第10話 学校という名の何かを視察する


いつのことだったか。いつになることだか。とある国がどうしてゾンビのように生きながらえているのかを訝(いぶか)しがった諸国の役人が小学校に視察に来たときのお話。


なんといっても教育ですよ。教育の要は人、教師だと言われますが、その通りです。我が国の学校教育では、まず教師にさまざまな職務業務を担わせて多忙にすることから始めます。自由を感じた途端、いうことを聞かなくなりますから、絶え間なく書類を送り続けたり政策によって仕事を増やし続けます。近年はプログラミング教育や英語教育にも力を入れています。ギガスクール構想という標語を打ち立てて端末を購入することでIT業界や教育業界にも金が流れます。保護者は不安になり金をさらに落とす。教育は経済にも貢献する素晴らしいシステムです。教師の増員はしません。足りない分は、その都度非常勤やアルバイトで補います。余分なお金を使わずに効率的に教育を行えますから。


貴国の教師は過労死したり精神疾患を患う確率が高いという報告がありますが。


それはそうです。彼らは職務に忠実で、あまりに熱心なのです。逆に言えば、残った教師は真に適性を持った教育の理想的な実施者だと言えるでしょう。さてここが職員室です。どうです。この書類の山は。成績処理、報告書、提出物の採点など仕事は多岐に渡り、それを処理する能力を持っています。誇らしく思います。これは生徒に出す宿題ですね。宿題は保護者の皆さんにも理解をしていただき、まるつけ、宿題をやったかどうかのチェック、必ず宿題をさせるようにと協力を要請しています。世の中には家庭で子供と何を話したらいいかわからない保護者もいるようで、宿題をやらせる、監視することで子供との結びつきを得られると喜びを感じていると感謝の報告を受けたこともあります。


フィンランドでは宿題を出さないことで成果を上げていますが、貴国が宿題を出す意図はなんでしょうか。


従順な奴隷を作るためですよ。意味のない作業をあたかも意味があるように無自覚に行う労働者を生産するためです。与えられた正解を導く、疑問の余地を与えない、ただただ教科書に書かれている命令を実行する習慣をつけさせるためです。標準化テストの問題は採点が楽であるだけでなく、我々の与えた正しい答えをそのまま鵜呑みにして答えさせるために最適です。考えることなど言語道断。絶え間なく宿題をし、感情を押し殺し、絶え間なく作業をし続ける人材が必要なのです。そうして努力を怠らず自律し、感情を抑圧した勝者には官僚という素晴らしい地位を与えます。彼らは学校教育で、受験戦争で養った人格を持って誠実に職務を遂行します。計画通りに、失敗することなく、他者と自分を比べて優位に立つことでしか自我を維持できない、競争に飢えた最高の兵士です。


貴国では教員の職務における課外活動、部活動の割合が他国に比べてはるかに重たいと伺いました。なぜでしょうか。


素晴らしい質問です。我が国の代表的な部活動の一つに野球があります。全国の野球部が争い、感動を国民に与えます。素晴らしい社会貢献です!部活動は学校教育の大義の一つの柱です。さまざまな才能を持つ児童生徒がそれぞれの才能を伸ばすことができる、部活動は課外活動でありながら、教育の本名とも言えましょう。部活動を続けたいから教師になったという人もいます。熱心に生徒を指導していますよ。ほら、よく挨拶をするでしょう。彼らがいじめをすることなんてありませんよ。社会に出ても礼儀正しく、組織に貢献する従順な、気骨あふれる若者です。部活動にはもう一つの機能があります。若者を学校の外に出さないことで、社会の治安を守っています。善悪の判断もつかない愚かな生徒たちを部活で縛らないなら、彼らは健全に育つでしょうか。娯楽で溢れた現代社会で自由な時間を作ることは、健全な精神、健全な肉体を損ねる結果になるでしょう。家庭環境も同様です。できる限り学校に児童生徒をとどめ置き、家庭からの悪影響を少なくするようにしています。


貴国では若者の自殺率がその他の死亡要因よりも多いという統計が出ていますが、学校での滞在時間が長いことと関係はあるとお考えですか。


残念なことに、自殺率の高さは事実です。しかし学校とは関係ありません。我が国の国民の遺伝子はもともと鬱傾向にあり、鑑みるに、若者の自殺率の高さの要因は学校教育ではなく遺伝子にあるのです。今日いらした皆さんの国にも特異な事情があるように、我が国には我が国の特異的な点があります。皆さんはPISAの結果をご存知でしょう。近年、勃興したアジア諸国に抜かれてはいますが、依然として高い競争力を示しています。我が国の学校教育の正しさの証明ではありませんか。識字率、高校進学率、大学進学率、どれを見ても世界トップレベルです。塾という素晴らしい伝統文化もこれを支えています。保護者も我が国に貢献するために喜んで働き、子供を塾に通わせ、競わせ、より強い労働者になることを望んでいます。


高校進学、大学進学のために奨学金を貸与させる、つまり若者に借金を追わせていることが経済活動の停滞、及び少子化に繋がっているという分析もありますが。


最初に申し上げた通り、我が国の国民はより従順な労働者を生み出すことに成功しています。低賃金で長時間働く素晴らしい戦士たちです。奨学金を借りてでも、労働力としてより良い地位を得ること我が国に貢献したいという気構えがあります。学歴がすなわちより待遇される奴隷となれることを彼らは、賢くも、知っているのです。誇りに思っているのです。競争は彼らがより高みに進ために必要なのです。奨学金は、そのために彼らが自ら背負う枷であり、背水の陣、火事場の馬鹿力を出すための起爆剤なのです。彼らは自らを、奮い立たせています。私どもがその心意気を蔑ろにすることはできません。


少子化が進んでいる中で、貴国の自治体は次々と小規模な学校を廃校にし、大きな学校に統合してきたと聞いています。先進国では1クラス25人を定員としている学校が多い中で、大規模化、クラス定員を40人規模にすることの判断はどのようにされたのでしょうか。


我が国は集団性を重んじています。個の力ではなく、集団の力によって国を動かしています。空気を読む、集団性に耐え抜くための訓練をするには、大規模であるほど良いのです。小さな机をいくつも整然と並べた工場のような作りも、どのような労働環境に耐える強い心を養うための設計です。大規模にすることで効率的に、かつ合理的に、集団性を備えた労働者を育成することができます。ちょうど、校庭で運動会練習をしています。行進をしていますね。どうですか。あの統率の取れた動きは!あれこそが集団が集団であることの強みです。一丸となって、一人がみんなのために行動しています。給食も当番制で、皆に平等に配給物資が行き渡るよう心がけるようになります。今、体育座りをしているでしょう。あれは身体を自ら拘束し、人体にとって不自然な体勢を維持する練習です。人外の力にも屈しない、強い精神を養うことができるのです。


いじめについて伺いたいのですが



「全て他人のせい」日本人に主体性が育たない背景とは?レジェンド校長“工藤勇一”が指摘する「教育の大問題」【成田修造/宮村優子/平川理恵/西村祐二】

https://www.youtube.com/watch?v=H4ST5etdq2U


日本財団18歳意識調査結果 第62回テーマ「国や社会に対する意識(6カ国調査)」

https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2024/20240403-100595.html


官僚からマスコミまでつかう、責任逃れができる「東大話法」ってナニ?

https://www.itmedia.co.jp/makoto/articles/1209/26/news015.html



https://www.youtube.com/results?search_query=abema+%E6%95%99%E8%82%B2

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