第3話 食堂
執行者専用の食堂はだいぶ狭い。そもそも執行者の人数が少ないっていうのもあるんだけど、全員が入ったら少し窮屈に感じる。
「あら、皆さまお揃いで」
食堂の手伝いをしていたのだろう。僕たちと同じ執行者であるクインちゃんが出迎えてくれた。目に優しい緑色の髪に桃色の瞳をしている、美人な女の子。植物園でもらった花を花飾りにするのが趣味で、いつも花冠をかぶっている。
「クイン様! 今日もお美しいわね」
「はいはいお世辞ありがとう。累とエンジェル以外のみんなは配膳台の上に置いてあるやつを持っていきなさい」
僕とエンジェル以外のみんなは奥の配膳台へ向かう。エンジェルは仕事をしていたけど、僕はなんかしてたっけ?
「何言ってるのよ、貴方はアテナ様の世話係なのよ。仕事が終わるまで好きに食事を選んでいいの」
「え、え? そうだったっけ?」
「説明を聞いていなかったの? というか説明を聞いていなくても今までの世話係のことを覚えていれば判るはずでしょう?」
確かに説明を受けた気がする……けど、うん。普通に忘れてた。それを正直に言うとクインちゃんは大きくため息を吐いた。
「まぁいいわ。好きなのを選んでちょうだい。アテナ様用のご飯はこれね」
「はぁい」
僕はイカ墨パスタを、エンジェルちゃんは大きいハンバーガーを二個頼んだ。いろいろ苦労はあったけど無事に食事を食べ終えた。
・
食事も食べ終わり、今は女の子たちがお風呂に入っている。もちろんアテナちゃんも一緒だ。……というか、アテナちゃんが身体や髪をめちゃくちゃ汚してしまったからお風呂に入ることになったのだ。浴槽は男女一緒なので、今はみんなが出てくるのを待っている。
「なんか、毎日好きなご飯を食べられるって考えると少し怖いなぁ」
「エンジェルはほぼ毎日好きなご飯を食べてるけどな」
「エンジェルはほぼ毎日仕事してるから良いでしょ……それよりアバドンは何をやっているの」
上から僕、ジーニー君、ノネ君だ。アバドン君は逆立ちをしている。……なんで逆立ちしてるんだろう?
「ノネ、アバドンの行動をいちいち気にしたらだめだ。どうせこれも『今逆立ちしたらみんなどんな反応するかな~!』みたいに特に意味なくやってることだろうから」
「えっさすがジーニー! なんでわかったの? 俺様ちゃんのこと理解してるから? うれし~!」
アバドン君は1回転をしてジーニー君に詰め寄る。握手をし、ニコニコの顔を近づける。ジーニー君は心底嫌そうだ。そのままキスしそうな勢いだったが、女の子たちが遊び場に帰ってきたためアバドン君は離れた。アテナちゃんも一緒だ。
「ルイ、風呂、すごい」
「すごかったか~」
アテナちゃんはたどたどしい足取りでこちらに来る。もう車いすから降りても大丈夫なのだろうか。そんなことを思ったが、まぁアテナちゃんは人間ではないから学習も早いのだろう。現に活舌が良くなっている。前回も思ったけど、この調子だとあと3時間くらい練習すればまともに歩けるようになるんじゃないだろうか。
あと、アテナちゃんは最初に見た人物になつく傾向がある。刷り込みのようなものだ。前々回くらいだったかな、生贄になつきすぎて実験前に処分されてしまったアテナちゃんが居たくらいだ。定期的に好感度を下げるような行動をしたほうがいいのかな。
「ルイ、考える、何?」
「あー、ちょっとね……今後のことを考えてた」
「今後……未来? アテナ、考える、一緒」
「いや~、アテナちゃんには難しいと思うな……」
「否定、できる、アテナ、未来、考える。考える?」
アテナちゃんは顔をしかめ首を傾げた。めちゃくちゃ顔が中心によっている。正直、今の彼女は生まれたてと変わらない。簡単なことを考えることはできるだろうけど、未来なんて不確かなものを考えることはできないだろう。
「未来、考える、難しい、想定外」
「今は考えなくていいよ。どうせ叶わないから」
アテナちゃんは「理解できない」とでも言うように首を傾げた。こんなの、理解しなくていいけどね。
やがて神となる少女と生贄になった僕 小鳥遊アズマ @Azuma_Takanasi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。やがて神となる少女と生贄になった僕の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます