第七幕 激震
絶えず嵐が発生するコンクリーレン海域の中心、
その居城の、地下。真っ白な空間の中にある
「どうしてこんな事をしているのかしら、私。これって使用人の仕事でしょう。似合わないわね」
レイチェル・エル・エスパーダ七世。
例えるなら、料理どころか食材を知らない子供が料理をしろと言われるようなものだ。また、
「あの子、そっくりだったわね」
目を閉じ、苦痛の毎日の中で唯一の心の支えだった野良猫を思い出す。
「……私は全て奪うわ。その先にきっと、最高の幸せがあるの」
水差しを近くにあった机に置く。
何処からともなくバシュッ、と放たれた氷の短剣を振り返りながら回避して、呼びかける。
「ねぇ、貴女もそう思わないかしら? リザ」
呼びかけに応じ薔薇の生垣の裏からゆっくりと歩を進めて姿を現す、ワクワクを抑えきれない表情をした青髪の魔女。
「ハッ、バケモンが。今殆ど魔力も気配消えてただろうが、アタシ」
「こんなくだらない不意打ちだけが作戦じゃないでしょうね」
没落した魔女と、名家の大魔女が
そして両者、間合いを図りながら距離を詰めていく。
……互いの距離が二十メートルと少しに達した時ピタリ、と止まり。
「『原初の魔女に誓う。我が血を懸ける』」
血争劇を仕掛けたのは、リザ。
「ウフフ。そうね、己を極限まで棄ててこその一生よね。『原初の魔女に誓う。血争劇、開幕』」
これまでと、これからの全てを
「ハァァァッ! 一瞬で終わらせてあげるわ! 『
真珠やダイヤモンドなどの宝石が飾り付けられた
「グオオオオオオッ!」
体を
「っぶねぇ!」
しかしその先に、レイチェルが魔力を惜しみなく込めた杖を振りかぶって待ち構えていた。
「もう
「――ッ!」
リザの背中に振るわれた杖が直撃し、正面から地面に叩きつけられる。レイチェルは浮遊する結晶を足元に形成して着地した。
「終わったわね。本当にもう二度と顔を見ることはないでしょう」
巻きあがる
「そのセリフを吐くにはちょっと早いんじゃない?」
なぜかレイチェルの背後から現れたリザが魔力を込めた杖を叩き込む。しかし。
「あれが分身なことくらい最初から知ってたわよ、おバカさん。『
「クッ、ソ!」
物理攻撃が反転する基礎魔法により衝撃が倍になって返ったきたため体勢をくずす。リザはそれを利用して空中で回転しながら周囲に魔法陣を展開し、氷の剣を射出した。
「これならどお!? 『
「私の可愛い
先程壁に激突し、頭が埋まっていた龍が結晶に再構築され術者の下へ戻り盾を形成し、氷の剣を防いだ。
「マジかよ。結晶の生成速度、速すぎんだろ、ハァ」
壁に突き立てた
「……あ? どこ行ったのよ、アイツ」
どこを見渡しても見つからない、姿を消したレイチェル。
刹那。
全身を押し潰さんとする強烈な衝撃が、リザを襲った。
「ガハッ、アァ――」
スーッとリザを覆い隠すように現れた巨大な結晶と、銀髪の魔女。
「『
レイチェルは音ごと透明になり、堂々とリザの目の前で魔法を形成していたのだ。
結晶が解除され、力なく地面に落下するリザ。光の中へ消える杖。
カツン、カツン。ゆっくりとヒールの音を立ててこちらに向かってくるレイチェル。その歩速は、強者の余裕。そして倒れ伏す少女の前で止まる。
「今日、貴女は私に全てを奪われにきたのね」
まるで汚物を嫌うかのようにじっと見下ろす。
かと思えば、突然。
「あぁ、みじめな姿が
「泣いて謝ったら許してあげるかもしれないわぁ! 絶ッ対許さないけっどぉぉぉぉぉぉっ! ッハ!」
「も、ももも、もうくたばってるかしらぁぁぁぁぁ! キャハハハハハ!」
両手を広げた後、
「ハァー、アッハハハハハ、あぁ、ハハハ……」
だがその感情は、次第に薄れてゆき。
「………………」
虚しさと静けさだけが、そこに残った。
「はぁ。次の獲物でも探しに行こうかしら」
「まだよ」
しかし、聞こえる
「え?」
振り返ると、そこには青髪の魔女がフラフラの状態で立ち上がっていた。
再び
「あぁ! 嬉しいわぁ! 今度こそ完璧にぶっ壊してあげる! 来て! 来なさい! さぁ、早く!」
身体をうねらせ、
「んじゃあ望み通り突っ込んでってやるよぉぉぉぉぉ!」
行く先の地面を凍らせて、滑るように突撃するリザ。
その速度から、レイチェルは勝ちを確信する。
――やはり、今の貴女はその程度しか速度が出せない! 余りに遅すぎるわ。結晶で抱いてあげる!
その思考を見抜いたかのようにリザがニヤリと不敵に笑い。
「なっ、急に速度が――!?」
「もう遅いわ! 『
両手に氷の短剣を生成し、すれ違いざまに何度も切り刻んだのだ。
魔女の急所を、
「ガ……ハッ……」
膝をつくレイチェル。
「あり、得ないわそんな出力……っまさか!」
「そうよ、あんまり気が進まなかったけど名義を借りたの。それを悟られないように出力を雑魚にしてたってワケ。まぁ油断なしのアンタなら今のも余裕で避けれたでしょうけど」
そう、リザの現在の真名は「リザ・サーヴァンツ」。
手紙に同封されていた
「さぁ、どうすんの? その傷でまだやる気? まぁどちらにせよそろそろ判定負けになるでしょうけど」
左手の短剣を突き付け、煽る。
「ハァ……ハァ……認めないわ……絶対に認めない。ゼッタイニ、ミトメナアアアアアア」
奇声を上げたレイチェルの身体が白く変色し、牙が生える。
さらに、形を変えながら徐々に膨らんでいく。
地鳴りと共に急速に、天井に向けて大きくなる。
突き破ってなおとどまることはない。
そして、屋上を突き抜けて
頭部から乱れた白髪を垂らした巨大な
「ゲギャァァァァァァァァッ!!!」
「情報通りね、バケモン」
リザは両手の短剣を投げ捨て杖を
天秤は
「
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