しばらくは大丈夫でしょうけど……誰かが来ていたら厄介ですね。丁度いいことですし、一回あのメスで実験してみましょうか」
「実験……?」
──
そして俺らは屋上から移動して、保健室に戻っていた。相変わらずそこには、割れた窓ガラスと気絶したままの芹沢さんの姿があって……。
「あっ、よかった。まだ気絶したままでした。ならこうやって縛り付けて……目を覚ました瞬間に、催眠をかけられる状況を作り上げましょう」
「容赦ねぇな……」
そして音ノ葉はロープを取り出して、芹沢さんの腕を縛り……そのまま机の脚へと縛り付けていた。妙に手慣れているように見えるのは、気のせいだろうか……?
「何言ってるんですか。隆太様をめちゃくちゃにしてやろうとしたんですから、これくらいの目にあって当然です。死刑でも軽いくらいですわ」
「ええ……」
少々やり過ぎな気もするが……前世の世界で、芹沢さんと同じような行動を男が取っていたら……と考えたら、少し腑に落ちている自分もいた。
それから数分後……芹沢さんは目を覚ました。そして縛られていることに気づいて、一瞬でこの状況を理解したのか。暴れながら俺達を睨みつけ、強い口調で。
「…………ッ!! アンタ……こんなことをして、ただで済むと思ってるの!?」
「おーおー、隆太様を犯そうとした犯罪者風情がよく言いますね? 今、ご自身がどのような状況に置かれてるか、お分かりですか?」
「……」
音ノ葉の問いかけに、芹沢さんは何も答えなかった……それにしびれを切らしたのか、音ノ葉はスマホを取り出して催眠をかけようとしていた。
「ほら、見てください。あなたの大好きな催眠ですよ……」
「……」
だけど催眠使いは対策を知っているのか、芹沢さんは目を瞑って、催眠を回避しようとしていた。それに気付いた音ノ葉は、無理やり目を開かせようとしていたが……どうも抵抗しているようで、上手くいかずにいた。
「閉じないでください……チッ。こうなった場合厄介ですねぇ……」
「口わる……」
「あっ、ああー! 何も言ってませんわよ?」
そして音ノ葉は作り笑顔のままジェスチャーを使って、俺にスマホを持つよう指示を出した。そして芹沢さんを指差す……ああ、俺がやれってか? でも俺も音ノ葉の仲間って思われてるから、目を開かせるのは至難の業だぞ……? まぁやってみるけど……。
「……あ、あー芹沢さん? 大丈夫だ、音ノ葉は俺が倒した。さっきはびっくりしただけだからさ、今度こそ俺とエッチなことしようよ……」
「…………」
……ダメか。結構良い作戦だと思ったんだけどな……? ってか音ノ葉、今にも吹き出しそうな顔してるし……そんな俺、棒読みだったか?
それで他に使えそうな物がないか、俺が保険室内を見回していると……音ノ葉が突入に使った、金属バットが目に入った。あっ、これだ……! 俺はジェスチャーで、音ノ葉に拾うよう指示を出した。
「……」「……!」
そしたら指示通り、音ノ葉は金属バットを手にして……芹沢さんを指差した。いやいや、違う違う違う! 殺れって言ってるわけじゃないって! 慌てて俺は窓ガラスを指差す……そしたら「ああー」と頷いてくれて。
俺の合図で、音ノ葉は窓ガラスを叩き割った。まぁ一枚割ってるんだから、二枚も三枚も変わらないだろう……その音に驚いた芹沢さんは、思わず目を開いて……その瞬間を逃さず、俺は彼女に催眠アプリを見せつけた。
「あっ…………」
マズイと思ったのもつかの間……彼女はそこから目が離せなくなり……目のハイライトも消えさり、抵抗する素振りも見せなくなった。ふぅ……なんとか催眠をかけることには成功したか。
「おお、流石です! 隆太様!」
「なーんか、悪いことしてる気分になるんだよな……」
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