第5話 ドレスアーマーとラッキー




稀人……それは別世界から人の事を指す言葉。

 稀に来るから稀人。


「お兄様が稀人? 別の世界から来た人?」


「そう! 信じられ無いかもしれないけど。」


「もしかしてお兄様はお伽話に出てくる英雄様?」


「いや、全くそんな事はない、スキルが三つあるってだけ」


「ふぇぇ〜凄いです! 私なんて一つも無いのに……しょぼん」


 一緒にいて最近はルナの性格が分かって来た。

 超繊細で、ちょっとした事ですぐに落ち込んでしまう。


 こういう時、どうやって励ましてあげれるかがトレーナーとしての役割だと思う。

 

「今日はさ、ルナの歩く練習の為に、お外に出て散歩しようか?」


 ここ二週間ずっと、大量の食事と健康的なマッサージによる療養が功を奏して、普通に動けるようになった。


「お兄様と外にお出かけ!? 行く! 行きたいです! 」


「よし! じゃあ準備して行こう」


「はい! お兄様とお出かけ楽しみぃ〜 らんらん。 らんらん。」


 よかった……どうにか気持ちを切り替えさせる事が出来たようだ。

 ルナは気分のアップ・ダウンが激しい性格をしているから、今みたいに、楽しい事をさせてあげると、いいみたいだ。



◆◆◆


 

 ルナがお腹空いてもいいように、屋台で売っている食べ物と飲み物を持てるだけ買い込む。

 それと、今着てる白のワンピースが汚れたら嫌だから、服も買わないとな。


「はわぁ〜美味しそう♡ お肉さん大好き♡」

 

 ルナは屋台で焼かれているボアの串焼きを見てヨダレを垂らしている。

 こうなってしまったら、もう買うしかない。


「おおラッキー! 大食い姫おおぐいひめじゃないか! どうだ買ってくかい」


 この二週間でルナは有名人になってしまった。

 売っている物を片っ端から全部食べてしまう事で、大食い姫と呼ばれるようになった。

 

 皆最初は、こんなか細い女の子の、どこに大量の食事が入るのか驚いていたが、今では店の食べ物を全部買ってくれると喜ばれている。


 ルナが来たら幸運の証みたいな、いい意味で捉えられている。


「はい、全部下さい!」

 

「毎度! ボアの串焼き60本。 いつもありがとよ!」


 もちろん全部買う。

 動けるようになってからのルナの食事量は倍になった。

 この程度では満腹にならない……たぶん、おやつみたいな感覚だろう。


「おにく、おにくぅ、お肉さん♡」


「それじゃ服を買いに行こうか」


「はむはむはむ……はひぃはい!」


 食べながら、喋るルナを連れて洋服店へと向かった。

 どこも一緒だが、お店を切り盛りしてるのは男性が多い。

 女性は戦いがメインで、あまり商売はやらないみたいだ。


「この娘に合う、動きやすい服を選んでもらえませんか! それと普通の服も」


「お任せ下さい! すぐにお持ちします」

 

 お店の人はスーツを着込んだ礼儀正しいお兄さん。

 俺が選ぶよりも、お店の人の方が馴れているだろうから任せてみた。


 スーツのお兄さんが来るまで、お店を見渡す……あった!


 俺が探していたのは、荷物を入れるリュックとポーチだ。

 手に持てる量には限度がある。

 いい加減、入れ物が欲しかったのだ。


「そちらの商品は、魔法の鞄マジックバックになります」


「何それ?」


 魔法の鞄とは、見た目以上の物品を収納する事ができるアイテム。

 中は拡張された空間になっていて、入れた物は時間の経過が止まり腐らず、温度の変化もしない……と店員さんの説明。


「高いですか?」


「そこそこですね! ダンジョンに行けば手に入るので、そこまで高い品ではありません」


 うん高いけど、全然変えない程じゃないな。

 臆測だけど一般市民でも、コツコツ貯めれば一年ぐらいで変えるかも。

 俺は奴隷商で頂いた大金があるから問題ない。


「買います!」


 金はいくらでもある。

 必要な物は、必要な時には買わなければ損する。

 

 洋服と茶色のリュック、花柄の青いポーチを買い、ポーチの方をルナに渡す。

 

「きれい〜 ありがとうございます。 お兄様からのプレゼント大切にしなきゃ」

 

 喜んでくれているようで何よりだ。

 早速、買った洋服を着せる。


 数分待つと、試着室で着替えて来たルナが現れる。

 短パン半袖で冒険者のような格好。

 これなら汚れても安心。

 


◆◆◆



 俺たちがいるカネーヴェの町から少し離れた所に草原地帯がある。

 比較的に魔物の出現率は低く、先の方にある森に近づかなければ安全だ。

 

 もし魔物に出会たとしても、比較的弱い部類だと聞いている。


「お兄様! うさぎちゃん」

 

 ルナに抱っこされたウサギ。

 かなり懐いてるみたいで大人しくしてる。


「うさぎちゃん、お兄様に挨拶して」


「きゅ〜?」


 何だか分かってないみたいだが、じゃれ合うウサギとルナの和やかな雰囲気に癒やされる。


「きゅきゅ〜」


「なーに? うさぎちゃん……え? 仲間になりたい?」


 いや、違うだろう!

 絶対違うとは言えないけど……


「きゅきゅ! きゅ〜」


「私と一緒に戦いたいから連れて行け」


 そんな事言ってないだろう!

 あ、駄目だ、これ飼うパターンのやつだ!


「お兄様〜。 うさぎちゃん飼いたいです」


 ほら来た! 


 いや〜どうしたものか……今泊まってる宿って動物連れ込んでいいのか?

 ウサギなんて飼った事ないから、どうしていいかも分からない。


「分かった……宿の人が動物を中に入れてもいいって言ったら、飼おう。 駄目なら逃がす!」


「わ、分かりました。 うさぎちゃんも、それでいい?」


「きゅ!」


 本当に会話してるみたいで不思議だ。

 このウサギが普通じゃないのか?

 それともルナが変わってるのか?


 どっちもって可能性もある!


「じゃあ、そろそろ帰って宿の大将に聞いてみようか?」


「はい!」


「きゅ? きゅ? きゅ?」


 どうしたんだろう?

 帰ろうとした瞬間、抱えられていたウサギが暴れだし、ルナの手から落ちる。

 ウサギは森の方を見つめている……俺も同じ方向を見ると、人がこっちに向かって走ってきている。


 うーん……人?

 なんか引っかかる……子どもぐらいの身長で……お! だいぶ見えてきた。

 緑色の体色……うん間違いない、ゴブリンが三体。


「って、落ち着いてる場合じゃない! 早く逃げないと!」


 しまった! 魔物の接近をここまで許してしまうなんて。

 こっちには、療養して回復したばかりのルナがいるのに。

 いきなり走らせる訳には……俺がおんぶして逃げしかない。


「ルナ急いで逃げるから、俺の背中に乗って」


 いや、無理か……もうすぐ、そこまで来ている。

 逃げられないかな、せめて俺が時間を稼ぐしか……


「きゅきゅ!」


「え? うさぎちゃん戦う」


 無理無理無理!!!!!


 ウサギがゴブリンに適うはずない。

 そんな奇跡でも起きない限り無理だ。


「きゅきゅきゅ!!!」


「ゴブっ!?」


 俺達とゴブリンの距離が、あと5メートルというころで、ウサギが決死の突撃で、真ん中のゴブリンを倒してしまう。


 ウサギの行動に気を取られていると、他の二体は構わず俺に襲いかかる!


「しまった!?」


「お兄様は私が守る!」


「きゅきゅ!」


「うさぎちゃんがドレスアーマーになるから、装備して戦えって?」


「きゅ!」


 こんな時に何を言ってるんだルナは……


 俺を庇って間に入ったルナに、ゴブリンが持つ短剣が振り下ろされる。


「どれすあっぷ♡ ラッキーラビット!!!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る