第3話 船の衝突
6時51分頃、濃霧の中レーダーを稼働させて宇野港へ向け航行する宇高連絡船「紫雲丸」前方に向かい航行していた船があった。
同じ宇高連絡船・下り153便大型貨車運航船「第三宇高丸」だ。
第三宇高丸も濃霧で視界不良の中レーダー観測をしており、この時主席運転士がレーダー上2500メートルの船首方向指示線上に紫雲丸を確認する。
このとき宇高丸は海上衝突予防法に則り、針路を140度とした。
6時53分:双方の距離は1700メートルに接近。
第三宇高丸から紫雲丸の姿は依然として目視できないままだったが、紫雲丸の霧中信号音(霧笛)が左舷方向から聞こえたため、第三宇高丸は東西方向に距離が広がったと判断して航行を継続した。
この時双方の船長らは濃霧であったにもかかわらず海上衝突予防法の規定に反する過大な速力で運行。
そして紫雲丸の船長中村は目視で万全の注意を払わなければならないに、レーダー観測のみに専念し、第三宇高丸の霧笛を聞いたにもかかわらず速度を緩めず、無線で相手側と確認をとることもなかった。
また基準航路によらず、同航路の左側に著しく偏した針路で航行してもいたようだ。
そしてほどなくして危機的状況が訪れる。
6時24分、紫雲丸の乗組員たちがようやく目視で第三宇高丸を確認したが、相手方はこちらに迫ってくるではないか。
紫雲丸は全機関を停止した。
第三宇高丸の方は約100メートル前方に紫雲丸の船体を認め、衝突回避のために右に舵を取って進路を変える。
これは衝突予防のルール通りの措置だ。
が、ここで紫雲丸の船長・中村がまたしてもミスを犯した。
機関を停止したまま左へ舵を切ってしまったのだ。
これでは、間に合わない!
第三宇高丸は船首を紫雲丸右舷船尾付近、右舷機関室を70度の角度で直撃させた。
時間は6時56分。
紫雲丸の機関室ではエンジンルームの復水機と主配電源装置が爆発。
船内が停電し、全電灯が消えた。
同時に高さ4.5メートル、最大幅3.2メートル、船内3.5メートルの右舷大破口から機関室へ膨大な浸水が始まったが、電源が落ちたので水密扉を閉鎖することができない。
しかも紫雲丸は貨車を積んでおり、事故の衝撃で横転した貨車の重みで平衡を失い、左舷に急速に傾斜して船尾から一気に沈み始める。
それまで穏やかだった瀬戸内海の水面に、地獄の門が開いた。
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