不満げ?

 散歩が終わると、わたあめ歓喜のごはんタイムだ。


『キッチンに一食分あるから』


 部屋に戻ってキッチンスペースをのぞくと、郡司の言う通り、わたあめのごはんが準備されていた。


 器にこんもりとドライフードが盛ってある。きちんと毎食、グラムを計って与えているらしい。ちなみにドライフードというのは、水分含有量低いカリカリタイプ。重量当たりの栄養価が高いのが特徴だ。


 わたあめは、所定の位置らしい場所できちんとおすわりして、ごはんを待ち構えている。舌なめずりをして、もう待ちきれないといった感じだった。


「はいっ! どうぞ~~!」


 そう言ってごはんを置くと、シュババッとこちらに飛んで来た。顔を器に突っ込むような格好で、ガツガツと食べ始める。


 ものすごいスピードだ。次に顔を上げたときには、器の中にはフードが一粒の残っていなかった。


 ぺろりと平らげたにもかかわらず、名残惜しそうに器のフチをぺろぺろと舐めている。


 しばらくすると諦めたのか、ごはんの横にある水を飲み始めた。


 ぺちゃぺちゃと音を立てながら、可愛い舌が水をすくいあげている。


 息継ぎは大丈夫なのだろうか、と心配になるくらい長い時間をかけて水を飲み続け、ようやく顔を上げた。


「ん? なんか、不満げな顔だな……」


 わたあめは、明らかにぶすっとしていた。


 前脚でたしっと、ごはん入れにタッチしている。


 どうしたんだろう? 量が少なかった? まだ食べ足りないのだろうか。でも、毎回きちんと計量した分をあげていると言っていたし……。


 スマートフォンを取り出し、ささっとメッセージを送る。


『わたあめ、ごはん全部食べたんだけどね。なんか、満足してなさそうなんだけど……?』


 壁一枚隔てた場所にいる郡司から、メッセージが返ってくる。


『野菜と鶏肉のやつがないからだと思う』


 何だそれは?


 詳しく郡司に確認すると、どうやら毎食手作りごはんを与えていたらしいことが分かった。ブロッコリーやさつまいも、鶏むね肉を小さめにカットして火を入れ、柔らかくなったものをドライフードの上にかけていたという。


 郡司が風邪を引いてからは、その手作りごはんが無くなってしまったのだ。


『なるほどーー! ドライフードだけしかもらえないから、わたあめはプンプンしてるんだね』


『プンプンしてんの?』


 フンッと鼻を鳴らしながら、わたあめはごはん入れを前脚でつついている。その様子を郡司に送信した。


『めっちゃ文句言ってるな』


 自分の気持ちを素直に表現しているわたあめの姿に頬を緩めつつ、腕時計で時間を確認する。まだ余裕がありそうだ。


『私が作ってもいい?』


『今から?』


『そう』


『仕事は?』


『まだ平気だよ』

 

『じゃ、たのむ』


『おっけーー! レシピ送って』


『レシピとか大層なもんないけど。切って煮るだけ』


 郡司のメッセージを見て、思わずため息が出る。料理苦手女子を舐めてもらっては困る。どれくらいの大きさに切るとか、どの順番で鍋に入れるとか、水の量とか火加減とか。 


 目分量で料理した結果、大惨事になった経験が幾度とある。


 子どもの頃、母に代わってよく料理をしていたけど、それでも上達したいのだから私は立派な料理オンチだ。


 自分が口にする分にはいいけれど、わたあめに失敗作を食べさせるわけにはいかない。

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