第3話 催眠なんてかかるわけないだろ?
催眠? 催眠ってあの……5円玉を左右にプランプラン揺らしながら「あなたはだんだん眠くなーる」みたいなこと言うやつ? いやいや。いやいや、そんなの……。
「そんなのかかるわけないだろ?」
俺がそう言うと、音ノ葉は「はぁ……」と若干呆れたような表情を見せながら。
「エロ漫画で死ぬほど見た、テンプレ通りの答えですわね……なら、実際に体験してもらうしかなさそうですわ」
そして彼女は自分のスマホを操作して、謎の映像を俺に見せつけてきた。
「この画面から目を離さないでくださいね?」
「え? ああ…………」
……そしたらまた次第に画面から目が離せなくなって、どんどんと意識が遠くなって……あ、あれ……? また意識が朦朧と…………。
──
──
「……おーい。隆太様、大丈夫ですかー?」
「んっ……はっ……? 俺は何を…………?」
硬い床から身体を起こし、俺は目を覚ます……あれ、俺、寝てたんだっけ? なんか頭もボーッとするし、身体もダルいような……まだフラフラしてるし……それで音ノ葉は、俺の身体を起こすのを手伝ってくれながら、こう口にして。
「隆太様はですね、さっきまで催眠にかかっていたんですよ」
「えっ? いや、そんなわけが……」
「黒のボクサーパンツ、セクシーで素敵でしたわよ?」
「えっ…………?」
瞬間、俺は絶句する。今日履いてるパンツなど、わざわざ覚えているわけもないが……俺の持ってるパンツは、ほぼ全て黒のボクサーパンツなのだ。もちろん勘で言ってる可能性もあるが……こう自信満々に言われると、俺も動揺してしまう。
「……見たの?」
「いえいえ。隆太様から見せてきたじゃありませんか?」
「ま、まさかそんな……」
「写真も撮ってますわよ?」
続けて音ノ葉はスマホを見せつけてくる。そこには俺がズボンを下ろして……ってか、なんなら見せつけるようにして、立っている俺の姿がそこには写っていた。
「なっ……!?」
もちろん記憶は無いが、こんな精巧にコラ画像を作る暇もないだろうし……日付も背景もちゃんとしてるから……この写真は本物と断定してもいいだろう。だけど、これを本物と認めるってことは……催眠の存在も認めることになるのだ。
「え、ええ…………マジで。マジで俺は催眠にかかっていたのか……?」
俺の言葉に音ノ葉は頷いて。
「そうですわ。私しか持っていないと思っていたのですが……どうやらあの芹沢とか言うメスも、催眠アプリを持っていたようですね。この様子だと、他の方も持ってる可能性も考えられますね……」
「そんな…………ってちょっと待て、音ノ葉。なんでお前は催眠アプリなんかを持っているんだよ?」
「…………」
ここで俺はそもそもの疑問を音ノ葉に吹っ掛けた。そしたら彼女は、モゴモゴと言いづらそうにしながらも……細かく説明してくれて。
「そ、それは……昨日、急にスマホの中に入っていましたの。アプリを開いて、その画面を相手に5秒以上見せると催眠にかけられて……どんな命令も聞かすことが出来ます。制限時間はありますが、相手には催眠中の記憶が残らないし、回数制限も無いから、実質かけ放題みたいなものですわ」
「……なんかやけに詳しくない?」
すると焦ったように、音ノ葉は言い訳してきて……。
「そ、それはですわね……! 妹に実験して、催眠が発生する条件とかを調べていて……それで詳しくなったというか……」
「なんのために調べたんだよ」
「それは…………」
音ノ葉は言葉に詰まってしまった。まぁ、聞かないでもなんとなく分かるが……。
「怒らないから言ってみて」
そう優しく諭すように俺が言うと……音ノ葉は長い沈黙の後、こう口にして。
「…………隆太様に催眠かけて、エロいことしようとしてましたわ」
「…………」
……はい。まぁそんなことだろうと思ってたよ……でも怒らないと言った手前、どんな反応返せばいいか分からないんだよな。それで音ノ葉は食い気味に……。
「で、でもですね……!! 私、芹沢とかいうメスブタが、隆太様に催眠かけようとしているのを知ってしまいまして。『許せない』って思ったのと同時に、同じことをしようとしていた自分が途端に恥ずかしくなってしまって……何としてでも、隆太様を助けたいと思ったんですわ!」
そう感情を込めて言ったのだった。そう言われちゃ、俺も怒る気にはなれないな。
「……そっか。まぁ、助かったよ」
「えっ……許してくださるんですか!? 催眠かけようと企んでいた私を……!?」
音ノ葉は軽蔑でもされると思っていたのか、非常に驚いた様子だった。そんな彼女の手を、俺は優しく握って。
「わっ……!?」
「何を思ってたのかはともかく……実際に音ノ葉は俺を助けてくれたんだ。だから俺はお礼を言うよ。ありがとな、音ノ葉」
そしたら音ノ葉は瞳に涙を浮かべて……最大限に感情をあらわにした。
「……っ!! わ、私ぃ!! 今まで……今までの人生で、今日が一番幸せな日ですわ! 催眠かけようとせず……隆太様を護って本当に本当に良かったですわ!」
「ああ。ありがとう」
そして俺は彼女の頭を撫でてやった。もちろんいつもの俺なら絶対にしなかった行為だろうが、この世界なら……いや。この子に対してなら、絶対に喜んでもらえると思ったから取った行動だった。
そのまま俺は頭を撫で続けながら……こう呟いて。
「まぁ……それにそういうエロいことは、本当に好きな人相手じゃないとやりたくないもんな。音ノ葉だってそうだろ?」
「…………ええ、そうですわね!」
……すげぇ嘘くせ~間。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます