第5話 処刑場

「あぁ、嘆かわしい……本当に」

 

 ジェイコブさんの説明を終え、今はウォード君と共に処刑場へと向かっている。アテナちゃんは……たぶんクインちゃん辺りと一緒に居るんじゃないだろうか。薄暗い廊下を歩きながら、彼は悲しげな顔で涙を浮かべていた。

 

「罪を犯した者を罰する権利が、本当に私たちにあるのだろうか……? 私たちは世界を知らない……それなのにただ罪人を罰する権利だけを与えられている……」

「難しいことを言うね、ウォード君は」

「君も、疑問に思ったことはないのかね……? 外の世界を見せてもらえず、この狭い空間で人生を終えることに、疑問はないのかね?」

「無いかなぁ……」

 

 僕は難しいことを考えるのが苦手だ。だから疑問に思っていても、すぐに別のことを考えるだろう。それに、執行者であることを疑うというのは、組織を疑うということだ。……ある日突然居なくなっていった友達のことを思い出す。彼らは皆、ウォード君のように執行者であることに疑問を持っていた。だから……彼も、いつかは。

 

「恐れているのかね」

「……」

「安心したまえ……私は、彼らに逆らう気は毛頭ない……仕事を真面目にやっていれば、外で暮らしても良いと母が言っていたのでね」

 

 ウォード君のお母さんは……確か、ジェイコブさんだったっけ。いつもは冷徹な彼女も、自分の子どもが相手だったら甘くなるのだろうか。少なくとも、僕たち執行者が外で暮らすことなんてできないだろう。

 気づけば処刑場まで来ていた。真っ黒な壁、真っ黒な床、灯りは小さな豆電球だけ。真っ白で眩しい施設とは真逆で、真っ暗で少し怖い。罪人の最期の場所に相応しい場所として作られているのだろうか。……まぁそんなことはどうでもいいか。

 守衛の人に挨拶をしてから五番の部屋に入る。狭い部屋の真ん中に、麻袋を被っている人が居た。逃げ出さないように厳重に拘束されている。僕が入ってきたのに気づいたのだろう。目の前の人は大声でわめき始めた。何を言っているのか判らないし、理解したくもない。

 入口の隣に置いてある銀の剣を手に取った。慣れ親しんだ重さに安堵を覚える。未だわめいている人の前まで行き、剣を構えた。

 

「次は犯罪者にならなかったらいいね。……次があれば、だけど」

 

 心臓を貫く。これは一種の儀式と言えるだろう。穢れた魂を清らかにするための儀式。死んだ神様に会うときに穢れた魂だと恥ずかしいじゃない? だからこれは良いことなのだ。

 守衛さんに罪人を任せて処刑場の入り口まで行く。すでに終えていたのだろう。前屈みで口を押えているウォード君が居た。少し気分が悪そうだ。血の臭いに酔ってしまったのだろうか?

 

「大丈夫? ウォード君」

「あぁ……安心したまえ、いつものことゆえ……君が不安がる必要はない」

 

 よく見たら口元が赤い。口内が傷ついてしまったのだろうか。気にはなるが、本人が言及してほしくなさそうだったから何も言わずに処刑場を後にした。

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