(2回目お題『危機一髪』)便意を感じている間だけ時間を止める能力!?

俺が能力チカラに気づいたのは就職して2年目くらいかな。その日は大事な会議があるっていうんで、前日は山ほどコーヒーを飲みながらスライドを作って変な時間に眠ってしまった。そういうわけで朝起きたのも出勤電車にギリギリ、トイレに行く時間もなかった。いっそ徹夜したほうがマシだったと後悔したよ。


当然のように電車では腹が痛む。朝の電車の匂いか人混みか、会議への緊張もあったんだろうなぁ。あとになって便意を抑えられる薬もあると知ったんだが、その時は知らなかった。


脂汗やら涙やらにじませながら目を閉じて速く会社のある駅へ着けと、もしかしたらぶつぶつ呟いてたかもしれんな。


そういう余裕のない時ってえらく時間を遅く感じるってことがあるだろう?それにしたって遅すぎる、もう限界だと天を仰ごうとした時に気付いたんだ。


周囲の乗客が動いていない。パントマイムのようなそんな感じだ。山ほどの人が乗ってるのに呼吸音も聞こえない。そういえば電車の揺れもないってな。完全な異常事態。時間が止まっている?とその時はじめて分かった。


何やかやで時間が動き出すまでは本当にビビり散らかした。漏らしそうだった、なんてね。


それから、まあ、から、俺は自分の能力について研究した。制限があるとはいえ時間を止める力というのは使えそうだろう?何の訓練もない状態でさえ、止められる時間の長さでいえば某吸血鬼なんてブッち切ってるわけなんだし。


トイレに行くとか漏らすってのがやっぱネックでな。その頃はそれなりに荒んでいたが、悪いことは大してできなかった。


が、それなりの回数、能力を使ってると俺が能力を持っているということは色んなところにバレた。政府の特命組織、裏社会の深奥、能力者の同盟とか、まあ意外と特別な能力を持つヤツらはいて社会に溶け込んでるんだな。俺のは、まあ、やや個性的かもしれんが。


そういう、力を持っちゃったやつらは、人類を滅ぼすだの救うだの、あるいは自由やら支配をかけて頑張る。世界やその他大勢なんかお構いなし。陳腐な話だ。


俺?俺はフリーランスみたいな感じ。印象が悪いからね、他の能力者のように組むのに向いてない。


命を狙われたりしてるうちに能力も拡がって、それなりに色んなことができるようになってね、1度はうっかり俺が世界を滅ぼしそうになったこともあるが、反省してからは何度か世界も救ったりしている。信じてないな?まあいい。



さて、本題に移るが君が止まった時の中にいる、というのはさ。全く俺と同じかは分からないが、君の辛そうな様子を見るに似たようなものなんだろう。


この話を始める前に君の体内時間を少しだけ遅くした。きっと間に合う。いずれ君も世界を救うのかもしれないが、まずは自分を救うといい。このまま真っすぐ行けば女性用トイレがある。


俺は別のところに行く。男性用トイレはひとつ上の階なんだ。

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