第四幕 正邪
草木が
この密林には、雨が降ると自動的に木の幹が
リザはその樹木の空洞の一つに足を組んでもたれかかり、
「ったく、勝手についてきてアタシに説教するってどういう神経してんのよアイツ。 宿屋でも『今まで世話になったから』だの、意味不明なこと言って」
密林までの移動中はもっと勢いよく暴言を吐いていたが、その威勢もすっかりしおれてしまっていた。
「……どういう意味だったのよ、あれ」
リザはミハイルから受けた言葉を脳内で
『……リザ様は家名を奪われた時、凄くショックでしたわよね?』
魔女は、異常な程に血の気が多い。そのため訓練のみでなく積極的に血争劇を仕掛けて能力を向上させる。そこに倫理的な思考を持ち合わせている者は
「……あー! わっかんないわよ! 何が、何だってのよ! 私はいずれ最強になる魔女! 奪って何が悪いの!?」
空洞を飛び出して、空を殴りつけながら
そして雨の中走り回って木を蹴り、叩く。
「ハァ……ハァ……」
ひとしきり暴れ回った後に残った感情は。
「………………」
虚無だった。
「ぁ」
ふと見上げれば、曇り空。
「……ていうかなんで雨止むの待ってんの? アタシはそんな性格じゃなかったはずでしょ?」
「ハッ、さっさと■してやるか」
何かに取り
「『
視界が真っ白に染まったのと同時。
「――ックク、よくもやってくれたわね……逃げ腰オンナァ。叩きのめして宝玉
「……これはもう誰の命令でもありません。
ダメージにふらつくリザの目線の先には。
雨に濡れた、金色の長髪と同色の双眸。そしてしなやかな
「『原初の魔女に誓う。我が血を懸ける』」
紋様を描き、一切の
「ハッ、調子乗ってんな! さっきの戦闘忘れちまったなら思い出させてやるよ! 『原初の魔女に誓う。血争劇、開幕』!」
絶えず
「『
開幕と同時に怒り狂い、リザに向かって
腕を振るって雷魔法を連発する。
「アッハ! どこ狙ってんのよ下手くそ! 魔法の当て方も知らねぇならケンカ吹っ掛けてくんじゃねぇよっ、と!」
決して下手ではない精度で狙われる雷の槍をスレスレでかわしながら、漆黒の杖を召喚し氷魔法を構える。
――「氷弾」を打ち込みまくって樹木内で乱反射させて
突如、リザの戦闘へ向けた思考が鈍る。
ミハイルの言葉、そしてその美麗な立ち姿が脳裏によぎったのだ。
「ッな、んでこんな時まで……!」
その刹那。
腹部に強い衝撃を感じるとともに、後方の樹木に叩きつけられていた。
「ガハッ……!?」
「『
両者の今の駆け引きは、結果としてミラの勝利だった。だが。
「ッ、勝ぁった気でいるんじゃないわよ逃げ腰ぃ……まだ終わってないわよぉッ、ハァ」
「しぶといですね……気色が悪い」
杖を支えに、力を振り絞って何とか立ち上がる。リザは初手の魔法、そして今の殴打で傷を深く負ったものの、直前に氷の盾を展開する魔法を張ることによりダメージを軽減していた。
「次は、上級魔法で確実に仕留めます。覚悟してください」
しかしリザには、次の一撃を回避、
いつもの、彼女ならば。
「……てかアンタ、何でそんな必死なのよ」
「……何?」
リザは、
「どうしてそんなに必死になってアタシの事――」
「友達の仇を討って何が悪いの!?」
リザの言葉を遮って
深呼吸の後、声色を正常に戻して。
「貴女が名前を奪った赤髪の女性、いますよね。レイチェル様に敗北の罰として痛めつけられた上に白帝界から追い出されたの」
零れそうになる感情を、押さえつけて話す。
「……そうかよ」
「――ッ! なんでそんなそっけない反応しかできないの!? 貴女だって同じことをされたでしょう!?」
だがそれを聞いてもやはり心には響かなかった。
「だから……だから、何だって……」
「もういいわ。これで終わりよ、クズ女」
落雷のように曲がりくねった金色の杖を手元へ召喚し、両手で掲げる。
「『
天使のような姿をした雷光が上空に具現化する。
翼をはためかせ、感電性の魔力を帯びた波動を広範囲に発生させた。
リザの身体に、力が入らない。
「これは無理だ」と確信する。
――アタシはこれまでずっと魔女として強くなるためだけに生きてきた。この世界はそれが当然だし、誰かから奪って自分の物にするのなんて当然の事だと思ってる。でもママからの教訓は絶対に守ってきたわ。……それも、守れなかったかもしれないけれど。
魔女が誰かを蹴落とすことってそんなに悪いこと? だって奪わなきゃ、奪われる。じゃあどうすればよかったの? 黙って服従しておけばよかった? それとも弱い自分のせい?
……あぁ、そっか。
あの言葉に答えは出せなかったけれど。一つだけ、気が付いた。
今目の前にいる子も、アタシと同じ気持ちなんだ。
こんな天罰みたいな魔法が目の前に迫ってから、今更理解した。
クズだ、私は。
誰にも許されないんだろうな。……ママは、こんな実力がなくて、意思も弱くて全然ダメダメな子でも、許してくれるかな。
……ミハイル。
「ミハイル! 最後まで気づけなくて、ごめんね!!!」
瑠璃色の瞳をいっぱいにうるませて、たとえ届かなくとも叫んだ。
溢れる涙で霞む目の前の景色。まばたきの間に、メイド服の女性が槍のような杖を構えて魔法の前に立ちはだかっている。
「え」
声は、届いていた。
傷ついた友を見て優しく微笑みかけ、今一度、宣言する。
「友達、ですもの」
そして再び前に向き合って。
「『
ミハイルは守護魔法、その中級に相当する十字架が刻まれた大きな盾を展開し、必死に耐える。
「ッグゥゥゥゥゥッッ!」
しかし、周辺一帯の大地をえぐり取るような
「アアアアアアッ!」
「――ッ!」
光の中へ飲まれていく景色。
雷光
「
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