エピローグ
今日もパトロールカーが、街を巡回している。
市内パトロールが交通機動隊である彼らの日常であり、彼らの責務でもある。
いつもと違う点があるとしたら。
「バイクの方がやっぱり好きだなぁ……」
「オレはたまにはのんびり座ったまま、ってのもいいなと思ってるところだが」
とある車両の搭乗者は兵頭と草壁ということだった。
常に人と車の行きかう街は完全に平和ではないが、平穏だ。
時々、違反者がいたりサイレンを鳴らして追跡することもまた日常で……
突如、無線と警報音が車内に響いた。
断続的なその音は、繰り返されるビープ音ほど危険性は感じさせず、だが交通機動隊の二人に何かしらの危機感を持たせるには十分だった。
「近いか?」
「近いですね」
二人がそう会話をした直後だった。
ズダン! と何かが落ちてきたような音がして車の天井が気のせいかへこんだ。
アラートは特殊部隊の出動を伝えるものだった。
「あ、
移動中というよりはどこか高所から飛び降りましたといった衝撃で現れた白コートの若い警察官は、運転席の窓の方から覗き込んで来た。
逆さになる態勢で搭乗者を確認したその言葉は歯切れ悪く音を止めた。
その視線の先には、血管マークをはりつけた兵頭の姿がある。
「このクソガキ――――!!」
次の瞬間、叫ぶが二人の乗ったパトカーを踏みつけた御岳隼人はもうはるか前方まで逃げている。
拳を振り上げるどころか開けた窓から半身を乗り出した兵頭の姿に、草壁は極めて冷静に呟いた。
「兵頭さん……あの人に助けられたって聞きましたけど、謝りました?」
「誰が謝るか。いけすかん」
「兵頭さんの命の重さって……」
そしてふたりはパトロールを再開する。
特殊部隊の詰所では、最年長である
「どうしたんです南さん」
”同僚”の若者に話しかけられ閉目していた瞼を上げて、彼はその悩みを打ち明ける。
「この間、全員で出動した時、俺は同世代じゃないから見守るつもりで後ろにいたんだが……俺がお前ら18人の内に入ることはひょっとして、違和感ではないだろうか」
たった一人、年の離れた年配者であるが故の悩みだった。
推定40代(30後半かもしれない)と思しき南は若者と18人、でいつも括られていていいのだろうかという慎ましい疑問を抱いているようだ。
この最年長者は、おおらかな本人の性格もあってとても慕われている。故にその場にいた全員は大慌てでそれを否定することに全力を振り向けた。
「そんなことないです!」
「南さんみたいにいろいろ諭してくれる年長者もいないと……」
「南さんだって俺たちの同期です!」
本当に時々巻き起こる南の奥ゆかしい発言に対しては、まぁこれも日常である。
「そうか! そう言ってもらえると嬉しいな」
そして南も都度、それを素直に受け入れ本当にうれしそうな顔をする。そこへいつもどおり続く、おおらかすぎる言葉。
「大きな事件も終わったし久々に有志で飲みに行くか。おごるぞ!」
「わー!」
「南さん大好き!!!」
これらの盛り上がりに対して少し離れた場所にいた良識のある同期はこう思う。
お前ら……たまには感謝して逆におごれよ。
これはこれで特殊部隊の初期メンバー、ゼロ世代と呼ばれる18人はバランスが取れているらしい。
平穏すぎる日常だった。
この事件を発端として、警察組織内において高い機動力を誇る特殊部隊と交通機動隊の関係は大きく変わっていく。
大規模な事件・事故の際は速やかに連携する仕組みが構築され、2年後には広大な範囲に渡る事件の解決を容易にしている。
”神魔が訪れる街”東京の治安は、ほかならない
旧いもの、新しいものの混在する街。
人間と、人間に非ざる者が行き交う街。
その片隅に、目に見えない旧き想いを祀りながら。
→NEXT 番外編
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます