うれしいレシピ

「ステーキ?」


 うれし過ぎて目が輝いてしまう。


「サラダ用だから、そんなに大きくないけどな」


「うん。でもステーキ?」


「まぁ」


 小さくてもステーキはうれしい。さっそくお箸を手に取り「いただきます」をする。


 最初に食べるのは、もちろんステーキのサラダ。サイコロ状にカットされた牛肉とレタスを一緒に口に入れる。


「しみる~~!!」


「口のなか怪我でもしてんのか」


 そんなわけあるかい。


「みなぎるーー!」


「あっそ」 


 郡司のツッコミを軽くスルーしながら、もしゃもしゃとサラダを食べる。やっぱりお肉はすごい。口のなかに入れた瞬間、ぎゅわーーっと力がみなぎる感じがする。


 まだ熱々でやわらかいお肉と、パリッとしたレタスの食感がおいしい。わさびソースはピリリとして、けれど甘さも感じる。この甘みはソースに入っているみじん切りされたオニオンのおかげだろう。


 サラダとはいえ、ほとんどメイン料理だ。


 ほかほかのごはんを口いっぱいに押し込みながら、至福のもぐもぐをする。


 幸せな気持ちで咀嚼していると、なんとなく献立のメモに視線がいった。今さら気づいたことがあるのだけど、口のなかがいっぱいで会話ができない。


「んっ! んんっ!!」


 メモを指さしながら、郡司を呼ぶ。


 ダルそうに「なんだよ」と言いながら、郡司が大きめの皿を持ってこちらに来た。


「たま……、たまごっ……!」


 なんとか少し飲み込んで、なんとか単語を発する。あまりにもステーキの文字に目が行き過ぎていた。


「食べたいって言ってたじゃん」


 そう言って、手にしていた大皿を私の目の前に置く。


「オムライス!!」


 黄金色に輝くオムライスの上に、あんかけがとろ~りとかかっている。刻み海苔と細切りの大葉が飾られていて、なんともおしゃれな一品だった。


 メモにある通り、出汁の良い香りがする。オムライスといえば洋食のイメージだけど、これは完全に和風だ。


 スプーンで皿の縁の部分、あんかけのところをそっとすくう。


「とろとろ~~! 出汁~~!!」


 熱々のあんかけがすごくおいしい。我慢できなくなって、オムレツの部分にざっくりとスプーンを入れる。中はバターライス。胡麻としらすがたっぷり入っていた。


「あっさり味だけどおいしい!」


 ごまの風味と、しらすの塩味。上品にまとめられたバターライスと出汁の旨味たっぷりのあんかけが合う。刻み海苔と大葉は味変としても楽しめて、すごく満足感のある一品だ。


 そして最後は、大根と白味噌のポタージュ。


 ポタージュスープに大根と白味噌を使うって、どこからそんなアイデアが出てくるのだろう。


 白味噌は、ほんのり甘かった。大根のわずかな苦みと合わさって、初めての味なのにどこか落ち着く。熱々でとろとろのポタージュをすくう手が止まらない。


 連続で熱々のものを口に入れたせいで、少し汗ばんできた。


 パタパタと片手で顔を仰いでいると、郡司がクーラーの温度を下げてくれた。


「ここ数日は気温が低かったから」


「うん。あ、それであったかメニューなの?」


 そっけない顔の郡司が頷く。


 表情は冷たいのにちゃんと気遣いをしてくれているところ、めちゃくちゃポイント高いな! と、何目線か分からないジャッジを下す。


 ちなみに、もう少し蒸し暑ければ玉子豆腐にしようと考えていたらしい。のどごし最高、つるんとおいしい玉子豆腐。それはそれで良かったな、と思う。それにしても。


「気温のことまで考えてるなんて、郡司くんはプロだな~~!」


「いや、ただのバイトだし」


「勤務形態がアルバイトだとしても、お金をもらってごはんを作ってるんだから、プロだよ」


 味だって最高においしいし、好みとか、他にも色々考えてくれている。間違いなくプロだ。すばらしいプロフェッショナルの味を堪能できて幸せだなぁと、私はポタージュをすすりながら思った。

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