第2話 隆太様ッ、ご無事ですか!?

「え、ええっ……!?」


 なんだこの状況!? エロ漫画か!? って言いたいところなんだけど……この世界の男なら、誰にでも起こり得る出来事なんだよな。もちろん、前世の記憶を取り戻す前にも危ないことはあったが……ここまでピンチなのは初めてだ。


「ふふっ……大丈夫だよ。怖くないから……ハァ……ハァ……!」


 それで、さっきまでの優しそうな芹沢さんはどこへやら。彼女は顔を赤くして、息を荒くして……完全に発情している。や、やべぇって……!! 早く逃げなきゃ……!!


「…………」


 ……でも。生まれてこの方16年。前世を含めたら30年は超えるか……一切異性と関わりを持ったことのない俺からすれば、その誘いは正直魅力的なものだった……い、いや、落ち着け、隆太!! そういうのは好きな人同士じゃないと駄目だろ!?


 それに……俺には2次元の嫁がいるじゃないか!! 誇り高き童貞をこんなところで捨ててはいけないのだ!! しっかりしろっ!!


「……や、やめろって……!!」


 目を覚ました俺は、彼女の手を払い抵抗してみせた。だけど想像以上に芹沢さんの力は強く、再び俺をベッドへと押し倒した……コイツ、強すぎる!? ……ってかそうか……この世界の男は、女よりも身体的能力が低いのか……!? 


「は、離せっ……!!」


「んー。なら、やっぱりこれ使ってみるしかないか」


 それで、俺が抵抗してくるとは分かっていたのか。芹沢さんはポケットからスマホを取り出して、画面を俺に見せてきた。なんだ……?


「これ見たら解放したげるよ」


「えっ…………?」


 言われるがまま、その画面に流れている謎の映像を見ていると……ガッチリと固定されたように、視線が動かせなくなって。次第に身体が動かなくなってきて……それに段々と意識も朦朧としてきた。え、なっ…………なんだ……これ…………?


「…………」


「ふふっ。これで催眠完了だね……」


『バリーン!!!!!!!!』


「えっ……!?」「……なッ!?」


 突如、窓ガラスの割れる音が。スマホの画面が視界から外れ、ハッと正気を取り戻した俺は、反射的にそっちを向くと……そこには。片手に金属バットを持った、金髪三つ編みのお嬢様みたいな少女が、保健室内に入り込んでいて……。


「隆太様ッ、ご無事ですか!?」


「え、いや、えっ……!?」


 状況が飲み込めず、俺はひたすら困惑する……ご無事ですかって、もしかしてこの子、俺のことを助けに来てくれたのか……?


「ちょっ、アンタなんなの!? せっかく掴んだこのチャンスを……早く出ていって!!」


 芹沢さんは行為を邪魔されたことに怒っているのか、その侵入者へと近づいて。この場から追い払おうとするが……。


「うるさいッ、犯罪者!!」


 そう言いながら金髪少女は、芹沢さんに頭突きを喰らわせて。一発でノックダウンさせたのだった。


「え、ええ……」


「さぁ、逃げますわよ!」


「あっ、ちょっと……!」


 そしてその少女に手を引かれるがまま、俺は保健室を後にするのだった。


 ──


 そのまま俺は彼女に手を引かれ……校舎の屋上まで逃げていた。屋上の鍵を掛けた少女は「ふぅ」と胸を撫で下ろし、俺の前に座り込む。


「ここまで来れば大丈夫でしょうか」


「はぁ……はぁ……な、なんだったんだ……?」 


 息を切らしながら俺は問いかける……ここでもう一度、俺は彼女を見た。綺麗な金髪の三つ編みに、大きな黄色の瞳。身長は低いが、非常にスタイルは良く。上品な雰囲気を醸し出していた。……まぁさっき頭突き見ちゃったんだけど。


 それで確か……この子は同じクラスの、いつも一人でいる。


「えっと、君は……おとみのりさんだっけ」


「えっ、私のこと知ってましたの!?」


 音ノ葉さんは自分のことなど眼中になかったと思っていたのか、ひどく驚いているようだった。まぁ確かに俺のクラスは俺以外全員女子だから、存在は霞むかもしれないが……。


「まぁ……目立つ髪してるし。いつも遅刻してくるし」


「あははっ、悪目立ちってやつでしょうか? でも、隆太様に知られていたなんて光栄です……! 今日まで生きていて良かったですわ!」


 彼女は嬉しそうに両手を合わせて、飛び跳ねる。少々喜びがオーバー過ぎる気もするが、この世界ではこの反応が正解っぽいんだよな……。


「それより音ノ葉さん……」


「あ、音ノ葉で構いませんよ?」


「分かった……音ノ葉。一体、あの場で何が起こってたんだ?」


 そして俺はあの場で何が起こっていたのかを音ノ葉に尋ねた。そしたら彼女は人差し指を立て……俺にこう教えてくれた。


「ああ。隆太様はですね、『催眠』にかけられそうになっていたんですよ」


「…………はい?」

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