手作りごはん

 しばらくすると、詳しいレシピが送られてきた。


『男友だちにさ』


『うん?』


『すぐ近所に行くだけでも絶対、車のナビ入れるやついるんだけど。それと同じ?』


『まさにそれ。私は食べ飽きるほど食べてるオムレツ作るときでも毎回、レシピ見てるよ!』


 顔も知らない友人とやらに親近感が湧く。基本に忠実。これに勝るものはない。


『ふーん』


『一見、面倒だと思うことでもね、基本に忠実が一番の近道なんだよ。車だけに』


 せっかく上手にオチをつけたのに、郡司からの返信はなかった。けっ! と思いながら冷蔵庫を開ける。


 きれいに整理整頓されている。鶏の胸肉を取り出す。ブロッコリーと人参は野菜室で見つけた。


 全部同じ大きさに切る、とレシピに書いてある。


 ドライフードと同じか、少し大きめのサイコロ状らしい。包丁で切るだけなら、そこそこ年季が入っているので問題ない。


 ブロッコリーは茎を切り落とし、房は包丁の先の部分で小分けにしていく。茎の部分も食べられるので、かたい外側をカットしてからダイス状にする。


 人参は皮を剥いて……、そこで手が止まった。まず縦に包丁を入れるか、輪切りにしてから細かくするか。料理苦手女子あるあるだ。


 とりあえず、最終的に小さくなればいいか! と思い、ザクザク切っていく。苦手なくせに、やたら思い切りがいいのも特徴のひとつではないかと思う。


 鶏肉も同じように、小さくなればOKの心意気でカットする。


 手鍋を準備し、水を少量いれて火にかける。ふつふつするまで待っていると、わたあめが視界に入った。にじり寄るようにして、おすわりの態勢のまま、ずいっ、ずいっと距離を詰めてくる。


 おめめはキラキラしている。これは間違いなく、期待しているときの顔だ。


「んまぁーー! わたあめちゃん♡ ごはん作ってるの分かるの? えらいね~~!」


 そうだよ! と言わんばかりに、ぺろんと舌なめずりをする。


「まぁまぁまぁ♡♡ ずっと食べたかったんだね♡ もう少しで出来るからね~~♡♡」


 客観的にいうと、妙な口調でひとりごとを呟くアラサー女子ということになり、ものすごく不気味なのだけど、誰にも見られていないので深くは考えないことにする。


 カットした鶏肉、ブロッコリー、人参を鍋に入れ、火が通るまでコトコト煮る。


 もちろん、火加減や水の分量も確認した。レシピ通りの時間で火を止める。煮汁が少し残るくらいがベストと書かれており、鍋を傾けるとトロッとした煮汁があったので胸を撫でおろす。


「できたーー!」


 あとは、冷めるのを待つだけ。


「わたあめちゃーーん♡ できましたよ~~!」


 ひたすら、わたあめと遊びながら待った。ふわふわの体毛を触ると、なんともいえない愛しさがこみあげる。抱っこしたり、肉球の感触を確かめたり。あっという間に時間は過ぎていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る