晴天!
ひとしきり店内でおしゃべりをした後、ドッグランに移動した。
わたあめは気持ち良さそうに芝生の上を走り回っている。白玉はかなりの犬好きらしい。わたあめの後ろをついて回ったり、ぺしゃんこの顔をずんずんと近づけたりしている。
わたあめのウェルカムな気配を察して、眠たそうな顔だったのがうそみたいに嬉しそうだ。
ペキニーズは走り方が独特で、どたばたという感じで走る。それがまた可愛いのだ。
どてっどてっと太めの足で駆けていく。
予報通り、晴天に恵まれた。気持ち良い冬晴れだ。
それでもたまに、びゅっと強風が吹くことがあって、そのたびにわたあめのアフロ頭がすごい形になっていた。一瞬のシャッターチャンスを逃すことなく写真におさめる。
気づくと、続々とわんこがドッグランに姿を見せた。
改めて、いろんなわんこがいるなと思う。体の大きさ、個体の色、体毛のクセはもちろん、性格もそれぞれ違う。
見ているだけでけっこう分かるのだ。臆病で飼い主の元から離れようとしない子。マイペースでひとり(一匹)のそのそと歩いている子。まったく遊ぶ気も運動する気配もなく、ドテンと寝転がっている子。ひたすら走り回っている元気な子。
わたあめと白玉は、いつの間にかワンプロを開始していた。
ワンプロというのは、わんこ同士のじゃれあいのこと。一見、喧嘩しているように見えるけれど、楽しんでわちゃわちゃしている。いわば遊びなのだ。プロレスのように見えることから、ワンプロと呼ばれているのだった。
しばらく遊んだあと、白玉は電池が切れたみたいに寝始めた。
「しーちゃんのほうが体力はないみたいですね」
「うちのわたあめのほうが、年上ですから」
わたあめはまだまだ元気らしい。にこにこ顔で「めちゃくちゃ楽しい!」という顔をしている。
気持ちよさそうにぷうぷうと寝息を立てる白玉は、バギーに乗せられた。
「一度寝ると、なかなか起きないんです」
気持ちよさそうに舌を出して眠る白玉は、たしかに起きる気配はない。ベンチに腰掛け、連絡先を交換してから彼女たちと別れた。
「これから、買い出しをして帰ります」
そう言って、彼女は笑顔で頭を下げる。旦那さんに寄り添いながら去っていく後ろ姿を見ながら「ラブラブだな」とほんわかした気持ちになった。
その瞬間、郡司の顔が頭に浮かんだ。片方の眉を、くいっと上げたあの表情。
「いや! あのさ!! そんなようなものって何ーーーーー!?」
ひとりになって思わず絶叫する。
すぐに冷静になって周囲をきょろきょろと見渡す。運よく近くにひとはおらず、私の叫びは誰の耳にも入らなかったらしい。
「その場限りの出まかせ、じゃないよね?」
郡司に限って、それはないと思う。違うものは違うとハッキリ言う奴だ。
「それじゃ、彼氏彼女ってこと……?」
つぶらな瞳のわたあめに向かって訊ねる。
「そうなの?」
わたあめが右に首をかしげる。
「付き合うとか、そういう口約束みたいなのはなかったんだけど。そういうものなの?」
今度は左に首をかしげる。
「いまどきってそうなのかな? おねえさんね、良い年なんだけど、そういうの分からなくてさ……」
わたあめが面倒くさそうな顔になる。
「はっ!! もしかして、さっきのがそうだったのかな? 私も『そうです』って言ったから、あれが口約束的な感じ? そうなのかな?」
完全に興味をなくしたわたあめが、ぶしゅっと鼻を鳴らす。
薄情なわんこだ。飼い主がこんなにも切々と訴えかけているというのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます