10.ぬくもりほうじ茶ラテ
束の間
仕事に没頭する日々を過ごし、やっともぎとった休日。ごろごろしながら、部屋の中でぶるっと震える。
『なんか、寒い……』
『暖房つけてないの?』
私のぼやきに郡司が反応する。アプリで通話中なのだ。
郡司の言葉で初めて、季節がすっかり冬になっていることに気づいた。
忙しさのあまり、季節を感じる暇がなかった。心地良い風を感じる秋は大好きなのに、いつの間にか夏が終わって、いまはもう12月だ。
『最近、秋ってなくない?』
秋を何ひとつ堪能した記憶がなくて、損した気分になる。異常気象のせいではないかと郡司に訴えたが、あっさりと返された。
『今年はあったよ』
『……そう?』
『それに、食べることでいうと、秋は堪能してたよ』
『え?』
きのこたっぷり和風パスタ、栗おこわ、かぼちゃの煮物、サンマの塩焼き、大学芋。郡司がこしらえたメニューを羅列され、言葉を失う。
『そういえば、食べました……』
『果物もけっこう出したけど。いつだったか、梨と柿を爆食いしてたじゃん』
確実に記憶にあるので、言い返せずに『はい』と言いつつ頭を垂れる。
『果物ってさ。自分では、なかなか買わなくて。でも食べると美味しいよねーー! ついつい止まらなくなっちゃった』
ははは、と情けなく笑う私に、郡司が天気予報の話を振る。
『次の土日は晴れっぽいんだけど』
『うん。ドッグラン日和だね!』
ずっと行きたかったドッグラン&カフェ。休日出勤の予兆もないので、私は喜んで予定を立てた。
『日曜日って、郡司くんシフト入ってる?』
『入ってるよ。土日はたいてい店にいる』
働き者だなと感心する。
『圧倒的に土日が忙しいから』
『そうなんだ』
平日は忙しい飼い主さんが、休日に合わせてやって大勢やって来るのだという。
日曜の朝、出勤前の郡司と落ち合い、わたあめと一緒にお店に行く話でまとまった。
『実はさ、土曜日は実家へ帰ろうと思って』
私の言葉に、一瞬、郡司が言葉に詰まる。
『……そう』
『この間ね、母方の祖母の三回忌があって。でも私、仕事でどうしても参加できなかったから。お墓参りに行ってくる』
毎年なんとか都合をつけていたけれど、今年はあきらめるしかなかった。
『平気?』
『大丈夫だよ!』
心配する郡司に明るく返事をする。
自分がそうだと知ってから初めての帰省だ。本当は、どんな顔をして母と会えば分からなかったけど、しんみりした雰囲気が苦手で強がった。
『戻ってきたら話、聞くから』
ぶっきらぼうだけど、やさしい声だ。
『うん。ありがとう……』
不安な気持ちを見透かされているような気がした。強がる決意が壊れそうで、余計に泣きたくなった。
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