二文乙六 天秤 (3)どうして俺は常時叱られて許りいるんだろ
【ここまでの粗筋】
天然系な主人公「駿河轟」は高校二年生。
強気の留学生エリーと、ツンデレでも愛情深い彼女「ベーデ」に挟まれて、全周囲から指摘しまくられる毎日。
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「ん? 一緒のとこに行くか?」
「
「…アタタタ。ひぃ…。」
またデコピンされた。
「『行くか?』って
「おおお、そうだな。俺も再度文転するかなぁ。」
「此方向きなさい!」
「…アツツッ。」
「駄目、ちゃんと自分で考えなさいよ。
「お、矢っ張り一緒の大学に行き度いか?」
「行き
「行けるに越したことはないな。」
「何、其の消極的な言い方。頑張り甲斐がないわね。」
「お前は俺のために頑張ってるのか?」
「正確に言えば、貴男と一緒に居度い自分のために頑張ってるの。」
「でも、もう抜いちゃったじゃん。」
「だったら追いつきなさいよ。」
「日本では《可愛い女の子》っていうものは、いつ絶滅したのかな。」
「何か言った?」
「どうして俺は
「はっきりしないからよ。」
「ん?」
「情けないとか、馬鹿だとか、そういうこととは別の次元で、自分の意思とか信念をはっきり言わないからよ。」
「俺は根無し草か?」
「私はそういう馬鹿な貴男と十二歳の時から一緒だから、貴男に信念があるってことは分かっている。でも、貴男はそれを中々口にしないでしょう。それどころか「出来れば言わずに済めば」、とさえ思っている。だから、それを必要としている人間から見ると腹が立つのよ。」
「『それ』?」
「そう、貴男のはっきりした意思。」
「何で他人に対して其様なものが必要なんだ?」
「あのね、一人で生きてる訳じゃないのよ。貴男のことなんてどうでも良いっていう人間なら必要ないでしょうけれど、貴男と一緒に生きている人間には貴男の意思も大事な必要なものでしょう?」
「ふーん。」
「
「アタタタ。」
「だから叱られるのよ。」
「それにしても、待ち合わせしていきなり牛丼屋ってのはどうだぁ?」
「お腹が空いてたのよ。」
「お前くらい牛丼が似合わない奴も珍しいな。」
「悪い?」
「否、一緒の店に入れるのは嬉しい。」
「でしょう?」
「こうしてると、お前が居ない、っていう状況は想像出来ないな。」
「そうよ。そういうことに感謝しなさい、って言ってるの。」
「感謝してるぞ。」
「だから、それを常に言葉にしなさいっていうのよ。」
「今、言葉にした。」
「遅いわよ。」
* * *
「ああ、そうだ!」
「何よ、いきなり。
「そう言えば、お前、俺の第二ボタンどうした?」
「え? 在るわよ。ちゃんと。」
「卒業式で、女は男の第二ボタンを持っていくけど、男は何も貰わないな。」
「あなた、私があげた閻魔様の涙、どうしたの?」
「ああ、そうだそうだ。持ってる。」
「何? それじゃ吊り合いが取れない?」
「う~ん…。」
「セーラー服でもあげましょうか?」
「!」
「馬鹿、冗談よ。あげる訳ないじゃない。」
「!」
「何真っ赤になってるの? 欲しい訳?」
僕はぶんぶん首を振った。
「鳥渡、此方向きなさい。早く!」
「アタタタ。」
「首を振ったら失礼でしょ?」
「じゃあ、欲しい…。アタタタ。」
「もっと失礼よ!」
* * *
翌朝。
ここのところ、毎朝、ぼーっとしている僕に向かって最初に声を掛けてくるのはエリーである。
「駿河、ドシマシた? オデコ赤いデスよ?」
「え? まだ残ってる?」
「ベーデさんに叱られマシたね? 何シマシた?」
「何もしてない。」
「何もしてないのに叱られないデショ。」
「何もしてないから叱られた。」
「Ah, 成る程。」
「エリー、真っ赤だよ?」
エリーは平静を装っているけれども、色が白い分、寒暖計のように感情が分かりやすかった。
「大丈夫デス。」
「何を想像したの?」
「何でもアリマセン!」
今度は耳まで赤くなっている。
「面白いな。アハハ。」
「面白くアリマセン!」
「オーストリアでは、中学校の卒業式とかに、好きな男の子に何かを貰うとかするの?」
「ハ? 何ですか?」
僕は、ベーデとの「第二ボタンからセーラー服」の件をエリーに語ってやった。
「ほら、駿河は乙女心が分かってないから叱られたデショウ? 私の言った通りデス。」
「イエスと言っても叱られて、ノーと言っても叱られて。馬鹿みたいじゃん。」
「それが乙女心なんデス。」
「君の得意な理屈で説明して呉れよ。」
「良いデスよ。鳥渡座りナサイ。」
「もう良いよ。どうせ、チマチマ小さなことを積み上げて最後に『ほらどうだ、私の言う通りだろう』、って勝ち誇るんだろ?」
「そうデスよ?」
エリーが胸を張って言い切る。
「分かったから説明しないで良いって。」
「私も来年の三月には此処を卒業デスから、駿河には、今、私が着ている此の制服をあげマショウか?」
「は?」
「アハハ、赤くなってマスよ。」
「!」
「冗談デスよ、記念に持って帰りマス。」
「じゃあ、帰るとき記念に俺の第二ボタンをあげようか?」
「!」
「何真っ赤になってんの?」
漸く白く戻った彼女の顔に再び血が注していた。
「アタタタ!」
「そういう冗談は
前日、強かベーデにデコピンされたオデコをエリーが拳骨で小突いてきた。
「冗談なんかじゃないって。本当に記念にアゲルって。」
「!」
「大丈夫か? 耳を搾ったら血が滴り落ちそうなくらい真っ赤だぞ。」
「…ホントですか?」
「ああ。君が
「あ、嬉しいデス。」
「どう致しまして。」
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