第6話 アイスクリィム
執行者は皆、桃源神話の職員が産んだ子供たちで構成されている。
子供たちは皆特別な教育を受けており、優秀な子供には褒美として外の世界の物を1つだけプレゼントされる。
そうして最終試験を合格した者だけが執行者になれるのだ。
「疑問」
アテナちゃんがピシッと手を挙げる。
「どうしたの?」
「アテナは執行者じゃない。どうして?」
……だいぶ難しい質問だ。どう答えればいいのだろうか。悩んでいると、隣で僕たちの話を聴いていたエンジェルちゃんが話に入ってきた。
「アテナ様は執行者ではなく、神子として生を受けたのです。執行者よりも尊い仕事と言えますね」
「神子? 尊い? ……わからない」
「えぇ。今はまだ判らずとも、お勉強を続けていれば自ずと判ってきますよ。貴女様が産まれた意味を、その使命を」
アテナちゃんは顔をしかめ彼女の言葉の意味を考えているようだ。3分ほど経っただろうか、アテナちゃんの顔が真っ赤に染まり頭から湯気が出ている_ように見えた。その様子を見てエンジェルちゃんは困り顔で笑うとある提案をしてきた。
「主も疲れたでしょう? お勉強は大事ですが、休憩も大事ですわ。頭を冷やすためにアイスクリィムを食べましょう!」
「アイスクリィム」
アテナちゃんは目を輝かせる。本来は仕事をしないとスイーツなんて食べられないけれど、アテナちゃんは別だ。好きな時に好きなだけ好きなものを食べられる。ちなみに僕もアテナちゃんと一緒に居ることが仕事なので好きな時に食べられるし、エンジェルちゃんは執行者だけど、それ以外の仕事もしているから食べられる。エンジェルちゃんがどんな仕事をしているのかは秘匿されているため判らない。だけど毎日血をつけているから執行者と大して変わらない仕事なのだろうな。
「アイスクリィム、テレビで知った。楽しみ」
そういえば、アイスクリィムは初めてだっけ。まぁまだ目覚めて三日目だから当たり前か。
教材をしまい食堂へ行く。食堂にはウォード君が四段アイスを頬張っていた。今日は身体の調子が良さそうだ。彼は僕たちに気が付くと、穏やかに微笑んで同席を進めた。
「……お三方もアイスクリィムを食しに来たのかね?」
「そうだよ。ウォード君、今日はいっぱい食べてるね」
「今日は仕事に精を出した故、母からいくらでも食べていい……と。それに今日は幾ばくか調子が良い……抹茶アイスクリィムを4つも食せた故な」
「抹茶、おいし?」
アテナちゃんが正面の席へ座る。ウォード君は少し表情を曇らせたが、すぐに微笑んでうなずいた。
「あぁ、美味しいよ。アテナ嬢は何にするのかね?」
「エンジェルが決めて。アテナ判らない」
「なるほど……君も、判断を見誤ったな」
「? わから……」
「アテナ様! アイスクリィムをお持ちいたしましたわ!」
彼女は満面の笑みで18段くらい積まれたアイスをアテナちゃんの前に置く。今までの行動を鑑みるに、全種類ある。全部美味しいからすべて食べてほしい気持ちは僕にもあるから否定はしないけど、エンジェルちゃんは今までのアテナちゃんを見て何も学ばなかったのだろうか……。ウォード君は嘆かわし気にエンジェルちゃんを見た。
「エンジェル嬢……彼女がアイスクリィム初心者だと知っての行動かね?」
「知ってますけど……」
「……質問を変えよう。君のその行動に、今までのアテナ嬢はどのような反応をしたか覚えているかね」
「もちろん覚えているわ。それはそれは美味しそうに食べていましたわね」
「それは最初の話であろう……」
彼は手で顔を覆う。アテナちゃんは周囲の人間なんか気にしていないようで、エンジェルちゃんの持ってきたアイスを頬張っていた。だけど食べていくにつれてだんだんと手がゆっくりになっていく。心なしか顔色が悪い。
「…………るい」
アイスカップを僕に差し出すアテナちゃん。鳥肌が立っているし唇が青いし小刻みに震えている。10個のアイスを一気に食べたから当たり前だ。……でもだいぶ食べたな。残り8個かぁ……。
「……ウォード君、一緒に食べない?」
「これ以上食べたら腹を壊す故無理だ。エンジェル嬢に頼みたまえ」
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