第4話 百物語

 どうも、モリタです。

 G県のF峠にある古いトンネルに棲んでる幽霊です。

 某国民的妖怪アニメの主題歌でお化けには学校も試験もないと暴露されてしまった通り、お化けのくくりと言ってもいい我々幽霊にも、学校も試験もそのほかの諸々も、やるべきことは何にもないわけですが。

 そんな我々にも、楽しみにしている娯楽があります。

 いつも仲間としている酒盛りだって娯楽と言えば娯楽なのですが、それは日々の娯楽、いうなれば居間でテレビを見るようなものです。

 楽しいことは楽しいですが、別にそこに大した刺激があるわけでもない。

 だらだらと惰性で楽しむようなもの。

 そうじゃなくて、我々にとって最大の刺激的な娯楽、それは……そう!


 百物語です!


 酒盛りがテレビだとするならば、百物語はコンサートです! ライブです!

 テレビと違って、非日常の体験が楽しめるわけです。

 怖い話をしていると幽霊が寄って来るぞ、なんて話を聞いたことないですか?

 あれ、あながち嘘でもなくてですね。

 生命力にあふれる生身の人間たちのする怖い話には、幽霊を引き寄せる力があるんです。

 と言っても、そんなに心配しなくてもいいですよ。

 怖い話にも規模があってですね。

 友達同士でちょこちょこっとする怖い話なんていうのは、まあたとえるなら近所の住民センターで開かれる町内会の集いで素人バンドが演奏するようなものですよ。

 近くに住んでるよっぽど暇な幽霊が、ほかにやることもないんでちょっと行ってみようかな、っていうレベル。観客ゼロで関係者のみ、なんていう状況もざらです。

 だけど、正式な手順を踏んで行われる百物語。

 これはもう、ドームコンサートですよ。収容人数数万人の大コンサート。

 全国各地からファンが押し寄せるわけです。

 普段はトンネルの磁場みたいなものに縛られている我々地縛霊も、このときばかりは手弁当で応援に駆け付けるわけですよ。

 なにせ、百物語の発する瞬間的な磁場は、トンネルの磁場よりも上ですからね! 地縛霊ですら引き寄せられてしまうすごい力なんです!

 とはいえこのご時世、百物語なんてなかなかお目にかかれるものじゃありません。

 百本の蠟燭を立てて、怪談を一話終えるごとに一本ずつ吹き消していく。そんな時間と場所と手間のかかること、よっぽど酔狂な人間じゃないとやらないでしょう。

 だからこそ、その困難を乗り越えて開催される百物語には全国津々浦々の幽霊たちが集まります。

 みんな法被を着てうちわを持って、推しの話者を作ったりして百物語をできるだけ盛り上げます。

 やったことのない人が大半だと思うんですが、百物語のピークってどこだと思います?

 百話目が終わる時?

 五十話くらい?

 七十話くらい?

 うーん、残念。

 ピークはね、四話目です。

 はやっ!って思いましたか、今。

 そう。早いんです。

 でも考えてもみてください。百話もひたすら怖い話をするんですよ。

 どんなにシチュエーションを変えてバリエーションを付けても限界があるじゃないですか。

 ナスだけを使ったコース料理、とか想像してみてください。食っても食っても延々ナスが出てきたら、いくら味付けを変えてあっても、そろそろナスじゃねえもん食いてえなー!ってなるでしょ? それと同じ現象が起きるんですよ、早い人は七話目くらいから。

 怖い話、飽きたなー!って。

 全員が最も集中力を発揮して、怖い話に全身全霊を傾けられるのが、百話あるうちの第四話、と言われています。数字もいいじゃないですか、うわ、四だ。死だ。みたいな。

 あとは、がーっと下がっていきます。百物語って必ず一人二人あんまりうまくない話者が混じってますからね。その人のところでグダります。で、そういう人に限って落ちのない話を長々とします。場が、だれます。

 怖い話自体のクオリティも十話目よりも二十話目、二十話目よりも三十話目ってどんどん落ちていきます。

 四十四話で一瞬持ち直すんですけど、六十話あたりのクオリティとか、ほんとヤバいです。

 そこをどう乗り越えていくのか。見守る我々幽霊にとっては、そこがすごく楽しみな部分ではあるんですが。

 通の幽霊さんなんか、一番面白いのは六十五話目だ、なんて言いますからね。もはや一周回って面白いんでしょうね。

 で、八十話台後半からまた盛り上がってきて。もうこの辺に来ると、怖い話のクオリティとかどうでもよくてですね。百話まであと何話!っていうことだけに興味が集中してくるんです。

 最後の数話、カウントダウンとか我々ギャラリーも一緒になってやってます。霊感のある人にはちょっと聞こえるみたいですね。

「集まった霊たちが、ざわめいてるわ…!」

 とか言っちゃう霊感少女とかいます。

 ざわめくっていうか、普通に騒いでるんですけどね。もうその頃にはこっちもいい感じで酒が回ってるから。

 で、百話目。

 最後の蝋燭が消される瞬間は我々も静かになります。

 だって、その瞬間に姿を現さないといけないから。念入りに前髪とかを直すやつもいます。

 で、百話目が終わって(大体の場合、百話目の怪談は狙いすぎてスベることが多いです)蝋燭が消された闇の中。

 我々の精一杯のキメ顔が暗闇に浮かび上がり、悲鳴があちこちで上がります。

 それを聞いた時、こっちもカタルシスを感じるっていうか、ああ、生きててよかったなあって気持ちになりますね。

 最高だな、来年のコンサートを楽しみにこれからまた一年頑張って生きていこう、みたいな。

 え、もう死んでるって? そうなんです、これ僕らの鉄板ネタなんですよ。えへへへへ。

 だから早くコロナとか終わってほしいですね。

 みんなが笑顔で楽しく百物語をできる世の中が帰ってきてほしいです。はい。




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