第2話 今夜はドラゴンステーキかな?

 咆哮するドラゴンを前に、私は立つ。どうやら、あのドラゴンは気が立っているらしく、いきなりブレスの溜めに入った。いきなりすぎるんじゃない?


 ってわけで私は防御魔法を発動する。ドラゴンブレスは攻撃範囲が大きいから、私の背後に被害が出ないように、大きめで。


「『深海の防壁アビサル・ウォール』」


 レッドドラゴンの炎のブレスを、完璧にはじいたところで……って、あ!


 私の少し前にいたグラスウルフが消し炭になった。まぁ……そういうこともあるよね……。


 南無阿弥陀仏。


「人的被害ではないので構わないでしょう。私のせいで被害がでないように、範囲を絞った魔法で戦います」


 基本、私の魔法は範囲が広い。一人で戦っていくには、範囲が重要だったから。


 でも、今は真逆の状況だ。範囲の狭い魔法なんて心あたりがあまりない。


 どうやって戦ったものかなぁ。


「『大地の槍アース・ジャベリン』!」


「GYAO!!?」


 岩石でできた槍を放ってみるも、レッドドラゴンの竜鱗に簡単にはじかれてしまう。しかも、衝撃でドラゴンが起こったようで、こちらに向かって接近してくる。焦土となった森を歩いてくる様子はさながら怪獣映画のよう。


 まぁ魔法主体だから先に距離は取らせてもらいますけど。ということで、後方に人がいないのを確認して私はバックステップで後退する。一応いっておくけど、私ドラゴンよりも早いから。


 私の魔法は範囲を抑えると必然的に威力も下がる。これは戦いにくい……。


 ……あ、いや、いいこと考えた。


 ドラゴンを打ち上げてそこに範囲魔法ぶっ放そう!


 私ってば天才。そういうわけで実行!


「『嵐風爆撃テンペスト・ブラスト』!」


 風を操ってドラゴンの足元に空気の塊を作り、圧縮。それを一気に解き放つ。すると、ドラゴンの体が宙へと少し浮き上がる。


 私はそこに滑り込む。そして、ドラゴンの腹を蹴り上げ、一気に打ち上げる。


 結構飛んだなぁドラゴン。


 じゃあ、終わらせちゃおう!


「『断罪の光剣ジャッチメント・セイバー』!」


 光の剣を大量に召喚して飛ばす範囲魔法。その剣の数は幾千、幾万にも及ぶ。しかも、一本一本が恐ろしい威力を持っている。


 竜鱗をたやすく貫通し、ドラゴンの体にいくつもの穴をあけた。


「GYAOOOOOOO!!!!????」


 脳天、心臓その他臓器もろもろ。すべてを貫いた。さすがに死んだね。


「よし、なんとかなりましたね~」


 被害がなくてよかったぁ~。


 ……なにか、忘れているような。


「ぎゅべっ!?」


 私は空から降って来たドラゴンの死体につぶされた。


 うん、そりゃこうなるよね。


「うはぁ~最悪……」


 ドラゴンが落ちてきたときに一緒に押しつぶされたせいか、カメラにもヒビが入っていた。高かったのにっ!


 この分じゃ配信も切れてるだろうし、もう敬語はなしで。


「くぅ……また買わないと……」


 誰も見てないけども、配信をやめるっていう選択肢はない。情報は公開すべきだしね。まぁ、有名になりたいってのもあるんだけど……。


 まぁそれはともあれ。


「今夜はドラゴンステーキかなぁ」


 ドラゴンのお肉はおいしい。市販のお肉とはくらべものにならないぜいたく品。


「あ、アイテムボックス持ってきてないじゃん!?」


 仕方ない、ちょっと魔力もったいないけど……。


「『虚空収納ヴォイド・ストレージ』」


 作り出した虚空の空間のドラゴンの死体を詰め込んだ。


 家に帰ってちゃんと移しなおさないと。魔力消費が重いぃ~。


 このペースだと……。一か月もしたら魔力がなくなってしまう。


「よし、かえろう。お風呂入りたい……」


 土埃まみれで、気持ち悪い。昔はこんなこと気にしてなかったんだけど、最近毎日お風呂に入るようになって気になるようになっちゃった。


 うん、もうダンジョンの奥とか行けないなぁ。


 ダンジョンから出ると、ものすごい人だかりができていた。ダンジョンの中にもこれだけの人はいなかったはず。


 ……ああ、ドラゴンのことを聞きつけて寄って来たんだろうなぁ。もしドラゴンがダンジョンからでてきたらどうするつもりなんだろう。現代社会って危機管理能力、欠けてるよね。


 その人だかりの間を抜けて、私は家に向かって歩き始める。正確には、人のいない路地へ。


 誰の目線もこちらに向いていないタイミングを見計らって。


「『暗黒転移ダークネス・テレポーテーション』」


 転移魔法で自宅直行。行きは誰が見てるかわからないから下手に転移できないけど、自宅ならだれにもみられることはないからね。


◇◇◇


 お風呂に入った後、私はドラゴンステーキの作成に取り掛かった。とはいっても高めの火力で焼いてステーキ醤油をかけるだけだけどね。


 私ももう20で、一人暮らしを始めて2年になるけども、いまだに大した料理を作れない。さすがに危機感持った方がいいかもしれないかな。料理作れないと、モテないし。


「でも雑に作ったおいしい料理を食べてるときが一番幸せなんだよなぁ~」


 ドラゴンステーキにステーキ醤油をかけて、お米とお酒を用意する。


 幸せのトリプルセット。ふ、これは勝ったな。


「いただきまーす!」


 ドラゴンステーキを小さめに切って、お米と一緒に食べる。


「うまーい!!」


 ダンジョンの中だとただ焼いただけで食べてたけど、やっぱりお米と調味料あるだけで全然違うね。


「明日も食べよ〜っと!」

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魔物調査員のダンジョン調査配信 ニア・アルミナート @rrksop

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