第3話 絶対に失敗したくない

 執行者専用の食堂では数人の執行者たちが食事を取っていた。

 

「あら、皆さまお揃いで」


 食堂の手伝いをしていたのだろう。僕たちと同じ執行者であるクインちゃんが出迎えてくれた。目に優しい緑色の髪に桃色の瞳をしている、美人な女の子。植物園に咲いている花を花飾りにするのが趣味で、いつも花冠をかぶっている。

 

「クイン様! 今日もお美しいわね」

「はいはいお世辞ありがとう。累とエンジェル以外のみんなは配膳台の上に置いてあるやつを持っていきなさい」

 

 僕とエンジェル以外のみんなは奥の配膳台へ向かう。エンジェルは仕事をしていたけど、僕はなんかしてたっけ? それを言うと、クインちゃんは「聴いていないの?」と顔をしかめた。

 

「貴方はアテナ様の世話係なの。だから仕事が終わるまで好きに食事を選んでいいのよ」

「え、え? そうだったっけ?」

「……少し不安になってきたわ」

 

 確かに説明を受けた気がする……けど、うん。普通に忘れてた。それを正直に言うとクインちゃんは大きくため息を吐いた。

 

「まぁいいわ。好きなのを選んでちょうだい。アテナ様用のご飯はこれね」

「はぁい」

 

 僕はイカ墨パスタを、エンジェルちゃんは大きいハンバーガーを二個頼んだ。いろいろ苦労はあったけど無事に食事を食べ終えた。


 

 食事も食べ終わり、今は女の子たちがお風呂に入っている。もちろんアテナちゃんも一緒だ。……というか、アテナちゃんが身体や髪をめちゃくちゃ汚してしまったからお風呂に入ることになったのだ。浴槽は男女共用なので、今はみんなが出てくるのを待っている。

 

「なんか、毎日好きなご飯を食べられるって考えると少し怖いなぁ」

「エンジェルはほぼ毎日好きな飯を食べてるけどな」

「エンジェルちゃんはほぼ毎日仕事してるから良いでしょ……」

「それはそうだ」


 アバドン君は本棚から絵本を何冊か取り出しながら同意する。たぶん、アテナちゃんに読ませる絵本を選んでいるんだろう。談笑していると、ドタドタと大きな足音が聞こえてくる。なんだろうと廊下のほうを見るとびしょ濡れで身体にバスタオルを巻いたアテナちゃんがこちらへ走ってきた。後ろではエンジェルちゃんがタオルを持ちながら「お待ちくださいアテナ様!」と叫んでいる。もう走ることができるのか。


「ルイ、風呂、すごい」

「すごかったか~」


 彼女は僕の前に座り、瞳を輝かせてそんなことを言った。エンジェルちゃんは「今回のアテナ様は健脚でいらっしゃるようで……」と疲れた顔で彼女の頭を拭き始めた。

 乾かし終わり、黒のワンピースを身に着けたアテナちゃんは今アバドン君が選んだ絵本を読んでいる。アバドン君が朗読して、判らない言葉があると僕に意味を聴いてくる。アバドン君に聴けばいいのに、とは思うがアテナちゃんは最初に見た人_生贄になつく傾向があるから仕方がないのだろう。

 アテナちゃんに言葉を教えながら、僕はふと将来のことを考える。生贄になったということは、成功するにしても失敗するにしても僕は死ぬことに変わりはない。どうせ死ぬのなら成功して終わらせたいのだ。でも、まだ神の創造に成功したことがない。どうすれば良いのだろうか……。


「ルイ、何か考えてる?」


 アテナちゃんが僕の顔を覗き込む。緑色の大きな瞳が僕を映した。


「んー、君のことを考えてた」

「どうして?」

「失敗したくないから」

「? わからない」


 彼女が首をかしげる。そのしぐさに僕は苦笑いをして「今は判らなくていいよ」と言った。

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